眉下切開のデザインをするとき、眉頭の少し外側でペン先が迷っていました。
外側と同じ切除幅を保ったまま内側へ進むと、切開線が眉毛の少ない場所へ出てきます。そこまで皮膚を取れば、内側のかぶさりは軽くなるかもしれない。
しかし、その場所の傷は目立ちます。(「この場所に切開は入れない」とルールを作っている外科医もいるくらい)
反対に、眉頭の切開を避けると、今度は眉頭から鼻根部にかけての皮膚が残ります。
内側の皮膚のたるみと傷が目立つ問題。
このふたつの間で迷ったことが、フック型デザインを考えた出発点でした。
通常の眉下切開の限界
一般的な眉下切開は、眉の下縁に沿って横長に皮膚を切除します。
横長の切除部を縫い合わせると、皮膚は主に上下方向へ移動します。上まぶた外側のかぶさりを軽くするには、理にかなった方法です。
一方、眉頭側は傷が目立ちやすい上に切除幅も大胆に取ることができません。

結果として、
外側は軽くなったが、眉頭側と鼻根部の皮膚が余った
ということが起こり得ます。たくさん切除するほどに眉がさがり、鼻根部の横ジワがかえって増えるというシナリオもあります。
そこれに対して業界が出した答えは、「じゃあ、おでこを丸ごと持ち上げる『前額リフト』をやりましょう」というものでした。
……ちょっと待ってくださいね。 一部のたるみを消すために、そんな大掛かりで侵襲的な(体に負担のかかる)手術を勧めるなんて、少々バランス感覚が控えめではないでしょうか?

このデザインで目指していること
これがフックデザイン。
眉の内側約1センチのところに切り込みます。

このコンセプトの狙いはふたつ。第一に、鼻根部、眉間のリフト効果。第二に、眉頭直下の切開を回避することです。
本術式は、水平方向の張力を復元することで、落下しがちな中央部分の皮膚を引き上げます。想像してみてほしい。60歳を迎えると、顔の皮膚には横方向の余剰が生じ、その分が垂れ下がるのです。それを持ち上げるという発想。ハンモックの両端のロープをぐいっと引っ張る様を思い浮かべてください。中央部が持ち上がるでしょう。
もっとも、このデザイン特有の課題もあります。ギャザー変形(皮膚が厚くて硬い場合)、眉の輪郭に一部ノッチが入ること、さらには眉頭の毛流が僅かに変化することです。
ただし、内側の皮膚が完全に消えることを保証するものではありません。眉や前額全体の下降が主因であれば、眉下の皮膚切除だけでは十分に改善しないこともあります。
前額リフトの代わりになる手術ではない
眉下切開と前額リフトは、扱う場所が異なります。フック型は、小さな前額リフトではありません。
眉頭から上眼瞼内側の皮膚余剰を、局所的に補正するためのデザインです。どちらが優れているということではなく、原因と治療範囲が違います。
参考文献:
Jung GS. Modified Infrabrow Excision Blepharoplasty for Severity of Medial Blepharochalasia. Plast Surg (Oakv). 2020 Aug;28(3):167-171.
この論文は、「眉下切開では内側のたるみをどう扱うかが重要な課題である」という問題意識を示しています。私のフック型眉下切開も、同じ課題に対する一つの設計です。Cは内側のたるみを積極的に取りに行く新しいデザインに見えます。
ただし、このデザインは眉中には切り込みません。眉の外に出るタイプ。

眉頭直下に傷を作らないこと
私は2020年からこのデザインを用い、症例を整理して2025年の美容外科学会で報告しました。
ただし、学会で発表したことは、従来法より優れていることの証明ではありません。
現時点では、一人の術者による症例の蓄積です。したがって私は、フック型を眉下切開の完成形ではなく、適応を選んで用いるひとつのデザインと考えています。
技術よりも大切なこと
大事なことなのでハッキリ言います。「キズは、必ず残るもの」です。
どれくらい目立つかは個人差があるし、そもそも同じキズを見ても「気になるかどうか」は本人の主観でしかない。これが、手術という行為の本質です。この不都合な真実から目を逸らす医師が「私が縫合すれば例外なくキレイになる」と胸を張るのを見て、一体どのパラレルワールドで生きる人なのだろうかとため息をついています。
私はあえてお伝えします。「眉部の傷跡を受け入れられることが前提条件である」と。

現時点における適応(対象)は、原則およそ50歳以上の方と考えています。
「そんなの厳しすぎる!」というご意見もあるでしょう。でもね。耳障りのいい言葉で集客するより、リスクを共有して一緒に山を登る。それが、医師としての誠実さなのではないかと思うのです。
皆さんは、どう思われますか?
私が大切にしていること
眉下切開は、皮膚をたくさん取る手術ではありません。
どこを残すか。
閉じるための余白をどれだけ残すか。
時間が経ったときに、どのようになじむか。
そこまで含めて考える手術です。
フック型眉下切開も同じです。
目を大きくするための手術ではありません。
顔の印象を派手に変えるための手術でもありません。
通常の眉下切開では残りやすい内側のたるみを、できるだけ自然に、できるだけ無理なく補うためのデザインです。
診察を希望される方へ
フック型眉下切開は、すべての方に必要な手術ではありません。
通常の眉下切開で十分な方もいます。
そもそも眉下切開ではなく、眼瞼下垂手術を検討した方がよい方もいます。
また、手術を急がず、経過を見た方がよい場合もあります。
自分のまぶたに何が起きているのか。
眉下切開で何が改善でき、何が改善できないのか。
傷あと、左右差、閉じにくさ、時間経過をどこまで受け入れられるのか。
これらを確認したうえで、診察を検討していただきたいと考えています。
診察を希望される方は、まず以下のページをご確認ください。予約前に知っておくべき事柄をまとめました。

基本情報
治療内容
眉下および眉内の皮膚を切除し、縫合します。
通常必要となる治療期間・通院回数
手術、約1週間後の抜糸、術後3-6か月までの経過観察
合併症
| 短期的なもの | 腫れ、出血、感染、傷の離開、突っ張りライン、かゆみ |
| 長期的なもの | 眼脂(めやに)・涙の増加、眩しさ、まぶたの腫れぼったさと赤み、縫合糸の露出、目の違和感・ツッパリ感、皮膚の痺れ・痛み、目立つ瘢痕、低矯正・過矯正、一過性の脱毛 |
| 仕上がりに関するもの | 左右差、眉毛下垂・顔貌の変化、傷の凹凸、まぶたの見かけに対する違和感、再発、ドッグイア、皮膚のひずみ、眉の毛の流れの変化 |
標準的な費用
33万円〜55万円(2026年現在)
あとがき
「フック型」というネーミング、いかがでしょう。パッと見てイメージ、伝わりましたか?
じつはこれ、別の候補として「ウィングレット型」っていうのもあったんです。ほら、旅客機の翼の先っぽが、シュッと上に曲がってるあのアレです。
……って、説明が必要な時点でアウトですよね(笑)。
たしかに「ウィングレット」の方が、機能的にもフォルム的にも「まさにこれだ!」というセンスはある。でもね。そんなマニアックすぎる言葉を使っても、患者さんとのイメージ共有なんて、まず無理ですよね。
どれだけ自分が「これこそが正解!」と思っている言葉でも、相手に伝わらなければ、それは無価値。
そんなわけで、泣く泣く自分のこだわりを捨てて、誰でも一瞬で理解できる「フック型」という名前に着地した、というわけです。
理想と現実の折り合い。ネーミングひとつ取っても、なかなか奥が深いものです。


