眼瞼下垂の手術中に、このように言われた人がいると思います。専門用語です。
下位横走靭帯ってなに?
挙筋腱膜の最後の端っこ(遠位部)に横方向に走る帯状の白い構造です。lower-positioned transverse ligament。
(”inferior transverse ligament”は下まぶたの横走靭帯)
ボンレスハムを縛り付けるひものように挙筋筋体や挙筋腱膜に食い込んでいることもあります。
おなじ横走靭帯でも、近位部(奥の方)にあるのがWhitnall’s ligament (上位横走靭帯)です。
眼瞼挙筋は薄い膜(sheath, 腱鞘)で包まれています。この膜が凝集した(依り集まった)ものが横走靭帯と考えられます。(Bear’s 眼瞼下垂より)
挙筋腱膜では膜(腱鞘)が重積(折り畳まって)いることもあります。
組織学的な特徴を報告したもの(文献)は見当たりません。しわや指紋といった機能形態上の臨床的構造物かもしれません。
下位横走靭帯は
- 斜めに走ることもあります。
- 複数あることもあります。
- 隔膜側で発達していることもあります。
- 外側は骨膜側に水平方向に、鼻側はやや奥へ伸びています。
- ボンレスハムを縛り付けるひものように挙筋筋体や挙筋腱膜に食い込んでいることもあります。
- 左右差のある眼瞼下垂の場合は、下がりの強い方が下位横走靭帯が発達していることが多いです。
下位横走靭帯は何をしているのか?
横走靭帯はまぶたの動きを制御しています。ハンモックのように横方向に突っ張っています。
上位横走靭帯は、挙筋の力のベクトルを滑車のごとく前後から上下方向へ変換する役割があります。
一方、下位横走靭帯はまぶたを眼球へ押し付けます。まばたきをする時に、目を閉じた直後に反動で速やかに瞼を持ち上げるための張力を持ちます。
蒙古系まぶた(ひとえ)ではまぶたを動かさないように固定しています。松尾清先生は「細目靭帯」と読んでいます。『まぶたで健康革命』
一方、生粋の二重の人は発達していません。(ちなみに私は中学生頃に左まぶたが二重になったが、左のほうが下位横走靭帯が発達していた。)
開瞼維持(まぶたを上げ続ける)にはブレーキとなって抵抗します。
Developed lower-positioned transverse ligament restricts eyelid opening and folding and determines Japanese as being with or without visible superior palpebral crease.Ban M, Matsuo K, Ban R, Yuzuriha S, Kaneko A. Eplasty. 2013 Jul 5;13:e37.
眼瞼下垂の手術の時の処理
下位横走靭帯は開瞼(まぶたを開くこと)の抵抗になるので切断、切除します。
この処理だけでまぶたが上がりやすくなります。
挙筋腱膜をしっかり露出する手術手技でないとこの処理はできません。
下の動画は50%速度でスロー再生しています。下位横走靭帯が外れると、挙筋の動きがスムーズになります。