皮膚を切除したら皮膚に歪み(ひずみ)が生まれるって言われてピンときますか?
変形が少し残るのです。
ドッグイア(ドッグイヤ)
皮膚を切除して縫合をすると生じる皮膚のひずみを医療界では『ドッグイア』とよびます。ほくろ切除後によく現れる「皮膚の盛り上がり」現象。
両端が盛り上がるので犬の耳になぞらえて「Dog Ear」「Dog-ears」と呼びます。立体的なひずみ現象なのでメークで隠すことができません。
まずはこのドッグイアモデルをみてください。
非対称の皮膚切除デザインモデルを作成しました。黒の線に沿って切開、切除します。
左は鋭角(小さい角度)、右は鈍角(大きな角度)です。
これを縫合するとこのように端っこが盛り上がります。これがドッグイアです。
このような変形が人体(皮膚)に生じるわけ。そして角度が大きい(右)ほど変形が目立つのがわかります。
理論上は角度が小さくても必ず生じています。目立つか目立たないかの違いだけ。
年月の経過とともに皮膚が引っ張られて徐々に平坦化し、目立たなくなってきます。とはいえ、どこまで「許容できるか?」は人それぞれ。
ドッグイアを小さく目立たなくするための手術デザイン
ほくろ切除の場合
切除幅は決まっています。あとはどこまでキズを長くするかに依存します。長くすれば長くするほど端っこの角度は小さくなるのでドッグイアは小さくなります。
しかし!もうおわかりですね。キズアトが長くなってしまうのです。
ドッグイアを小さくするためにはキズアトの長さを受け入れるしかありません。
「キズを長くしたくなかったら?」ある程度のドッグイアを受け入れるしかありません。。
目周りのたるみ取りの場合
切除幅を控えめにすること。そうすれば端っこの角度は小さくなるのでドッグイアは小さくなります。
眉下切開による上眼瞼リフト、あるいはふたえの谷間からの皮膚切除でも生じます。
ドッグイアは目立たせなくないですよね。しかしリフト効果もきちんと出したい。どうしたら良いのでしょう?
現実解
白か黒かの問いではありません。「ドッグイアをなるべく目立たせない範囲で最大の効果を得るデザイン」を模索するのです。つまりグレー領域で最適解をさがすということです。
理想的な角度(比率)というのは数値では決められません。
皮膚の厚み、柔らかさ、粘弾性(追従性)によってもドッグイアの目立ちやすさは変わります。もちろん人によっても(性差、年齢、部位)異なります。
当然外科医は縫合の仕方にも気を使っています。(ここだけの話、上手下手あります。ですが理論上ドッグイアゼロはありません)
縫合のデザインを複雑にして目立ちにくくする工夫もあります。ですが切開線がプラスアルファで入るので判断は慎重にしないといけませんね。
三角デザインでドッグイアを修復。
Inverted triangle repair of dog-ear. JAAD ONLINE SURGICAL PEARL| VOLUME 76, ISSUE 3, E95-E97, MARCH 01, 2017
あとがき
わたし金沢は個人的に「ドッグイヤー」と発音していました。イヤホンの「イヤ」ですからね。
ところがドッグイヤーだと「Dog year」の意味で日本語で定着していたようです。犬の成長が著しく早いことから「技術革新の変化が激しいこと」を意味するとのこと。
一方「犬の耳」という意味での「ドッグイア(ドッグイアー)」という言葉がすでにあります。「書籍のページの角を折り曲げる」ことです。しおり代わりによくやりますよね。
医療業界で用いられる「Dog-ear」は文字通り「犬の耳」ですから、今回の記事では「ドッグイア」と記載しました。