「眼瞼下垂症って飲み薬で治る?点眼でよくならない?特殊な機械で治せない?」
今回はいわゆる加齢性の(退行性)眼瞼下垂症が対象です。まぶたの中の構造が破綻した状態です。まぶたを持ち上げる筋肉の連結が緩んでしまうことが原因の眼瞼下垂。じわじわとアキレス腱が伸びて緩んでしまった状態をイメージしてください。
そもそも眼瞼挙筋はまぶたのフチにゆるく固定されているものなのです。「蝶々結び」で連結していて、加齢や物理的な刺激でその結び目がほどけてしまうのです。
対処法はあるのでしょうか?
下がってしまったまぶたを持ち上げる方法
飲み薬
ありません。。
外用薬
皮膚への塗り薬で伸びたスジが再び縮んでくれたら良いのですが、、、ありません。しかし、アイテープなどで二重(ふたえ)を深く作ることで、多少まぶたの重さを解消することはできるかもしれません。
点眼薬
やはり、構造的な破綻は治せません。α刺激薬を点眼することで、ほんの一時的にミュラー筋に頑張ってもらうことは可能かもしれませんが。
注射
構造的な破綻は治せません。一方、ボツリヌス毒素注射で眼輪筋のチカラを弱めることはほんの少しは有効かもしれません。なぜなら眼輪筋は目を閉じる筋肉で、まぶたを持ち上げるのにブレーキをかけているからです。ボツリヌス毒素注射も効果は期間限定です。
手術
ほどけた「蝶々結び」をふたたび結びなおして固定します(挙筋前転法)。連結を復元する、一番確実な方法です。しかし、皮膚を切開してまぶたの中を直視下に見る必要があります。
眼瞼下垂症手術(挙筋前転法)の適応は?
どのような人が挙筋前転法による手術が適応になる(治療の対象になる人)のでしょうか?
- 腱膜性眼瞼下垂症(加齢性も含む)
- 症候性眼瞼下垂症で眼瞼挙筋の力が残ってい場合
- 先天的に瞼が重たくて睫毛内反症を合併している場合
- 生まれつきの細い目
などです。「蝶々結び」が緩んでしまった、もしくはもとから緩んでいる人が対象になるわけです。
症候性眼瞼下垂症とは?
疾患が基礎にあり、筋肉の動きが弱くなってまぶたが下がる病態です。筋肉の連結のゆるみが原因ではありません。
これら症候性眼瞼下垂は、原疾患の内科的治療により改善が期待できます。内科的治療で今以上の改善が期待できなくなったとき、眼瞼下垂症手術を検討します。例えば重症筋無力症、ホルネル症候群による眼瞼下垂症は良い適応になると考えています。
(例外)挙筋の収縮能力が無い、もしくは乏しい場合
眼瞼挙筋の力に期待できない場合は筋膜移植を行います。人工物(ゴアテックス®︎、ナイロン糸)を用いることもあります。
おでこの筋力を利用する方法です。おでこの筋肉が眉を持ち上げますよね。眉が持ち上がるのに連動してまぶたの後葉(皮膚ではなく、眼球に接している深い部分)が持ち上がるようにするのです。
筋膜移植の適応は
- 先天性眼瞼下垂症:挙筋の収縮能力が乏しいもの
- 症候性眼瞼下垂で挙筋収縮能力の乏しいもの
- 老人性で挙筋収縮能力が失われたもの
です。
機能的な眼瞼下垂症手術
眼瞼下垂症手術(挙筋前転法)では、眼瞼挙筋のチカラを利用します。
- 腱膜修復術
- 挙筋前転法
- 腱膜固定術
などと呼ばれます。挙筋腱膜を瞼板(けんばん)へ連結し、眼瞼挙筋のチカラがまぶたへダイレクトに伝わるようにする術式です。
機能的とは?
フェイスリフトやお腹のたるみ取り手術と違い、日常生活を送る上で人体としてしっかりまぶたが機能することを優先します。白内障手術、歯科のインプラント、変形性膝関節症の手術などと同じです。見かけを優先するあまり、目を閉じる機能を損なったり、眼球表面の潤いを失い、まぶたの違和感が強くなって日常生活に支障をきたさないようにすべきです。
- まぶたの機能解剖
- 眼瞼の神経生理学
- 全身の自律神経系への影響
- 顔面や体の筋肉の筋緊張への影響
を十分に考慮して、「自然なまぶたの開け閉め」を回復させることを目的とします。
機能的眼瞼下垂症手術の具体的手技
まぶたを持ち上げるための各種抵抗成分を処理(腱膜外角の切離、下位横走靱帯切除など)します。ミュラー筋(まぶたを持ち上げるための、生理学的な反射弓に必要な知覚をもつ)に触れず、瞼板前組織の郭清を極力行わない(再手術を想定しています)ようにします。このことにより、20年、30年後を見据えた、再手術が可能な術式になります。
生理学的に自然な開瞼(まぶたを持ち上げること)を得ることが目的です。眼瞼挙筋の遅筋を収縮させるための反射弓を復活させることが優先課題となります。挙筋の前転量は控えめになります。※前転を強めすぎると生理学的な反射弓を失います。
◎松尾清. 【日常診療に役立つ形成外科基本手技のコツ】 頭頸部 眼瞼下垂症手術. 形成外科. 2004; 47(増刊): S274-S278.
◎伴緑也. 眼瞼下垂症手術:開瞼抵抗を処理する眼瞼下垂症手術 PEPARS No.87:73-80 2014
◎Ban M, et al. Developed lower-positioned transverse ligament restricts eyelid opening and folding and determines Japanese as being with or without visible superior palpebral crease. Eplasty. 2013 Jul 5;13:e37.
手術の問題点
「まぶたの中を連結するだけ?じゃあ手術しておこうっと!」なんて簡単に思わないでください。それなりの課題もあります。
術後の腫脹と紫斑(内出血斑)です(注)。サングラスや太いフレーム(ふち)のめがねでカモフラージュする必要があります。手術の合併症参照。
特に一重まぶたのヒトは顔の印象が変化します。左右非対称のために5%が再手術を受けています。
注)営業職の人は1,2週間は業務に支障が出ます。
あらかじめご理解いただきたい点
- 手術による肩こり・頭痛などの改善はまぶたに由来するものしか期待できません。肩こり、頭痛を改善することを目的にまぶたを手術することは現時点ではしません。
- 本手術は美容を目的としたものではありません。
- 手術により顔の印象が変化するのは避けられません。
- 修正手術を必要とすることもあります。
- 術後の腫脹はしばらく続きます。
- 眼瞼下垂症の手術後に直後、もしくは数年かけて眼瞼けいれんが現れてくることもあります。
あとがき
健康保険は適用されますか?という問い。いわゆる「病的な眼瞼下垂」と診断されたら健康保険が適用されます。「視野障害がみとめられたら」という表現もあります。ただし、明らかに左右差がある場合は視野が十分に保たれていても治療の対象になります。
今後の医療財政の成り行きによっては保険適用の範囲は狭まっていくことが予想されます。今後は厳密に審査され、軽度の眼瞼下垂は保険適用できなくなる可能性が高いと思います。