先天性、後天性に分類
先天性:生まれつきに「眼瞼下垂」を持つということです。congenital。
- 眼瞼挙筋自体の異常
- 眼瞼挙筋を動かす神経のエラー (例:Marcus Gun 症候群)
- 瞼裂狭小症候群
- その他(生まれもった細い目もこちらに分類されることもある)
遺伝性(家族性)のものもあれば、そうでないものもあります。
後天性:生まれた時には異常が見つからないが、何かをきっかけに上まぶたが上がりにくくなること。先天性の眼瞼下垂を除いたもの。acquired, involutional。
- 加齢
- 外傷
- 病気
- 物理的ストレス
などを契機に発症します。
通常の眼瞼下垂手術が対象にしているのはこの「後天性」です。
病理学的に分類(機械論的に)
まぶたが上がらない原因、要因にフォーカスします。こちらの方が科学的な態度です。
”先天的”とか”後天的”の単語を考えに入れなくなってはじめて、論理的な分類ができるようになったと思われる。
引用:『Bear’s眼瞼下垂』(第4版)
筋原性:眼瞼挙筋やミュラー筋自体のトラブル
まぶたを動かす筋肉そのものが病的でうまく働かない(収縮できない)状態。
外眼筋(目玉を動かす筋肉)が侵されるために複視(物がダブって見える)になることもあります。
- 重症筋無力症:夕方になると階段が辛い。アセチルコリンレセプターに対する自己抗体。関連記事1
- 筋ジストロフィー:筋肉自体の病的変性
- 眼咽頭ジストロフィー
- ミトコンドリア脳筋症:慢性進行性外眼筋麻痺を含む。ミトコンドリアの異常によるエネルギー代謝障害。
- 原因不明の発育異常
一時的なものとして
- ボツリヌス毒素注射:眼瞼挙筋の筋弛緩(麻痺)
- 局所麻酔薬:眼瞼挙筋の麻痺、ミュラー筋の麻痺
これらは薬剤の効果が切れれば戻ります。時間が解決します。
腱膜性:挙筋腱膜の連結のゆるみにより挙筋のチカラが伝わりにくい状態
いわば「アキレス腱が切れちゃった」「スジが伸びちゃった」状態です。ミュラー筋が働いているうちは眼瞼下垂は顕在化しません。
- 老人性、加齢性
- 外傷や応力:ケガ、白内障手術、コンタクトレンズ長期使用、切開重瞼術、目をこする癖、むくみやすいまぶた
- 妊娠後:リラキシンによる膠原線維の緩み、浮腫などによる
神経原性:筋肉を動かす神経のエラー
3番目の脳神経、動眼神経が眼瞼挙筋へ指令を伝えます。その伝達が滞ると筋肉は正常に働けなくなります。もうひとつは交感神経の麻痺で、ミュラー筋の機能も落ちます。
- 動眼神経麻痺:動脈瘤、帯状疱疹、脳梗塞
- 腫瘍摘出後:涙腺神経切断
- ホルネル(Horner)症候群:交感神経麻痺(外科手術、神経ブロックなど)
- マーカスガン(Marcus Gunn)症候群
- 多発性硬化症
- ニューロパチー(神経炎):糖尿病、ギランバレー症候群
- 群発頭痛:自律神経の関与か?
- SUNCT症候群:自律神経の関与?
機械的、構造的な問題
- 腫瘍:物理的に開瞼(かいけん:目を開くこと)を邪魔する
- 瘢痕:やけどやケガのあとで組織が硬くなり、まぶたが挙がりにくくなる
- 異物:異物が開瞼の邪魔をする。埋没法の糸、木片…など
- 瞼裂狭小症候群:まぶたの縦方向および横方向ともに狭く短い。
- 眼球陥凹(目が落ちくぼむ事):眼窩容積の拡大。相対的な挙筋長の余り。加齢。
- 皮膚弛緩:皮膚の垂れ下がり(加齢性、前頭筋麻痺による眉毛位置の変化)
- 生まれつき(遺伝的に)に厚ぼったいまぶた
- 埋没法重瞼術:まぶたの動きがロッキングされる
- その他
その他:分類しにくいもの、一過性のもの
- 炎症による腫脹:虫刺され、打撲、アレルギー
- むくみ:泣いた後、甲状腺機能低下
- 眼輪筋の緊張亢進、開瞼失行、失調症:眼瞼けいれん、錐体外路疾患、眼球使用困難症
意外にも多いのが眼輪筋の緊張亢進(眼瞼けいれん)です。視野が狭くなってきたのに眉が挙上されていない、しかめつらをしている場合は疑われます。
おわりに
単に「眼瞼下垂」といってもこれだけの要因があるのですね。病気って、ある日突然かかるものもあれば、気づかないうちに少しずつ進行しているものもあります。
おまけに、まぶたの構造の個人差(骨格、性差、年齢、栄養状態…)に大きなばらつきがあります。
だから診断て、簡単ではないのですね。
参考
○BEARD’S PTOSIS 『眼瞼下垂』(第4版)Michael Callahan and Crowell Beard メディカル葵出版