眼瞼下垂症の病態生理

眼瞼下垂症を機能解剖、神経生理学から見る

まぶたが持ち上がるメカニズム

まぶたを持ち上げる筋肉を眼瞼挙筋(がんけんきょきん)といいます。

眼瞼挙筋は眼窩(眼球が収まっているソケット状の構造)の奥から、眼球の上を回り込んでまぶたの縁(ふち)につながります。(図1,2)

 

横顔眼窩

図1. まぶたの解剖(横から)

眼瞼の解剖

図2. まぶたの解剖。眼瞼挙筋は目の奥から目の玉の上を回り込んでまぶたの縁に繋がる

眼窩上方から眺めた解剖

図A. 眼窩上方から眺めた解剖。A:眼瞼挙筋 J:挙筋腱膜

出典:『BEARD’S PTOSIS 眼瞼下垂』メディカル葵出版

まぶたの奥の解剖

図B. まぶたの奥の解剖。D:眼瞼挙筋 B:上位横走靭帯(Whitnall’s ligament)

出典:『BEARD’S PTOSIS 眼瞼下垂』メディカル葵出版

眼瞼挙筋は遠位部(まぶた近く)で茶色の筋肉成分から白いシート状の腱成分になります。(図3参照)これを挙筋腱膜と言います。

眼瞼挙筋が縮むと、眼瞼挙筋腱膜(図2の②,図AのJ)を通してまぶたの縁にチカラが伝わり、まぶたが持ち上げられます。

一方、眼瞼挙筋腱膜はもともとルーズな構造をしています。繋がりかたに滑り(あそび)があります。眼瞼挙筋がギュッと収縮しても、すぐにまぶたが持ち上がるのではなく、少し遅れてまぶたが持ち上がります。

まぶたの解剖の写真

図3. まぶたの手術の時に見える眼瞼挙筋

眼瞼下垂の病理

眼瞼下垂症とは、まぶたが下がる病態を指します。

歳をとって年月が経過すると挙筋腱膜が劣化し、伸びてしまいます。腱膜の劣化が進行すると、ぶたの縁にある瞼板(けんばん)から挙筋腱膜がはずれていきます。

その結果、眼瞼挙筋の力が伝わりにくくなり、まぶたが持ち上がりにくくなります。

この病態を腱膜性(けんまくせい)眼瞼下垂症(がんけんかすいしょう)といいます。

老化と物理的刺激(まぶたをこするなど)による、まぶたの構造的な破綻現象です。

眼瞼下垂症初期は眉を挙げ(おでこにしわを寄せて)、眼瞼挙筋を過収縮させてまぶたを持ち上げます(代償期)。眼瞼挙筋の予備力でまぶたをあげている状態です。

かなざわ
例えると、メインの発電システムが機能しなくなり、別のバックアップ発電システムがフル稼働して電力を供給している状態ですね。

さらに病態が進行するとまぶたがもっと下がり、視野をさえぎるように(非代償期)なってきます。予備力の限界を超えた状態です。

かなざわ
例えると、バックアップ電源もオーバーヒートしてついに電力不足になった状態ですね
  • 代償期:まだ視野が狭くない。不顕性。
  • 非代償期:視野が狭くなった状態。
開瞼(かいけん;目を開けること)の抵抗成分(靭帯、脂肪、眼輪筋など)が発達しているとまぶたを持ち上げる力に対してブレーキがかかります。結果、まぶたが重く感じられます。これも広義に眼瞼下垂に含めることもあります(議論もあります)。

症候性眼瞼下垂症

腱膜性眼瞼下垂症とは異なり、病気で眼瞼下垂になることがあります。眼瞼挙筋が病的にチカラが弱り、まぶたが下がります。眼瞼下垂の分類を参照

  • 筋原性疾患:重症筋無力症、ミトコンドリア脳筋症など
  • 動眼神経麻痺:脳血管障害、脳腫瘍、ウィルス感染症など
  • 神経変性疾患:ニューロパチー、ジストロフィ

などです。生まれつきにまぶたの動きが弱い場合を先天性眼瞼下垂症とよびます。

眼瞼下垂と神経生理学

上まぶたへの負荷に対する反射のメカニズム

上まぶたに負荷がかかると、関連する筋肉が反射で収縮するため、無意識下に筋緊張が起こります。上まぶたへの負荷によって交感神経が刺激されます。

まぶたの重さを感知するセンサー(固有知覚の受容体)(関連記事)が眼瞼挙筋腱膜の裏(結膜側)にあります。ミュラー筋(関連記事)と呼び、筋紡錘(注1)を持たない眼瞼挙筋の筋紡錘としての役割を担っています(図2の③)。

ヒトが開瞼(まぶたを開く)するときには、まず眼瞼挙筋の速筋がミュラー筋を引っ張って刺激します。ミュラー筋に生じたシグナルが脳幹を介して眼瞼挙筋の遅筋(注2)を収縮させ、開瞼を維持(まぶたを開け続ける)します。

まぶたの手術時の写真

ミュラー筋が挙筋腱膜と瞼板との間に見える。ミュラー筋は挙筋腱膜の裏にある。

加齢や機械的な刺激により挙筋腱膜が緩んでくると、ミュラー筋にかかる伸展ストレスが大きくなり、ミュラー筋からの信号が脳幹を介して前頭後頭筋を収縮させます。そのために眉毛が上がり、肩こり・筋緊張性頭痛がおきます。これも無意識に起こります。

また、ミュラー筋からの信号は青斑核(注3)を介して交感神経を刺激します。さらに、まぶたを持ち上げるためにミュラー筋自体を収縮させようと歯をかみしめて歯根膜(交感神経スイッチ)を刺激し、交感神経を賦活します。これらのことが慢性の交感神経刺激症状(不安障害、めまい、睡眠障害)を引き起こすと考えられています。(『まぶたで健康革命』より)

腱膜性眼瞼下垂が進行すると、眼瞼挙筋のチカラに頼れなくなります。それを補うべく、前頭筋やミュラー筋の力に依存する、生体の代償機構が働くわけです。

※生まれつき目の細い、いわゆる東洋人らしい目つきをした人は開瞼抵抗(注4)が強く発達しています。まぶたを持ち上げための負担が大きく、若い時から症状が出現する傾向があります。

注1)筋紡錘:筋肉の伸びを感じるセンサー。たとえば膝蓋腱反射はこれを刺激することにより起こる。

注2)速筋、遅筋:速筋に対して遅筋は疲れない筋肉。赤身の魚は遅筋優位。

注3)青斑核:ノルアドレナリンを放出する、いわゆるアクセル役。中枢の交感神経。

注4)開瞼抵抗:眼輪筋、眼輪筋下脂肪(隔膜前脂肪)、横方向の各種靭帯や眼窩隔膜、挙筋腱膜自体の横方向の緊張など。瞼を開けるための拮抗成分。挙筋の運動をアクセルとすると、開瞼抵抗はサイドブレーキ役。

参考文献:

◎Fujiwara T, et al. Etiology and pathogenesis of aponeurotic blepharoptosis. Ann Plast Surg. 2001; 46(1): 29-35.

◎Sultana R, et al. Disinsertion of the levator aponeurosis from the tarsus in growing children. Plast Reconstr Surg. 2000; 106(3): 563-70.

◎Matsuo K (2002) Stretching of the Mueller muscle results in involuntary contraction of the levator muscle. Ophthal Plast Reconstr Surg 18: 5–10

◎Matsuo K. Restoration of involuntary tonic contraction of the levator muscle in patients with aponeurotic blepharoptosis or Horner syndrome by aponeurotic advancement using the orbital septum. Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg. 2003; 37(2): 81-9. 関連記事

◎Yuzuriha S, Matsuo K, Ishigaki Y, Kikuchi N, Kawagishi K, Moriizumi T (2005) Efferent and afferent innervations of Müller’s muscle related to involuntary contraction of the levator muscle: important for avoiding injury during eyelid surgery. Br J Plast Surg 58: 42–52.

◎Yuzuriha S, Matsuo K, Hirasawa C, Moriizumi T (2009) Refined distribution of myelinated trigeminal proprioceptive nerve fibres in Müller’s muscle as the mechanoreceptors to induce involuntary reflex contraction of the levator and frontalis muscles. J Plast Reconstr Aesthet Surg 62: 1403–1410.

◎Eyelid Opening with Trigeminal Proprioceptive Activation Regulates a Brainstem Arousal Mechanism.
Matsuo K1, Ban R1, Hama Y1, Yuzuriha S1. PLoS One. 2015 Aug 5;10(8)

 

腱膜性眼瞼下垂症になる原因

挙筋腱膜の遠位端(端っこ、まぶたのまつげの近く)は瞼板と瞼板前(あたりの)皮膚と眼輪筋につながります。連結する構造は極めてルーズ(疎)であり、物理的な刺激で容易に緩んできます。そのため、以下の原因で腱膜性眼瞼下垂が進行します。

さらに、加齢により挙筋腱膜が劣化して腱膜性眼瞼下垂は進行します。

 

セルフチェックで診断できます。

眼瞼下垂症の治療を見てみましょう。