たるんだ「ハンモック」を想像してください。真ん中が沈み込んだロープを、ただ上に引っ張り上げても、根本的な緩みは解消されません。
従来の眉下切開が抱えていた限界。それは、垂直方向の引き上げに終始し、顔の中心部へと流れ落ちる「横方向の余剰」を放置してきたことにあります。
その結果どうなるか。鼻の付け根にはたるみが溜まり、眉頭には痛々しいキズが残る。これに対して業界が出した答えは、「じゃあ、おでこを丸ごと持ち上げる『前額リフト』をやりましょう」というものでした。
……いやいや、ちょっと待ってくださいよ。 一部のたるみを消すために、そんな大掛かりで侵襲的な(体に負担のかかる)手術を勧めるなんて、あまりにバランスが悪くないですか?(正直、私なら絶対にお断りです)
私はこの「設計上の欠陥」を埋めるため、眉の中に切り込む特殊なデザインを築き上げました。その成果を2025年美容外科学会で報告したところ、多くの医師から共感、反響を得ました。つまり、現場のプロたちもみんな「このままじゃいけない」とおなじ苦悩を共有していたわけですね。

フックデザイン
この「フックデザイン」こそが、その回答です。眉の中に切り込む。どこで?
眉の内側約1センチのところです。

利点はふたつ。第一に、鼻根部、眉間のリフト効果。第二に、眉頭直下の切開を回避できる点です。
本術式は、水平方向の張力を復元することで、落下しがちな中央部分の皮膚を引き上げます。想像してみてほしい。60歳を迎えると、顔の皮膚には横方向の余剰が生じ、その分が垂れ下がるのです。それを持ち上げるという発想。ハンモックの両端のロープをぐいっと引っ張る様を思い浮かべてください。中央部が持ち上がるでしょう。
もっとも、このデザイン特有の課題もあります。ギャザー変形(皮膚が厚くて硬い場合)、眉の輪郭に一部ノッチが入ること、さらには眉頭の毛流が僅かに変化することです。
それでも、内側リフト効果の意義を考慮すれば、本術式のメリットはこれらのリスクを凌駕して余りあります。眉間・鼻根部の皮膚余剰は、それほど深刻な問題だから。
参考文献:
Jung GS. Modified Infrabrow Excision Blepharoplasty for Severity of Medial Blepharochalasia. Plast Surg (Oakv). 2020 Aug;28(3):167-171.
この論文の主旨は、内側のたるみに対する対処方法の提案。私と同じです。世界的な知見も、私の苦悩を裏付けていましたね。でも、このデザインは眉中には切り込みません。眉の外に出るタイプ。Cは内側のたるみを積極的に取りに行く新しいデザインですね。

眉頭直下に傷を作らないこと
技術と責任
私はこのデザインを、安易に広めようとは思いません。未熟な技術でカタチだけを模倣し、「私に任せれば傷跡はまったく気になりません」なんていう、傲慢かつ無責任な宣伝に利用されるのが、目に見えているから。
いいですか。大事なことなのでハッキリ言います。「キズは、必ず残るもの」です。
どれくらい目立つかは個人差があるし、そもそも同じキズを見ても「気になるかどうか」は本人の主観でしかない。これが、手術という行為の「絶対的な本質」なわけです。 この不都合な真実から目を逸らすような医師に、自分の顔を預けてはいけません。
ゆえに私は断言します。「眉部の傷跡を受け入れる覚悟は必須条件である」と。
そのまなざしで、私の記事内にある「フック型のモデルさん」をみていただきたい。理解はさらに深まり、最初とは違うものが見えてくるはず。⇩

そうそう。現時点における適応(対象)は、原則50歳以上です。若年者が眉下切開を望む場合には、慎重の上にも慎重を期すべきです。
「そんなの厳しすぎる!」というご意見もあるでしょう。でもね。この「覚悟」を共有できる人とだけ、私は理想の『自然なまなざし』を追求していきたい。
耳障りのいい言葉で集客するより、リスクを共有して一緒に山を登る。 それが、プロとしての私の「誠実さの定義」なんです。
皆さんは、どう思われますか?
あとがき
「フック型」というネーミング、いかがでしょう。パッと見てイメージ、伝わりましたか?
じつはこれ、別の候補として「ウィングレット型」っていうのもあったんです。ほら、旅客機の翼の先っぽが、シュッと上に曲がってるあのアレです。
……って、説明が必要な時点でアウトですよね(笑)。
たしかに「ウィングレット」の方が、機能的にもフォルム的にも「まさにこれだ!」という美学はある。でもね。そんなマニアックすぎる言葉を使っても、患者さんとのイメージ共有なんて、まず無理なわけです。
どれだけ自分が「これこそが正解!」と思っている言葉でも、相手に伝わらなければ、それはマーケットに存在しないのと同じこと。
そんなわけで、泣く泣く自分のこだわりを捨てて、誰でも一瞬で理解できる「フック型」という名前に着地した、というわけです。
理想と現実の折り合い。ネーミングひとつ取っても、なかなか奥が深いもんでしょ?

現場からは以上です!

