その患者さんを初めて目にして、私の身体は思わず震えました。経緯を聞くまでもなく、その道のりが壮絶だったと想像できたからです。
けれども、わたしが動揺してはいけません。大切なのは、まず患者さんに安心していただくこと。その姿勢を優先しました。…以後の経過は後半で。
思考実験です(思い浮かべてください)。
僕らの手には生命線がありますね。グーパーすると分かりますが、物を掴んだり、ピンチ動作する時に深く折れるシワです。私はこれを機能的なシワと呼びます。
想像してください。もし、ここで折れ曲がることができなかったら?(この生命線の上に固〜いセロハンテープを貼ってみてもいいでしょう。)
グーパーが急に窮屈に感じられ、ぎこちなくなるはず。つまり生命線は、運動に適した折れ線(谷間)であることがよくわかるでしょう。生命線はその場所でないとダメなんです。運動をさまたげないシワ。運動を円滑にするためのシワなのです。
まぶたの術後の機能障害
切開された部分は硬い瘢痕になります。この場合、意識すべきは「柔らかいカラダ」ではなく「精密な機械」です。
この場合、折れる場所の許容範囲が限られます。機械のジョイントです。扉のヒンジ。わずかなズレが機能に影響します。
(切開した時点で、柔らかい軟体動物であるという意識は捨ててください)
CDプレイヤー(最近は見なくなった)からベローっとCDの受け皿(トレー)が出ますよね。歯車が壊れたら動かないし、傾いても、どこかでモノが詰まってもトレーは出たり引っ込んだりできなくなる。あのイメージです。ピタゴラスイッチみたいなギミックの世界。
つまり、まぶたの術後に機械的なエラーが起こると、
- 開かない
- 閉じない
- 目の奥が突っ張る
といった症状に悩まされます。見た目以上に深刻な機能障害が起こります。
解決の鍵は「機能の最適化」
根本的に改善するためには、前葉と後葉とのバランスと、両者の”滑り(グライディング)”の関係を最適化しなければなりません。
ここで大事なのは優先順位です。優先度は、機能の回復>整容面です。「両者を一発で治すのが外科医だ〜!」ってカッコつけたいところですけどもね…
私は病気を治すために医師になりました。だからこそ機能回復に全コミットします。
「両者を同時に治す」なんて実現可能性の低いことを偉そうに言った挙句、整容面と機能、両者とも改善が叶わなかったというシナリオ、、いやというほど見てきました。
でもね。だから「整容面改善は無視か!」とがっかりしないでください。
機能が回復するだけで、失われていた整容面が自ずと取り戻されていきます。つまり機能回復そのものが、整容面の改善につながるのです。
実際の症例から
眼瞼下垂の手術後から目周りの異常感覚に悩まされているとの訴え。「見た目も気になる」と。私は信念を持って念を押します。「そうですね。ですが、まずは機能です。機能です。」
とはいえ、まだ2ヶ月余り。まずは経過観察(=待機期間)です。
(ところで少し想像してみてください。患者視点で、「目の前の医師に修正手術を託せるか?」という問いもあるはずです。この点に対して私がどう振る舞うべきか、いまだに答えを出せていません。)
前医の、丁寧かつ詳細な診療情報を手掛かりに手術を行いました(ここだけの裏話)。情報通り、硬くて出血しやすい体質のようでした。
前葉と後葉の位置関係をリセット。組織切除はゼロ。(ここで、おどろおくべき初めての所見に出くわしましたが、ここでは割愛します(Instagramで記載)
左右別々の日程で行い、機能が改善したことを見届けてから、左の形を整える手術を行いました。


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くどいようですが、組織は足し算も引き算もしてません。
まずは機能障害からの回復。この点については半分程度改善が認められました(半分は残っています💦)。ここまで来たら、機能回復に限っては、私にできることはこれ以上はありません。痙攣に対してボツリヌス治療をするくらいです。
あとは「どう整えるか」ですが、過度の外科的侵襲は症状を再び悪化させるリスクがあります。判断は慎重に。
以上は、金沢の視点による個人的解釈です。他の先生のところに行ってこの話はしないでくださいね😊あなたの心のうちに納めておいてください。
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参考
金沢雄一郎:機能再建を中心とした眼瞼下垂症手術 PEPARS no.160 2020.4
余談
「あなたはアーティスト?それともエンジニア?」
明確に答えることができます。エンジニアです。鍵盤が沈まないピアノは音を奏でません。針が動かなければ時計は時を刻まないでしょう。動いてこその命。機能のデザインが鍵。まぶたの機能を再建する仕事。まぶた内部は仕組み(ギミック)の集積回路なのです。
あとがき
昨年秋は左の五十肩に悩まされました。3~4ヶ月かかりました。しんどいです。でもいつかはよくなる。待てばよくなるはず。待つ気持ちは患者さんと同じ心境かもしれませんね。そして治りました。
ところが、3月から左の上腕骨外側上顆炎(テニス肘)を発症しました。フライパンを振り回しすぎたようです。一難去ってなんとやら💦こちらももうすぐ3ヶ月ですが、治る気配を感じません。長期戦に突入です。痛みって精神(メンタル)を消耗しますよね。「痛いよ〜」って訴える患者さんの気持ち。本当にわかります。
追記)治りました💪

眼瞼下垂手術のリスク、併発症(合併症)
<短期的なもの>腫れ、出血、感染、傷の離開、目の閉じにくさ、視力の変化、ふたえの線の乱れ
<長期的なもの>眼脂(めやに)・涙の増加、眩しさ、まぶたの腫れぼったさと赤み、稗粒腫、霰粒腫、縫合糸の露出、目の違和感・ツッパリ感、皮膚のしびれ・痛み、目立つ瘢痕、低矯正・過矯正
<仕上がりに関するもの> 左右差、眉毛下垂・顔貌の変化、まぶたの見かけに対する違和感、眼瞼下垂の再発、眼瞼けいれんの顕在化・悪化
左右眼瞼下垂他院修正手術:55〜90万円程度

