私が眼瞼下垂患者さんに初めてお会いするとき、真っ先にすることがこのジャッジです。
眼瞼下垂診断において、
「前葉下垂タイプ」か、それとも「後葉下垂タイプ」かをジャッジすることから始まります。それはなぜか?治療の選択肢が異なるから。そして難易度、予想される分岐シナリオが異なり、別の道を歩むのです。
まぶたは2枚重ね構造
まぶたには厚みがあります。それも二枚重ね。
前葉と後葉とからなります。前葉は皮膚と眼輪筋、後葉はまぶた内部(眼瞼挙筋、ミュラー筋、結膜)です。
前葉と後葉との関係を例えると、
「アウターとインナー」
「皮下脂肪と内臓脂肪」
「浅いところと深いところ」
「表側と裏側」
といったところ。
そして「前葉と後葉どちらに問題があるのか?」を捉えます。
前葉と後葉のどちらが垂れ下がっているか?
つまり眼瞼下垂の本質を捉えることが治療プランを建てる前提として必要なのです。
後葉下垂タイプ
いわゆる「眼瞼下垂症」とは後葉下垂タイプのことを指します。まぶた内部の機能が損なわれて後葉が下がります。
眼瞼挙筋は後葉に属します。この機能が失われると後葉が下がります。
代償機構(バックアップシステム)として、おでこのチカラで眉を上げることになります。結果的にふたえ幅が広くなり、まつげの根元が見えてきます。
原因として以下があります。
- 加齢
- 腱膜性(機械的刺激による)
- 症候性(重症筋無力症、ホルネル症候群、神経麻痺など)
前葉下垂タイプ
偽性眼瞼下垂といわれます。後葉は機能しています。つまり眼瞼挙筋はきちんと動いています。
このタイプでは庇(ひさし)のように皮膚が覆いかぶさります。だからまつげの根元は皮膚に隠れます。
原因として以下のものがあります。
- 加齢
- うまれつき
- 眼瞼けいれん
- 顔面神経麻痺による眉毛下垂
症状は両者とも似ている
「見えにくさ」のみならず、随伴症状としての肩こり頭痛なども両者ともあります。似ているので症状から前葉下垂と後葉下垂を区別することはできません。
前葉下垂と後葉下垂とで治療方針が異なってくる
メタボのお腹。内臓脂肪型なのか皮下脂肪型なのか?を想像してください。内臓脂肪型の人に皮下脂肪の吸引をしてもお腹は引っ込みませんよね。
眼瞼下垂もおなじ。
なんとなく「どちらも眼瞼下垂手術(挙筋前転法)でしょ?」
と思いますよね。違うのです。
後葉下垂の場合は、挙筋前転法で後葉を修復します。後葉の機能改善が期待できます。極めて合理的。
問題は前葉下垂タイプ
眼瞼下垂症手術(挙筋前転法)や全切開法で対処することの問題点があります。それは、
- 顔つきがおおきく変わること
- ふたえが安定しないこと。
- ふたえの谷間部分から皮膚のたるみ取りをすると厚ぼったいふたえになること。
これらの問題から、他の選択肢として「眉下リフト」「埋没法」も検討されることになります。しかしながらそれらにも課題や限界があり、「正解はない」というのが現状です。
現実は前葉下垂と後葉下垂とが混在
ある程度の年齢になると、両者が混在します。だから後葉下垂の治療が済むと前葉下垂が顕在化します。そうなると今度は前葉下垂に対するアプローチが必要になることもあるのです。
「じゃあ後葉下垂の手術のときに皮膚のたるみもとってしまえばいいのでは?」
と思いますよね。しかし事態はそう簡単ではありません。
前葉下垂の程度は後葉の挙上具合(下垂具合)との相対的な位置関係で決まります。後葉の挙上がうまくいけば前葉下垂は強まるし、後葉の挙上が期待したほど得られなかったら前葉下垂は現れません。
だから後葉下垂の治療が済んでからはじめて前葉下垂の程度を評価できることになります。
さらに後葉下垂の手術後に眉の位置がさがる人がいます。これは前葉下垂を強めますよね。眉毛位置の変動量は手術前に予測することができません。手術後に判明することです。
以上の理由から、もし両者が混在している場合は後葉下垂の修復を優先することが多いです。そして後葉下垂の治療結果を見届けてから前葉下垂を評価するのがより安全なアプローチとなります。この場合の前葉下垂治療は結果が比較的予測しやすいものとなります。
後葉下垂モデル1
真の眼瞼下垂です。左右差がある方がわかりやすいですね。術前評価では後葉下垂の程度は左のほうが強く、前葉下垂の程度は右のほうが強いですね。左だけの手術です。皮膚切除は行いません。
左の治療後、前葉下垂が顕在化したのが分かります。後葉が挙上したのに加え、左眉が下がったからです。結果的に手術後は後葉下垂の程度は右のほうが強く、前葉下垂の程度は左のほうが強いということに。相対関係であることもよくわかります。
後葉下垂モデル2
典型的な後葉下垂。左右両側の手術。皮膚切除も行いません。
前葉下垂モデル1
皮膚切除を併用する眼瞼下垂手術です。後葉は機能しています。
ふたえにして皮膚をおりたたむ必要が。そして皮膚切除も。
結果ふたえの形があつぼったく、馴染みきれません。上に述べたように印象の変化も避けられません。
(眉下切開からのリフトも選択肢でありました。そうすれば人相も大きくは変わりません。しかし視野の改善は限定的です。)
前葉下垂モデル2
眉下リフトです。後葉はしっかり機能しています。この術式はキズアトが露出することを受け入れる必要があります。
詳細はこの記事へ:『【完全版】上眼瞼リフト(眉下切開)の適応、利点・欠点を4人のモデルケースと共に解説』
あとがき
前葉下垂タイプか、後葉下垂タイプか?自分でジャッジできそうですか?
まつげの上に皮膚が乗っかっているようなら前葉下垂タイプかも知れません。
北斗晶さんが眼瞼下垂手術を考えているとのニュースを耳にしたとき、私個人はハラハラしました。
なぜかって?彼女は前葉下垂タイプだからです。