「眼瞼下垂症手術で失明するトラブルはあるのか?」
眼球の近くの手術だけに心配ですよね。
「眼瞼下垂手術の出血で失明を起こすリスクがある」
このように形成外科医は教育されています。
日本では年間に2万人以上が眼瞼下垂手術を受けています。しかし、「失明した」という話を聞きません。
本当に失明を起こすことはあるのでしょうか?
実は…
…
文献的には…
「ある」のです。
まぶたの手術で視力障害を引き起こす原因
球後出血を起こした場合に起こります。
眼球の裏側(奥)にある血管から出血し、血が溜まって視神経を圧迫するのです。
その結果視力が低下し、視力が回復しないことがあるのです。
一般的に球後出血を起こす原因として
- 球後麻酔
- 眼窩骨折などの外傷
- 動静脈奇形
が挙げられます。
深刻な状態であり、速やかな血腫除去(血を外に逃がす)処置が求められます。
まぶた手術では、まぶたの中の脂肪を引っ張るなどして眼球の奥の血管がストレスを受けて出血すると予想されます。
眼瞼下垂手術で失明を起こす確率
2004年の報告です。
アメリカの医療機関アンケート調査による(回答率50%)と
269,433件のまぶた手術(眼瞼下垂手術だけではない)の中で12例に後遺症としての視力障害を認めた。0.0045%。22000人にひとり。
Hass AN, Penne RB, Stefanyszyn MA, Flanagan JC. Incidence of postblepharoplasty orbital hemorrhage and associated visual loss [published correction appears in Ophthal Plast Reconstr Surg. 2005 Mar;21(2):169]. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2004;20(6):426-432.
矯正不能な視力の低下をもたらした視力障害です。まったく何も見えなくなる「失明」ではありません。
高血圧・糖尿病や出血傾向のある人(血液サラサラの薬を使用など)に起こりやすいようです。
嘔吐や頭の位置、活発な活動、咳も誘引に。
この報告は眼瞼下垂手術だけでなく、上下まぶたの若返り手術も含まれます。ですが確率としては眼瞼下垂症手術のリスクとして理解していいでしょう。
日本の場合は?
日本では健康保険による眼瞼下垂手術だけで年間2万人を超える人が受けています。
16年前のアメリカと同様の確率と考えると、ひとりくらいは視力障害を引き起こしそうです。
しかし、
わたしの界隈ではそのような事件をまったく聞いたことがありません。
私自身も球後出血を見たことがありません。
医療器具や知識、技術も進歩していますから球後出血は起きていないのではないかと想像します。
しかし、人間は生物(ナマモノでありイキモノ)です。
「何もしていなくとも自然と勝手に球後出血を起こした人」の報告もあるくらいですから、確率ゼロはありません。
論文では「外傷後の球後出血の報告」を時折目にします。「眼球が飛び出るくらいの腫れ方で目が真っ赤に充血」しているのを論文の写真で見られます。
出血を防ぐ対処法
上の論文でリスクのある人が挙げられています。
高血圧、糖尿病、出血傾向のある人です。
術後もなるべく安静にしましょうね。
眼瞼下垂手術で失明するのが怖かったらどうする?
残念ですが手術はオススメしません。
「怖い」というのは感情です。
理論的に「22000人にひとり」と説明されてもその感情を払拭できないでしょう。
怖い感情をいだいたまま手術を受けると、手術の際の体の反応も過剰(痛み刺激に敏感になり、血圧や脈拍が上がる、迷走神経反射をおこすなど)になり、良い結果をもたらしません。
あとがき
今回は失明のリスクについての問い合わせがあり、何度かやり取りをする経験をしました。
「同じような心配を抱いている人がいるかもしれない」
そう思ってこの記事を作成しました。
私自身経験がありませんし、他の医師でからも聞いたことがない現象です。
あくまで文献をもとに考察した内容となっています。
「眼瞼下垂手術は医師や看護師も受けている手術である」とお伝えするとリスクの程度をご理解いただけるかもしれません💦