「眼瞼下垂を予防するためには、コンタクトレンズをやめたほうがよいのでしょうか?」
よく聞かれる質問です。ご存知でしたか?コンタクトレンズが知らず知らずのうちにまぶたの中を壊していたのです。
なぜそのようなことが起きてしまうのでしょうか?
コンタクトレンズの着脱を毎日していると想像すると、シャワーやトイレ、食事、睡眠と同じくらいの当たり前の習慣ですよね。
コンタクトレンズの歴史も50年になろうかとしています。データも蓄積されてきました。現場の臨床医としての経験から考察し、文献と合わせて解説します。
なぜコンタクトレンズの着用が眼瞼下垂をもたらすのか?原因が複数考えられます。
組織解剖的要因:もともと腱膜の連結が緩い
挙筋腱膜の「まぶたの縁への繋がり方(連結の仕方)」は、きわめてルーズであるという解剖学的事実があります。(眼瞼下垂の治療をしている形成外科医、眼科医ならば知っています。)手足の骨格筋のように、骨に筋肉がガッチリと固定されているわけではありません。
引っ張ったり、打撲したり、怪我するだけで連結がズルッと外れてしまう、極めて緩い構造なのです。物理的な刺激で緩みやすいのです。
つまりコレが諸悪の根源。
物理的(機械的)刺激が緩みを加速する
緩みを加速させる要因です。下記の文献などで指摘されていることです。
- ハードコンタクトレンズを外すときに、まぶたを横に引っ張るために腱膜が緩む(外れる)。
- まぶたき(一日2万回)の度に、コンタクトレンズの厚みを瞼結膜が乗り越えるので、ミュラー筋が伸ばされてしまう。
- コンタクトレンズによる異物としての刺激が眼輪筋の緊張を高める。眼輪筋が眼瞼挙筋の収縮に拮抗してしまい、結果的に腱膜が伸ばされる。
- 目の乾燥により、まばたきの抵抗が大きくなり、挙筋腱膜が引っ張られる。
- コンタクトレンズと結膜との接触によりまぶたに炎症を起こし、変性をもたらす。
- 異物感、ドライアイによるかゆみなどが、目をこする行為や過剰なまばたきを促してしまう。
他、ソフトコンタクトレンズを外すときにまぶたをギュッと持ち上げる行為も。
3.についてはコンタクトレンズを装用した瞬間から明らかに「強直性眼瞼けいれん」を発症する方もいました。
これらのいくつかの仮説は複合的に影響しているかもしれませんし、未知の要因もあるでしょう。
筆者の個人的な意見
コンタクトレンズを長期に渡って使用していた眼瞼下垂患者さん。まつ毛が上むきになっている人が多いです。つまり、「まぶた後葉の下垂」なのです。ミュラー筋が機能していません。
それを補うべく前頭筋の力をフル動員してまぶた前葉を持ち上げています。その結果、まつ毛が外側にローテーションします。
ハードの方が多い?
臨床経験的には、眼瞼下垂症を発症している方にはハードコンタクトレンズ長期使用者が多くいる印象。
ではソフトコンタクトレンズは安全でしょうか?
ハードコンタクトレンズのほうが歴史的に古く、日本で販売された期間が長いです。着用歴30年40年というヒトはハードコンタクトレンズ着用者が多いのです。
今後ソフトコンタクトレンズ長期着用者の眼瞼下垂症が目立ってくるかもしれません。と言ってるそばから、下記に紹介する論文のようにソフトコンタクトレンズでも下垂になるとのデータが出てきました。
ところでコンタクトレンズと眼瞼下垂との関連は古くから指摘されているってご存知でした?
参考:
◎「コンタクトレンズ使用が原因と思われた眼瞼下垂患者5人」
※なんと1981年に指摘されていたんですね。世界で初めての報告と言われています。
◎「17人のハードコンタクト着用の眼瞼下垂と退行性眼瞼下垂患者73人で調査を行った」
※ちなみにレンズの着脱にスポイトを使用していて下垂になった人が2人いたとのこと。
◎「35人の調査。ハードだけでなくソフトも眼瞼下垂の原因」
◎「システマティックレビューとメタ解析。n=7426。ハードコンタクトは眼瞼下垂の原因。」
◎「日本人女性では、長期間のハードコンタクトレンズの装用と眼瞼下垂に強い相関が認められた。」
◎「双子で比較。ハードもソフトも眼瞼下垂の原因に。とくにハードが大きい」
◎「強度近視と年齢、ハードコンタクトレンズの長期使用は眼瞼下垂のリスク因子」
コンタクトレンズは避けたほうが良いのか?対処法は?
まぶたを保護する観点からは控えたほうが無難。メガネで代用できればそれに越したことはありません。
一方「乱視が強くてハードコンタクトレンズでしか視力が矯正できない」という事情を持つヒトもいます。
だから一概に「コンタクトレンズの使用をやめて!」とも言えません…
視機能とのバランスをみて判断しましょう。
今日からできる対策は、コンタクトレンズの着脱を優しくすること。
くれぐれも乱暴にまぶたを引っ張らないでください。
スポイトを使用するのもいいかもしれません(詳しくは分かりません)。
- 手術後ですが、再び眼瞼下垂が進行しないようにするためには、今後はコンタクトレンズを使用しないほうが良いの?
-
まぶたを保護するためにはコンタクトレンズは避けたほうが良いでしょう。しかし、再び下垂が進行するのに年月がかかります(すぐに下垂が再発する可能性もゼロではないが)。自分の寿命を考慮して考えて下さいね。
モデルケース
ケース1
コンタクトレンズを長期間使用していた患者さんの治療前後です。

以下のページで、その経過を詳しく述べています。

ケース2
ハードコンタクトレンズによる眼瞼下垂の患者さんの挙筋腱膜にはある特徴があります。 それは広く長い挙筋腱膜です。(もちろんすべてではありません) 。挙筋筋体(muscle belly)自体は奥に後退しているのを目視で確認できます。しかしそれを補うように腱膜が長くなっています。

手術中の動画で広い挙筋腱膜を確認できます(年齢制限付きの動画)。
まとめ
以上、
- コンタクトレンズの使用が眼瞼下垂を進行させること
- その原因の考察
- ハードコンタクトの文献
を提示しました。
さて、あなたは、
- コンタクトレンズを20年以上使用していますか?
- コンタクトレンズが眼瞼下垂をもたらすかもしれないって理解できましたか?
- コンタクトレンズを使わない選択肢はありますか?
ぜひ、あなたのまぶたを大事にしてあげてくださいね。
追伸
わたしもかつてはハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズを着用しました。でも自分には合いませんでした。ゴロゴロする異物感に慣れることができなくて。
中学生からの眼鏡っ子。大学生の時にコンタクトレンズを試しました。その時、家族から「お前じゃないみたい」と「素の自分の存在」を否定されたときのショック😭
今は近視手術のおかげでストレスフリーです😘


