まぶたの怪我や手術後に生じるけいれん
まぶたの手術後(埋没法含む)やまぶたの怪我の後に生じる、目周りの痛みや違和感です。若いヒトに見られます。現在においては、学術的にコンセンサスが得られている病態ではありません。したがって診断も無く、そして治療法もないので「まぶた難民」となることもあります。
まぶたの診療に携わる医師が経験しており、医師同士で情報をシェアしています。しかし、なかなか学術的にオープンな場で議論するには至りません。何故ならば、病態の定義や診断についてあまりにも感覚的な部分が多いからです。言語化、数値化する事が極めて困難であり、科学的に議論するのが難しいのです。
しかしながら、患者さんの訴えにある程度「共通項」が見出されてきています。(2021年現在のものであり、今後の症例の蓄積や科学の進歩で変わり得るものです。)
術後けいれんの特徴
自覚症状
- 目の奥が引っ張られる
- 目の奥が痛い
- 目が開きすぎる
- 目を閉じても休まらない
- 眉間が痛い、凝る
- 下方視で症状が楽
他覚初見
- 上方視が困難、瞬き増加(場合によっては正面視も)
- 下まぶたの眼輪筋の緊張(挙上)
- 挙筋の収縮が過剰
- 眼輪筋のけいれんが見られる
- 眉間にしわ
- 眉が下がる(結果的にしかめ面に)
随伴する社会的ハンディキャップ
- 仕事が手につかなくなる
- 仕事を辞めた
- 社会生活を送れない、引きこもりに
原因は?
ミュラー筋仮説
ミュラー筋が過敏状態になるから?。埋没の糸や眼瞼下垂の手術の影響でミュラー筋が刺激されているから?。ミュラー筋は繊細なセンサーですからね。
関連記事:『ミュラー筋は着火剤。眼瞼挙筋の遅筋、前頭筋、眼輪筋に火をつける』
しかし、ミュラー筋が傷ついても全く症状がでない人もいます(と言うか、でない人の方が圧倒的に多い)。
その点では、患者本人の体質のバリエーションによるところも大きいでしょう。
もちろんミュラー筋以外の原因もあると思われますが、現時点ではなんとも言えません。
複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome)仮説(個人的考察)
組織への侵襲により、神経障害性疼痛を引き起こすもの。かつてはRSD(反射性交感性ジストロフィ)と呼ばれました。末梢神経に加え、交感神経系も絡んで異常知覚と自律神経異常をもたらします。採血検査などほんの少しの外傷や抜歯が原因になることもあるようですから、当然まぶたへの侵襲によって引き起こされる可能性もあり得ます。形成外科医としては手の外傷で経験(ほんの少しの刺激で激痛を生じたり、温度変化でえ血流が悪くなったり)します。
実際この診断基準を満たすことはないでしょうから「CRPS」とは診断されませんが、似たようなメカニズムがまぶたの中に起きている可能性はあるかなと思います。
対処法
現時点で、私個人が考えるのは予防です。つまり手術の段階で、可能な限りミュラー筋を触らない事です。
そして、術後に症状がでた場合は、数ヶ月は経過を見守る事です。術後数ヶ月はまぶたの中は多少なりとも過敏状態になります。月日の経過とともに改善します。
医療の介入と言う点では、ボツリヌス毒素注射療法です。ピンポイントで症状のある部位をさし示す事ができる場合はそのポイントを狙って注射をします。効果は3〜4ヶ月です。しかし、一般的な眼瞼痙攣よりも効果は限定的な印象です。
体の半分が痺れる
私が診察した若い人で3人、このように訴えた人がいました。たまたま?偶然でしょうか?
うち1人は日本人ではありません。まぶたの術後で違和感に悩まされ、遥々やってきたのです。
ミュラー筋が交感神経に影響するとして、「左右性」「左右差」についてもう少し調査が必要かなと考えています。