こんにちは、形成外科専門医の金沢です。
「眼瞼下垂手術の固定の糸は溶ける糸ですか?」
よく聞かれる質問のひとつです。
眼瞼下垂症手術の際、挙筋腱膜(もしくは隔膜)を瞼板へ連結固定するために使用する糸。
挙筋と瞼板とが連結されるので、挙筋の牽引力によってまぶたが持ち上がるようになります。
2024年現在、Ethicon社のプロリーンという商品を用いています。分解されず、吸収されません。
血管吻合に使われる糸です。永久的に体内に残しても人体への悪影響は無いことが長年の実績から示されています。
この糸の特徴は以下です。
- 青い
- しなやかで弾力性がある
- 結んだ”結び目”がほどけにくい
- 組織の炎症を起こしにくい
再手術、修正手術の際にこの糸を観察すると、
- 青い
- 結節がほどけていない
- 周囲の組織の炎症を伴っておらず糸の周りに瘢痕が無い
ことが確認できます。
他院修正の手術でも同様の糸が見つかるので、この縫合糸を使用する形成外科医が多いことが推測されます。注)下記参照『再手術の際の糸の処置』
「腱膜固定に吸収糸は使わないの?」
吸収される糸を腱膜固定に使用したことはありません。
理由はふたつ。
ひとつは溶ける糸は強度が速やかに低下するためです。その結果固定が外れて眼瞼下垂が再発する可能性があるから。
瞼板前組織を切除して腱膜と瞼板とを瘢痕癒着させる手術手技ならば再発はしにくいかもしれません。一方わたしの手技では瞼板前組織も極力温存している(自然な重瞼線をつくる)ため、瞼板と腱膜がしっかり固く癒着していません。そのために数カ月は糸によるサポートが必要と考えています。
とはいえ、数年経過してもその糸の張力が機能しているか?と言われると「機能している」とは思っていません…
糸によってしっかりマブタが挙がるようになると、年月の経過とともに、まぶたの組織がそれに合わせてリモデリング(再構築)されて糸の張力への依存が小さくなる、と私は考えています。
もうひとつの理由は再手術をしやすくするためです。手術の足跡になるから。20年後に再手術をするときの足がかりになるからです。その分再手術の際の外科医の(そして患者さんの)負担が減ります。20年前にまぶた手術の経験がある患者さんを手術するとそのときの糸が出てきます。 「ああ、ここまで剥離したんだな」「逆さまつげも矯正したんだな」とわかるのです。ある意味昔の外科医が残したメッセージ。だから私も残る糸を使います。
追記
再手術の際に、古いプロリーン糸を無理に追いかけて摘出することはしません。なぜならば残しておいても害は無く、摘出するために組織を切ったり穴を開けることの方が侵襲が大きいと考えるからです。