形成外科専門医の金沢が、頭を抱える問題があります。眼瞼下垂診療における永遠のテーマ。
患者さん「目を大きくしたい。…けど印象は変えたくない!」
執刀医「麻酔をきっちり効かせたい。けども麻酔の量で腫れが大きくなり、さらに筋肉も麻痺が生じ、これが仕上がりの評価を難しくする。」
中途半端な知識で、「こうなるはず!」と思って痛い思いをします。患者さん、医療者双方で肝に銘じておくべきテーマ。
トレードオフ
まぶたの手術に期待することで、相容れないものが同居することがあります。
二律背反。両立しないふたつの事項です。
二律背反:相互に矛盾し対立する2つの命題が、同じ権利を持って主張されること。
出典:広辞苑
どちらかを選択すると、もう一方が犠牲になります。トレードオフの関係。矛盾、ジレンマですね。
まぶた手術を難しくしているもの。
そして患者さんを悩ませるものです。
皆さんの視点から
「目を大きくしたい。…けど印象は変えたくない!」
「おでこの皺は取れた。…けどまぶたの皮膚のたるみが気になる」(おでこのチカラがゆるみ、しわが減ることは眉が下がることを意味します。眉間ジワや目尻ジワも増えます)
「幅広二重がほしい。…目も大きくしたい。」(目が大きくなると二重は引っ込んで幅が小さくなります)
これらは、手術が終わってから悩むこともあるのが現実です。
術者の立場から
「麻酔をきっちり効かせたい。けども麻酔の量で腫れが大きくなり、さらに筋肉も麻痺が生じ、これが仕上がりの評価を難しくする。」
「麻酔を十分に効かせるために多めに局所麻酔薬を使用したい」と言う命題に対して、「麻酔薬の影響で腫れが大きくなり、かつ場合によって眼瞼挙筋の麻痺が生じて仕上がりの評価が難しくなってしまう」と言うジレンマです。一方、麻酔が不十分で手術中に痛みを感じると、患者さんが辛いだけでなく、術中の出血が増えます。
「時間をかけて細部までこだわって仕上げをしたい。…時間がかかると麻酔が切れ、腫れが強くなり、評価が難しくなる。」
手術に時間がかかると局所が腫れてきます。麻酔が切れ始めるために追加で注射をする必要も。その結果仕上がりの評価が難しくなります。
「ミュラー筋を触らずに終えたい。…けいれん患者さんはミュラー筋を外さなくてはならない」(ここ最近のトピック)
私はミュラー筋を外す手術はしていません。ミュラー筋を外す手技はミュラー筋を損傷する行為とも言えます。ミュラー筋を損傷することが眼瞼けいれんを誘発する可能性があるのです。
局所麻酔薬に添加の血管収縮薬
局所麻酔薬に血管収縮薬が添加されています。このために手術中の出血が減って手術がやりやすくなるメリットが。一方、この血管収縮薬がミュラー筋を刺激して筋肉の緊張バランスを崩します。その結果開き加減の調節が困難に。これが嫌で血管収縮薬を使用せずに手術をする医師もいます。
ジレンマだらけ
「全身麻酔で手術をしたいけど、全身麻酔では術中の目の開き加減を術中に確認することができない。」
「癒着を剥離して解除したいけど、癒着剥離の行為自体が次の癒着を作ってしまうかもしれない…」
いかがでしたか?
現実問題、外来診療の場で医師と患者さんとのやりとりで進行が止まることがあります。それがこの二律背反にぶち当たった時。
この二律背反(トレードオフ)を理解し、それを覚悟で乗り越える強い意志が必要になります。ファイトです!

