左右差のある先天性眼瞼下垂症の治療の選択はなぜ難しいのか?

生まれつきの眼瞼下垂症。
眼瞼挙筋が動かない場合は筋膜移植もしくは人工素材移植での吊り上げが適応に。
眼瞼挙筋に多少の動きがある場合は、挙筋前転が試みられます。
ところが現実問題として左右両側の先天性眼瞼下垂で、重症度に左右で違いがある場合も。
治療の選択肢は?
悩ましいですが一緒に考えてみましょう。
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先天性の眼瞼下垂の治療の選択

眼瞼挙筋が動かない場合:筋膜(筋膜移植術)もしくは人工素材での吊り上げ

眼瞼挙筋に多少の動きがある場合:上の術式、もしくは「挙筋前転法」

しかし、

「筋膜移植術などによる眼瞼の挙上術は課題が多い」と先日記しました。

関連記事:「眼瞼下垂症治療における筋膜移植術の克服すべき課題」

筋膜移植や人工物での吊り上げの問題点

  • 目を閉じにくい(閉瞼障害)
  • 眼瞼遅れ(lid lag)
  • 重瞼部分の機能的な動きがない(目を開ける時に深く折れたり、目を閉じる時に重瞼部分がフラットになったりという自然な動的な形態が再現できない)
  • 前頭筋を有効に動かせないと目が開かない

などです。

かなざわ
やっぱり、挙筋のチカラが残されていれば挙筋前転を試みたくなる…

片方は挙筋が全く機能していないけど、もう片方は少しは動きがある場合は?

それぞれに違う術式を適応することになる場合もあります。その場合、左右それぞれに違った動きが観察されることになります。

左右差のある先天性眼瞼下垂のモデル患者さん

左右の先天性(生まれつきの)眼瞼下垂です。左が重度、右は中等度です。下を向いたときのまぶたの動きは動画をご覧下さい。

左重度の先天性眼瞼下垂。筋膜移植と挙筋前転法
左重度の先天性眼瞼下垂。正面視。術前術後。右は挙筋前転。左は吊り上げ。
先天性眼瞼下垂の術前後の写真
眼瞼下垂手術前後。上方視(上を見る)時

術前の評価と術式の選択

右は上方視で眼瞼が挙上されます。挙筋の動きは少し認められ(もしくは上直筋が機能している)ます。

右は挙筋前転(腱膜固定)術を選択しました。

左はまぶたが全く挙上されません。挙筋の動きは無いと診断。

左は大腿筋膜移植を選択しました。

手術治療と修正手術2回

左右同時に同じ日に手術を行いました。その結果、右の低矯正(右の挙上が弱い)を認めたため、後日(7か月後と17か月後)右だけ挙筋の再前転を行いました。

そしてそれからさらに1年と5か月後、経過を見せに来てくれました。(感激!)🤗

右の挙筋の動きはやはり弱く、左に追いついていません。一方、左(筋膜移植した)まぶたはその特徴(lid lag:まぶたが下りてくるのが遅い)を認めています。特に動画で見るとダイナミックな(動的な)形態の左右差が目立ちます。

反省点

「右も筋膜移植が良かったかな」との患者さんの感想でした。筋膜移植のデメリットが左右差で強調されてしまったこのケース。左右同じ手術にすれば逆に目立たなかったかもしれません。

これから手術をご検討の方は心に留めておいてください。

眼瞼下垂治療啓発目的に写真・動画使用を承諾いただきました。ありがとうござました。

金沢のイラスト
かなざわ
ブログを執筆しているうちに患者さんとの思い出が湧いてきて感無量な思いにふける今日この頃です。どうする?こうしてみる?などと患者さんと一緒に悩みましたね…

(2021年3月8日 加筆修正)

尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。

LP

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