まぶたのたるみへの対処としてのあまり知られていない新しい術式。眉下切開。
術式がシンプルで、合併症のリスクも少ない上に効果は絶大って言ったら信じられますか?
眼瞼挙筋前転法(いわゆる眼瞼下垂手術)とはまったく異なるアプローチ。別物です。
適応をしっかり見定めないとメリットを享受できません。「自分に合った術式なのか?」その違いを十分に理解しないと後悔することに。
手術の術式と適応3条件と不適応の5条件、4つの利点、そして問題点(欠点)6点をお伝えします。「自分は絶対に眉下切開だ!」と意気込む前に目を通してください。
モデルケースで、それぞれに異なるパターンのデザインや効果、経過があることを紹介しますね。
眉下切開(上眼瞼リフト)
眉の下の皮膚を切り取って、まぶたを持ち上げる手術。
- 眉下皺取り術
- 眉下切開
- 眉下リフト
- 眉毛下皮膚切除術
- アイリフト
などとも呼ばれます。
具体的な術式
眉の下にそって皮膚切開、それよりも下5〜15ミリ程度(個人差あり)の幅で皮膚を切除します。眼輪筋やその下の組織を切除することもあります。そして皮膚を縫合します。
以上。挙筋前転法に比べると比較的シンプルだとわかります。
そして1週間後に抜糸。
通常はその1週間は洗顔も可能です。
眉下切開の適応は…
適応:医学的な妥当性があり、治療によってメリットが享受できること。
- まぶたが厚ぼったい上に、皮膚がたるんでいる
- 眼瞼(後葉)を持ち上げる眼瞼挙筋が機能している
以上。学術的には「眼瞼皮膚弛緩症」とよばれる病態。というか加齢現象です…
眼瞼下垂症手術(挙筋前転)を行った後、皮膚のたるみが強く残った場合も適応になります。
さらにもうひとつ必要な条件があります。
- 眉下のきずあとが残ることを受け入れられるマインドを持つこと
眼瞼下垂手術と違い、傷が隠れないから。
眉下切開の不適応は?
つまりやらない方がいい人です。
- 若い(△)
- 眉が薄い(△)
- 目と眉が近い(△)
- 後葉下垂(真の眼瞼下垂)がある(❌に近い)
- 鼻根部に横皺がある(❌)
100点満点で適応になる人って意外に多くないんですよ💦
現実には通常の眼瞼下垂症手術と上眼瞼リフトのどちらを選択するか、迷うことも多いです。関連記事:『偽性眼瞼下垂症の手術方法は複数。眼瞼下垂手術か、上眼瞼リフト(眉下切開)か?』(内部リンク)
眉下切開のメリット(アドバンテージ)は?
- 顔の印象を大きく変えない
- 厚ぼったいまぶたがスッキリする
- ダウンタイムは眼瞼下垂症手術より短期間で済む
ことが挙げられます。「術後のまぶたの違和感などの愁訴」も通常の挙筋前転法より少ないです。
さらに、
- 細かな左右差が気になりにくい
という点。なぜなら本来の目の形が顔を出してくるだけなので、「手術によって左右差が作られてしまった」という感覚を抱きにくいのです。
これ、意外に大きな要素だと思うのですが、いかがでしょうか😀
患者さんにとって必要以上に気にやむ要素が減るのです。これはイコール医療機関側にとってもメリットです。
ただね、ここで忘れてはいけない点があります。
「視野が広くなる」「まぶたが軽くなる」ということ。自覚症状として、身体の疲労感が減り、頭がスッキリするなどの「随伴症状の改善」が見られます(個人差があります)。機能改善の治療ともいえますね。
眉下切開の問題点
(1)傷(瘢痕)が見える
いかにパーフェクトに丁寧に縫合されたとしても、5ミリ幅で皮膚を切除したら、傷はわかります。なぜでしょうか?
皮膚というのは場所が5ミリ違えば、厚みや色、キメ、質感、毛の生え方などが異なるのです。つまり違う素材同士のシートを縫合するわけですから、縫い目が綺麗でも結局「パッチワーク」なのです。「顕微鏡を使ってより細かく縫合処置すれば解決する問題」ではないのです。記事の終盤で説明します。
メークでカモフラージュするか、眉毛を伸ばして隠しましょう。
アートメイクはカモフラージュするための手段になり得ると期待しています。(まだ開発段階)
(2)目頭側の皮膚のたるみを取りにくい
眉の中で切開デザインを完結したいから。さらに目頭側の傷は目立ちやすいというハンデが重なってきます。結果眉頭側の皮膚切除幅を広く取ることができません。(それを克服するデザインを後半で案内しています↓)
(3)ドッグイアが目立つことも
縫合線の端が少し盛り上がることもあります。「ある程度の幅の皮膚切除」では宿命です。ドッグイアを目立ちにくくするには、切開線の長さを伸ばすことになります。(もしくは切除幅を控えめにする)
(4)眉位置が変化する
想定以上に眉が下がることもあります。つまりリフトの効果を打ち消す変化が起こります。まことに残念です。その結果眉のメークの場所が術前と変わる可能性も。すると瘢痕とメークの場所にギャップが出ることもあり得るのです。
眉間部分はリフトをしていません。だから眉が下がると鼻根部の横皺が出る人もいます。そして何よりも目と眉が近づくので目元の印象が濃くなります。
眉下切開(眉下リフト)で「目と眉が近くなってしまった!」という悩み。厚ぼったいまぶたで悩む人ほど眼輪筋が切除されている印象です。眼輪筋を切除すると眉が下がりやすいと私は考えています。なぜそのようなことが起こるのか?考察します。眼輪筋はボリュームを演出します。一方、(続く) pic.twitter.com/x5ThMbfPHm
— Kanazawa/金沢@形成外科医 (@dr_kanaz) June 27, 2022
もうひとつはそもそもたるんでいないのに皮膚切除した場合。目を閉じたときに皮膚に折り重なりができる人は皮膚のあまりがあります。しかし、しわもなく皮膚が張っている人は余りがありません。ここで眉下の皮膚を切り取ると、目を閉じるためには眉を下げるしかなくなります。
(5)ひずみによるひきつれ線
目頭から眉尻にかけてのひきつれ線ができます。コレを予防するための工夫もしますが、その結果キズの縁にギャザーができやすくなります。
(6)瘢痕による注射の痛み
後年、眉間ボトックスを打ちたくなることもあるでしょう。その際の注射が痛く感じます。なぜなら圧をかけないと薬液が入らないからです。
そんなわけでまだ発展途中の術式ともいえます。しかしながら「まぶたのたるみ」への対処法のひとつとしていずれは重要な地位を占めるようになるでしょう。
(8) 傷のかゆみ
術後半年程度はキズのかゆみを感じます。かゆくて眠れないほど、あるいは掻きむしりたいほどではないようです。
(9) 眉下のやつれ
眉下の皮膚は厚みがあります。それが切除されることでボリュームがスッキリするのですが見方を変えるとやつれるのです。老化が進んだように感じるかもしれません。
眉下切開のモデル患者さん
前葉垂れ下がりの男性のケース
まぶた(後葉)を持ち上げる眼瞼挙筋の機能はしっかりしています。前葉下垂タイプ。
まぶた前葉を持ち上げる「上眼瞼リフト(眉下切開)」を選択しました。7mm幅で皮膚切除しています。まずは正面視。
そして上方視。上方視における差がはっきり表れていますね。
動画
※眼瞼下垂症啓発目的に写真・動画を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます😊
ほくろの移動量でわかるケース
最大10ミリ幅で眉毛下の皮膚切除を行いました。しかし目元の印象の変化は思ったより大きくないですね。事情を知らない第三者(例えば家族)が見たら「手術の効果が出てない」と勘違いしそうです。
でもね、右目尻のほくろの移動をみてください。やっぱり頑張ったデザインでございます😅。
そして現実的にはリフト量の半分は眉の低下で打ち消されています。いままで頑張っていたおでこのチカラが抜けたのです。したがってご本人は「楽になった」という感想を持ちます。見た目の変化は少ないにもかかわらずですね。
『眉位置の変動を予測できるか?』大きなテーマです。結論から言うと予測できません。「下がる」「下がらない」の2者だけではありません。その中間に無数のグラデーションがあります。「4割打ち消し効果を認める程度の下降があった」というシナリオもあるし、「6割」もあるでしょう。その程度に左右差があることもあるでしょう。
おおらかな気持ちで成り行きを見守りましょう。
元記事:『眉下切開で上まぶたのたるみをとった。眉が下がって効果半減』(内部リンク)
傷跡のテカり(反射)
眉下に段差のある傷跡ができることがあります。光の当たり具合で反射して目立つことがあります。メークでも誤魔化しにくいようです。
盲点です。私だけでなく、一流の外科医が縫合してもこの現象は観察されています。解決が待たれますね。
それともうひとつ大事なこと。目尻のたるみが解消されると目が小さく見える現象です。これも落とし穴。注意しましょう。
ちなみにこのデザインもフック型(下で説明)。
◎関連記事『眼瞼下垂手術で目尻の皮膚のたるみは切除すべきか?目尻の影(テールシャドウ)は残したい』
眉頭(まゆがしら)側の傷を目立たなくする、新しいデザイン「フック型」
先ほど述べたように、眉頭側(目頭側)の傷は目立ちやすいのが難点。
傷が目立つ原因は、内側の眉毛が貧毛であること(細く、密度も粗)、毛流でブロックされない(毛の立ち上がりが上向きだから)ことによります。
この点は外科医が頭を抱えるポイント。
眉頭に傷を作らないようにするためには皮膚切除の幅を控えめにする必要があります。高齢な方はそれでは満足できません。
それを克服するデザインが、「眉の中に入るデザイン、フック型」です。
眉下から、最大幅9ミリで皮膚切除を行いました。右の写真は術後3ヶ月。傷がまだ赤いのが分かります。
このデザインは眉頭の産毛も利用します。眉メークをする習慣のない人にもおすすめ。
多少のドッグイヤも紛れてくれるメリットもあります。
このケースではまだ控えめなデザインですが、もっと攻めたデザインが可能と考えています。このデザインでの皮膚切開はメスの特殊な扱い方が必要です。誰でもできる術式ではありません。この点は強調させてください🙇
「内側もしっかりリフトアップしたい」という方はご相談ください。
※傷はしばらく赤みが続く
赤み(発赤)が暫く続きます。赤みを帯びることは異常ではありません。正常な創傷治癒過程です。
よく驚かれるのは「抜糸直後よりむしろ1ヶ月後の方が赤みが強いこと」。その後に発赤のピークを迎え、再びもとの肌色を取り戻していきます。そのプロセスに半年以上かかります。
※皮膚のトーンのミスマッチ
記事中盤(きずあとの記事)でお見せしました。
最大幅9ミリで皮膚切除(脂肪切除なし、眼輪筋切除なし)です。この写真、肌のトーンがきずあと(瘢痕)で途切れるのが分かりますか。
まぶたの赤み、シミなどが傷のラインで途切れています。皮膚には複雑みのあるノイズ用の模様で埋め尽くされます。それが切除されることでトーンがジャンプするのです。複雑な模様の生地を縫製すると縫い目で模様が途切れますよね。それと同じ。縫合技術の問題ではありません。
切除幅が大きいほどミスマッチは大きくなるでしょう。
まぶたの赤み、シミなどが傷のラインで途切れています。皮膚には複雑みのあるノイズ用の模様で埋め尽くされます。それが切除されることでトーンがジャンプするのです。複雑な模様の生地を縫製すると縫い目で模様が途切れますよね。それと同じ。縫合技術の問題ではありません。
傷の仕上がりにセンシティブなタイプの人にはこの術式はおすすめできません。
関連記事:『上眼瞼リフトの眉下のきずあと、色のギャップをあなたは受け入れられますか?』(内部リンク)
今後の注目すべき課題
手術を受ける時点では瘢痕(きずあと)は「眉毛の下のラインに沿うカタチ」。つまり眉の存在感に紛れるわけ。しかし20年加齢が進むと眉毛の質が変化します。密度が下がり薄くなっていくかも(逆もあるかも)しれません。そうなると目立ってくる可能性もあると思います。
もうひとつありました。傷が直線になりやすいということ。冒頭のイラストは孤を描くカーブの縫合線で示されていますが現実にはほぼ直線に近い仕上がりになります。
人体には直線はない
という格言があります。だからまっすぐな線はどうも違和感があるんです。モヤモヤするんです。ある程度揺らぎがあったほうがいいような…
あなたはどう思いますか?
余談
※毛根部分だけでなく、Bulgeと呼ばれる浅い部位の組織も大事。
某SNSからの質問
毛包斜切開をしていますか?毛は生えてきますか?
私の回答
「眉頭側は毛の角度に平行に切開します。それ以外は多少毛包を残す切開でもいいかもしれません。ただし、切断された毛(毛包)が成長し、瘢痕を突き破って伸びてくるというのは期待はしません。もちろん毛が生えてくる可能性はあります。しかし毛包を残せば必ず生えてくると約束されているわけでもありません。 毛包斜切開にこだわるばかりに傷が綺麗に縫合できなかったら話になりません。眉下切開は縫合される皮膚同士の厚みも異なります。真皮縫合で毛包を損傷することもあります。意外に複雑な世界です。毛包を残しても『バルジ領域』とよばれる、幹細胞が存在する部分を残さないと毛は再生しません。この領域は皮膚表層に近い部分に存在します。 逆に言うと永久脱毛するならバルジ領域を確実に潰さないとまた生えてきます。 だからまつ毛の電気分解のときは毛球部だけでなく浅い部位も改めて通電します。」
毛包斜切開とは「毛を横断して皮膚切開し、毛包を瘢痕の下に残して傷跡を乗り越えて毛が生えてくる」というコンセプトです。
◎Camirand A, Doucet J. A comparison between parallel hairline incisions and perpendicular incisions when performing a face lift. Plast Reconstr Surg. 1997 Jan;99(1):10-5.
まとめ
以上、
- 眉下切開手術の利点と欠点
- 術後の変化
- 実際のモデル症例
を提示しました。
- あなたはまぶたの表(前葉)のたるみが気になりますか?
- 眉下切開の安全性と効果の限界を理解できましたか?
- 眉下の傷を受け入れることはできますか?
鏡を見て考えてみてくださいね。
参考文献
上眼瞼形成術:眉毛下アプローチ 林寛子 PEPARS No.87:59-66,2014
上眼瞼形成術:拡大眉毛下皮膚切除術 一瀬晃洋 PEPARS No.87:67-72,2014
参考:
眉下切開(上眼瞼リフト)眉下切開手術のリスク、併発症(合併症)
短期的なもの | 腫れ、出血、感染、傷の離開、突っ張りライン、かゆみ |
長期的なもの | 眼脂(めやに)・涙の増加、眩しさ、まぶたの腫れぼったさと赤み、縫合糸の露出、目の違和感・ツッパリ感、皮膚の痺れ・痛み、目立つ瘢痕、低矯正・過矯正、一過性の脱毛 |
仕上がりに関するもの | 左右差、眉毛下垂・顔貌の変化、まぶたの見かけに対する違和感、再発、ドッグイヤ |
手術の費用
医療機関によって異なります。
私の出向先を例に挙げると、
おおたけ眼科 | 33万円 |
ヴェリテクリニック銀座院 | 38.5万円 |
酒井形成外科 | 44万円 |
アスク美容クリニック銀座 | 33万円 |
静岡厚生病院 | 27.5万円 |
(2024年現在)
ご協力いただける方募集
モニター募集(モニター価格で)です。私の眉頭フックデザイン(2020年〜)を数年のうちに学術報告する予定です。写真と手術動画を学術会議の場(および学術誌)で使用することが目的です。手を貸しても良いという方はメッセージをください😀
あるいはSNSでもメッセージを受け付けます。→ポートフォリオサイト
あとがき
手術の前にマーキングという作業があります。手術デザインです。あなたは横になり、そして術者が頭側から覗き込む形になります。リラックスしてくださいね。