「挙筋腱膜を連結するだけでは、まぶたが上がらない」
このような方が実在します。そして、挙筋腱膜に乗っている薄い膜を前転して連結すると、パッと目が開くようになる。
信じられないかもしれませんが、実はこれ、本当にあるんです。業界の一部の先生とだけ共有している知見です。
これを支持する論文を、ふたつ紹介します。(専門家向けの記事です)
挙筋腱膜の上に乗っている薄いファシアが、挙筋の力を伝達する
挙筋の力を伝達する構造体とは。
眼瞼挙筋の収縮が、まぶたをひっぱり持ち上げますよね。その挙筋とまぶたの縁との連結部分にあるものです。
- 挙筋腱膜
- ミュラー筋
- 結膜
これらを介してチカラが伝達されるわけ。
今回のネタは、これにプラスして、新しく眼窩脂肪の膜(Preaponeurotic fat membrane:腱膜前脂肪膜)が提案されました。
眼瞼下垂手術の現場
隔膜を開くと、黄色いぷよぷよの眼窩脂肪が現れます。それを除けると白いシート状の挙筋腱膜が顔を出します。
でね、眼窩脂肪を包んでいるアワアワ(網目状)の透明な(透け感のある)柔らかい膜(ファシア:fascia)に注目。で、この膜は眼窩脂肪と挙筋、および腱膜との間にいることになりますよね。
で、私はこのはかなげなファシアは極力温存するように努めていました。なぜかというと、このファシアが断裂することで、挙筋が機能しなくなるケースを幾度も見たから。
一番印象的なのは、「埋没法の時についでに行われる小切開脱脂術」と「全切開二重手術」の後にまぶたが上がらなくなった患者さん。開けてみたら、この膜状のファシアが断裂していたのです。腱膜は断裂していませんでした。
ピットフォール(落とし穴)だと感じていたものの、確証がなくて一部のマニアックなまぶた外科医とだけしか共有できていません。(うかつに普通の形成外科専門医に話すと、理解されなさそうなので)
論文
(1)眼窩脂肪を包む被膜
「この膜を前転して連結すると、よりしっかりとまぶたが上がりました」という主旨です。
(かれらはその膜を、組織切片で示しています。)
Zhao H, Zhang Y, Wijaya WA, et al. Aesthetic Plast Surg. Published online February 6, 2026. doi:10.1007/s00266-026-05625-5
Preaponeurotic fat membrane:腱膜前脂肪膜の存在と、その機能(まぶたを挙上する力を伝達する)を明らかにしました。


(このイラストはかれらの論文を参考に、私が作成したものです。)
このハイライトした眼窩脂肪の膜。この膜の”腱膜側”が、まぶたを直達牽引する構造になっています。
(2)挙筋腱膜の前層であるという視点
2021年に報告されている論文。「挙筋腱膜の層構造のうち、最も浅い、前にある層が眼窩脂肪の底部にあり、これを引っ張り出して連結するとまぶたがあがる」という主旨。
この論文に示されている「腱膜前層」を写真で見ると、(1)の論文の眼窩脂肪の膜と同じに見えます。捉え方(視点)が異なりますが、見ているものは「おなじ」ではないでしょうか。(見る人によって見え方が違う。それこそがファシアの特徴でもあります)
金沢の解釈
私がそのスケスケの膜を見るときは、腱膜の前層というよりは、眼窩脂肪の膜に見えています。(同じ構造体を「腱膜の前層」に見える外科医もいて、それも正解でしょう。)
眼瞼挙筋と腱膜、そしてその上に乗っている眼窩脂肪はお互いに連結する、「機能的連続体」なんですよね。連結の材料がファシアです。挙筋が収縮して後退すれば、眼窩脂肪もつられて引っ込みます。
Whitnall’s ligamentと眼瞼挙筋、眼窩脂肪は強く連結していますから。
眼窩脂肪がまぶたをひっぱりあげているようにみえることもある
そんなふうにコメントする外科医もいました。同意です。
前層が「腱膜前の脂肪」と「まぶた前葉」を牽引する
Kakizaki H, Zako M, Nakano T, Asamoto K, Miyaishi O, Iwaki M. The levator aponeurosis consists of two layers that include smooth muscle. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2005;21(5):379-382.
このように解釈する医師もいます。
つまり、まぶた内部は相応に連動しているのです。
それとね。
「眼窩脂肪の膜」と腱膜との間は疎性結合組織になっており、滑走空間になっています。つまり、それぞれ独立して動く事が可能ということ。つまり役割が異なる可能性。。
そして、まだわからないことがあります。あの薄いファシアがまぶたを強く牽引するのを見ると同時に、そのファシアを失った挙筋の動きが乏しいことがあるのです。つまり、本命がそのファシアであることを経験しています。
ここで、考えてみました。
外眼筋は眼窩層と眼球層の二層に別れます。眼球に近い方は眼球をクルクル動かす一方、その外側の層はプリーとなって動きを上手に制御(ブレーキ)しているのですね。
発生由来が同じである眼瞼挙筋も、同様のことがあるのではないか?そんなふうに思うのです。つまり挙筋にも層があり、よく動く層と、その動きに制御ブレーキをかける層があるのではと。
そんなふうに考えたら、ブレーキそのものを弱めるとか、エンジン自体を強めるとか、新しい視点が降ってくるわけですね。でね。あのうっす〜い前層(ファシア)がキーになるのですよ。
整形手術の注意点
なぜ、小切開からの(眼窩脂肪)の脱脂術が眼瞼下垂になるのか?ここまで読むとわかってきますよね。あの膜(ファシア)を一緒に切除しちゃうことがあるからです。
なぜ、全切開二重手術で眼瞼下垂になってしまうのか?ここまで読むとわかりますよね。この膜(ファシア)を切断してしまうことがあるからです。
いずれにしても、あの膜状のスケスケファシアを大事に、大事にね!
眼瞼下垂手術のアプローチ
この眼窩脂肪の膜を修復するには隔膜オープン法しかなさそうです。つまり表から切開して、隔膜を開き、眼窩脂肪の膜を処理するのです。
結膜からのアプローチ。あるいは、腱膜の裏(後層)からの(隔膜を開かない)アプローチでは無理です。
あとがき
もし、あなたが一般の方(患者さん)だったなら、この話題を担当医に尋ねることは避けてください。
医学は様々な仮説が飛び交う世界です。担当医はこの話題を知らない確率が高いでしょう。そこへ、この話題を振るとご機嫌を損ねてしまうリスクがあります。
世界平和のために。

