「自分はケロイド体質なので、眼瞼下垂症手術をしたらまぶたにケロイドができるのでは?」
と心配する人がいます。過去に怪我や手術のあとが、醜い傷跡として残ってしまった経験がある人です。
実際にその人の「ケロイド」を診察するとケロイドではない事が9割以上でした。いわゆる標準的な傷の経過の範疇で、幅が出てしまったり盛り上がったりしたものでした。時間の経過とともに肌色に柔らかく馴染んでいました。これはケロイドではないのです。
ケロイドとは、傷が治る行程でしこりになり、痛みや痒みを伴ってサイズが大きくなってくるものです。上皮化した(傷が塞がった)後もモリモリ育ち、隆起しつつ正常皮膚を飲み込むように拡大してきます。治療が困難であり、場合によっては電子線照射やステロイド注射を行うのです。
ケロイドの好発部位
胸の真ん中、肩、恥骨部は好発部位です。好発部位とは「その病変ができる頻度の高い部位」のことです。
- 胸のにきび痕からケロイドが発生
- 肩の予防接種(BCG)からケロイドが発生
- 帝王切開の傷痕からケロイドが発生
これらは形成外科医がよく見る状況。
ある時小児科医に聞きました。
私「BCGはもっと目立ちにくい部位で接種することはできませんか?例えば二の腕とかお尻とか…」
小児科医「統計学的調査で、免疫の付き方がよかったのが上腕外側(肩)だったんです」
んん〜残念💦。ケロイドも免疫応答が過剰なものであるとすれば、確かに肩は免疫反応が得られやすいのかな(個人的感想)?
そんなわけで、同じ規模の傷でもケロイドになりやすい部位と、なりにくい部位があるんです。
で、まぶたは「ケロイドになりにくい部位」なのです。
“Keloids are rare on the upper eyelid. “「上まぶたにケロイドが発生することはまれ」
Ogawa R. Keloid and Hypertrophic Scars Are the Result of Chronic Inflammation in the Reticular Dermis. Int J Mol Sci. 2017;18(3):606.
文献検索しても「まぶたにケロイドが発生した」報告がヒットしません。本当にまれなのでしょう。ちなみに、黒人の瞼のケロイドの報告がだいぶ昔にあったのを記憶しているのですが、その文献を探し当てることができませんでした。
「ケロイド体質」は存在する?
ケロイドも体質(遺伝)があり、家族性があります。なりやすい人というのは実際いるのです。
なお、有色人種、特に黒人はケロイドになりやすい体質です。”スカリフィケーション:scarification”という、ボディアートの習慣があります。わざと胸や腕に傷をつけ、そこから生じたケロイド(肥厚性瘢痕)でアート作品を自分の身体に刻みます。刺青と同じですね。
有色人種は、そのくらい傷が目立ちやすいのです。そんな彼らをもってしても「まぶた」はケロイドになりにくいのです。
だから、まぶたにケロイドができたら「学術報告もの」です。
したがって、日本人で「自分はケロイド体質である」という人でもまぶたはケロイドになりません(滅多に、おそらく)。したがって、まぶた手術でケロイドになる心配はありません。
ケロイドと肥厚性瘢痕は違う
尚、「ケロイド」と「肥厚性瘢痕」は異なります。肥厚性瘢痕はケロイドにようにどんどん広がる性質はありません。局所にとどまり、隆起はしますが、月日が経つと落ち着きます(”成熟する”といいます)。
日本人で「キズアトが汚くなった」といった場合は、多くは「肥厚性瘢痕」です。冒頭で述べた「ケロイドではなかった」というケースは「肥厚性瘢痕」でした。
肥厚性瘢痕も強く赤みを帯びて痛み痒みなどの症状が出ることがありますが一時的なもの(数ヶ月から数年)。上の写真の赤く腫れ上がったキズも時間が経つと隣のキズアトのように白くなってきます。
肥厚性瘢痕もまぶたにはできにくいのです。ですが、肥厚性瘢痕の程度は様々です。まぶたに生じた、小さな硬い傷を肥厚性瘢痕と呼んでしまえば、それも肥厚性瘢痕かもしれません。個人差はありますが、年月の経過で成熟(柔らかく馴染んでくること)します。
そういう意味ではまぶたの傷はきちんとケアするに越したことはありません。
まぶたの傷はケロイドに絶対にならないのか?
「100%無い」とは言えないのが辛いところ。今まではなくてもあなたが第一号になる可能性はあります。
まとめ
「自分はケロイド体質なので、眼瞼下垂症手術をしたらまぶたにケロイドができるのでは?」への回答です。
まず「自分がケロイド体質」という前提が間違っている人が9割以上。そして「まぶたはケロイドになりにくい」です。
個人的見解
まぶた診療をしていると、まぶたもしくは眉に傷跡を持つ人が少なからず見られます。いや、むしろ傷跡を持たない人の方が少数派です。まぶたの傷を負う人が世の中にそれほど多いにも関わらず、今までまぶたのケロイドを見たことがありません。
「まぶたのケロイド」に関しては心配ないでしょう。
しかし、傷跡が硬くなったり、小さな拘縮を起こすことはあり得ます。しかしこれはケロイドではありません。ここは区別が必要です。
「絶対に無傷が良い!」という人はまぶたの手術はやめた方がいいでしょう。