「片目ずつならちゃんと見えるのに、両目だと見えない」
「歩いていると乗り物酔いのような感覚に」
眼瞼下垂手術直後に両眼視が難しくなるのを感じた患者さんがいました。
なぜそのようなことが起きたのでしょうか?
…
それは、
眼球および外眼筋は線維性結合組織で支えられているからです。
チェックリガメント仮説
眼球は眼窩と呼ばれるソケットの中に浮いています。
眼球はソケットの壁にぶつかったりしませんね。
なぜ眼球は安定した位置を維持していられるのでしょう?
その周りには6種類の外眼筋がまとわりつき、眼球を上に下にクルクルスムーズに回転させています。
実は眼球や外眼筋はソケットと連結しています。
眼球や外眼筋を支える構造があるのです。
“check ligament”とか”プリー”と呼ばれます。
出典:下記 2)
これらは物理的に連結しています。しかしその連結はガッシリとした硬い構造ではありません。
筋肉たちとはお互いに多少の滑りを許し、伸縮し、移動する遊びがあります。
そうすることで外眼筋の動き(方向や位置)をサポートし、眼球運動を滑らかにします。
かつ「動きすぎ」も制御しています。
動いたらホームポジションに戻ろうとするチカラが働いているのです。
出典:『視覚と眼球運動のすべて』下記1)
ひよこを優しく手で包み込む
ひよこを左右の手で優しくくるんで持っている状態です。
手の中でバタバタ動くひよこをイメージしてください🐣
あまりに不安定ですね。
そこでひよこの身体に紐を繋ぎ、手のひらと複数の箇所でつなぎます。
ほら、ひよこの身体の向きが安定したでしょう。
このシステムがチェックリガメント(check ligament)です。
線維様かつ膜様構造物が眼窩内に張り巡らされており、筋肉や血管神経を支えています。
さらにひよこの向きをコントロールするためのスプリング(外眼筋)がひよこの周りにまとわりついています。このスプリングを覆うシートもこのシステムのひとつ(プリー:pully)です。
その結果、ひよこの身体を守りつつ速やかな”向き変換”を可能にしています。
正確にはひよこの身体にまとわりつく紐は無数に存在し、これらプリーも含め、お互いに連結し合っているのです。
操り人形の紐が何千本も絡みついているイメージです。
眼瞼下垂手術で眼位が変化
眼瞼下垂手術では上眼瞼挙筋を調節します。
その結果、それと連結している組織が影響を受けるのです。
例えば上直筋。眼瞼挙筋の真下にあり、お互いに緩く連結しているのです。
冒頭の患者さんは眼瞼挙筋の位置が変わったために、上直筋の位置も変わったのでしょう。おそらく動きの範囲も影響を受けるはずです。
多くの人は多少の眼位のズレは速やかに調節してしまいます。大脳が動きをコントロールしているからです。
このケースでは、
- 眼瞼挙筋と上直筋の連結が平均より強かった
- 大脳でのコントロールが追いつかなかった
ことが考えられます。
いずれにせよ月日の経過で両眼視はできるようにはなりますので心配は無用です。
斜視手術でも
この現象、斜視手術でも同じことが起こることが眼科領域でも指摘されています。
眼窩内容を支持する構造の視点から
みた動画です。眼球を安定させる構造について。
その動画のクリエーターのブログ
Orbit | Boundaries | Fissures and Foramina | Relations | Con…
筋肉や結膜を支持する構造(fascia:ファスチア、筋膜)が記されています。
参考)
1)『視覚と眼球運動のすべて』編集若倉雅登、三村治 メディカルビュー社
2)Zhuang W, Fang S, Fan H, et al. Anatomical study of the extraocular check ligament system. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2019;72(12):2017-2026.
3)Hwang K, Shin YH, Kim DJ. Conjoint fascial sheath of the levator and superior rectus attached to the conjunctival fornix. J Craniofac Surg. 2008 Jan;19(1):241-5.
あとがき
今年の秋は暖かかったですね。
これからは冬本番です。体調にはくれぐれも気をつけてください。
栄養をしっかり!
と言いたいところですが、ほとんどの人にとっては栄養は十分です😅
あなたに足りていないのは「睡眠」ではないですか?