眼瞼挙筋と滑走性と疎性結合組織

もし疎性結合組織(そせいけつごうそしき)がなかったら

私達は身体を動かすことができません。硬直したままです。

困りますよね。

疎性結合組織って何でしょう?

あなたの左の手の甲の皮膚をつまんでみてください。皮膚が持ち上がりますよね。

皮膚ごとマッサージしてみてください。皮膚の下の組織(筋肉、腱、骨)とずれて動くのがわかりますよね。皮膚とその下の構造物の間に滑りがあるのがわかると思います。

これを可能にしているのが疎性結合組織です。

  • areolar tissue
  • loose connective tissue

などと呼ばれます。

皮膚とその下の筋肉がくっついてしまわないように、柔らかいメッシュ構造のシートが挟まれています。だから手も自在に動くし、首もぐるぐる回すことができます。

これが怪我などがきっかけで皮膚とその下の組織が癒着してしまうと自由な動きが制限されるのです。

疎性結合組織は筋肉や腱の周りにも

筋肉は伸びたり縮んだり、腱もツルツル滑り動いています。これを可能にしているのも疎性結合組織。

そう、身体の運動に関わる構造体にはおしなべて「滑走性」があります。

もっというと神経や血管も皮下脂肪の中を滑走しています。だから血管や神経はある程度の距離を引き抜くことができます。動きに自由度があるのです。人体の動きを可能にしているわけ。

手術中には「そのアワアワのところを…」などと表現します。正しいレイヤーに入るガイドになります。再手術になるとその構造が失われているので術者にとって難易度が上がります。

眼瞼挙筋と挙筋腱膜にも滑走性がある

眼瞼挙筋と周囲組織も同様のメカニズムがあります。 挙筋の前面には眼窩脂肪や疎性結合組織があって滑りを助けています。挙筋の裏側(眼球側)には上直筋があり、疎性結合組織でゆるく結合しています(多少の連動性はあります)。

挙筋腱膜の裏側もルーズな結合組織があり、ミュラー筋とは滑る関係にあります。

挙筋全周性に渡って滑走性があるのです。

過去に切開二重手術を受けている人で、挙筋腱膜が切り離されて眼窩奥に引っ込んでしまっているケースを複数観察しています。腱断裂と同じで切れた腱は縮んで滑って奥に引っ込んでしまうのです。

じゃあ自由に動き放題なのかといえばそうではなく、動きを制御する構造もあります。腱でいうところの腱鞘とか滑車のようなものです。

腱膜外角や内角、Whitnall’s ligamentなどのチェックリガメントが滑走を抑制的に制御。さらに挙筋腱膜前方にある隔膜も滑走性を制限しています。

滑走性を失うとは?

加齢とともに目が落ち窪み、挙筋の収縮伸展の距離の幅(excursion)が小さくなります。さらにまぶたが薄くなって隔膜が挙筋腱膜と一体化してしまい、挙筋の滑走性を制限するようになります。 (ここで埋没法の糸をかけると滑走性を完全に失い、眼瞼下垂になります)

制限された動きにより、眼瞼挙筋の周囲組織との滑走性が低下していきます(機械仕掛けを使わずに放置するようなもの)。関節を固定していたら動かなくなる、使わない機械仕掛けは錆びついてしまうのと同じですね。この悪循環が起こり、眼瞼下垂が徐々に徐々に進行します。(このケースでは挙筋腱膜と瞼板との乖離はありません。)

そして、まぶたの手術もしかり。挙筋腱膜の疎性結合組織を失うと滑走性を失います。ミュラー筋との間を剥がせばその分滑走性を失います。だから眼瞼下垂手術は挙筋の動きの幅を取り戻す手術である一方、疎性結合組織を痛めているという側面もあるのです。つまりトレードオフです。

疎性結合組織は再生しません。傷つくと瘢痕になり、組織同士が癒着します。これを防ぐことはできません。この点はまだまだ医学の限界であります。

参考

組織学とは違った視点から疎性結合組織を見た書籍です。

『人の生きた筋膜の構造(DVD付き) 内視鏡検査を通して示される細胞外マトリックスと細胞』 単行本 – 2018/2/15
Jean-Claude GUIMBERTEAU (著), Colin ARMSTRONG (著), 竹井仁 (翻訳)

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