こんにちは、形成外科専門医の金沢です。
「まぶたの手術の料金って高いのかな?」
「家計を圧迫しないかしら?」
美容外科手術のイメージがありますか。しかしまぶたが病気ならば健康保険が適用されます。これを知らないと大損します。
黒目が半分かぶさっている患者さんに、「え?!保険効くんですか?」なんて言われた時は、ズコーっとずっこけました😅
あなたも健康保険料、毎月支払っていますよね。
眼瞼下垂手術の負担、健康保険の適用の条件、生命保険の給付金の対象になるか?について解説します。
眼瞼下垂手術の料金負担
眼瞼下垂手術に健康保険を適用
あなたの保険証が使えるのです。体調を崩したり、身体を痛めたりなど病気をした場合に医療を病院で受けると、医療費の一部だけの負担で済みますよね。その健康保険を利用できます。
しかし条件があります。
あなたが「眼瞼下垂」と診断されること。かつ眼瞼下垂症手術の目的を、「眼瞼下垂の修復のみ」とした場合です。両方を同時に満たす必要があります。
一方「眼瞼下垂」と診断されない、もしくは手術の目的が、眼瞼下垂の修復以外(美容その他)も含まれれば健康保険は適用できません。
下垂の修復のみが目的 | 下垂の修復以外の目的を含む | |
眼瞼下垂が病的である | 健康保険適用 | 自費 |
眼瞼下垂は病的でない | 自費 | 自費 |
眼瞼下垂と診断されるとはどういうこと?
ざっくりいうと「病的である」こと。まぶたの機能が破綻した状態です。
ハッキリいうと「視野が狭い」状態。生まれつきの人もいれば、病気や加齢によってその状態になる人もいます。
拡大解釈すると、「視野が狭い」のを代償すべく、おでこのチカラを動員している状態なども含むことも。
この判断は医師がします。解釈も幅があります。患者さん自身が自分で決めることはできません。
数値化しようとする試みはあるものの、臨床(現実)に応用するには課題が多いです。※関連記事は下へ
※「眼瞼下垂はあるけど、健康保険を適用できるほどではない」という診断もあります。その場合は自費負担での治療になります。
手術の目的が下垂の修復以外、とはどういうこと?
「まぶたが下がる病態を修復すること以外」の目的を含む場合。
- ふたえにしたい
- まぶたのツッパリ感を解除したい
- まぶたの厚ぼったさを解消したい
- パッチリ目にして写真写りを良くしたい
以上の場合は健康保険を適用しません。また手術の目的に眼瞼下垂の修復を含めていても、下垂の修復以外の目的が含まれれば保険は適用できません。(結果的にふたえになることはあります)。
たとえば健康保険適用で、全身麻酔で胆嚢摘出手術を受けるとします。この際についでに腹部の脂肪吸引手術を無料ですることはできないということです。
※混合診療についての記事を下にリンク
実際の負担額
健康保険が適用されれば、両目で合計請求額が15〜17万円程度。つまり3割負担であれば、50000円前後の負担です。
眼瞼下垂手術は基本日帰りで可能。しかし諸事情により入院で行うこともあります。
入院すると1日あたり20000円ほどプラスされますので、その一部の負担(3割なら6600円)も必要。差額ベッドを希望したらその分の負担が必要です。
注意:2023年5月現在の情報です。医療機関によっても若干の違いはあります。
費用の内訳
保険診療では医療行為に対しての報酬が定められています。厚生労働省と中央社会保険医療協議会で決定されます。
K219 眼瞼下垂症手術
1 挙筋前転法7,200点 2 筋膜移植法18,530点 3 その他のもの6,070点
2024年現在は、1点10円で計算されます。両目の場合、手術の費用が144000円です。これに手術時の薬剤の費用や再診料などが加算されて合計金額(15万円弱)になります。※医師会による診療報酬についての記事は下にリンク
これが医療機関の売り上げとなり、診療所の場所代、設備代、人件費(医師、看護師、検査技師、医療事務…)、医薬品、ランニングコストの維持に用いられます。
眼瞼下垂の手術を健康保険で受ける場合、日本ではどこでも料金は一律なのです。銀座の一等地でも、私のいる埼玉県😅でも同じです。不思議な感じですね。
追記:『短期滞在手術等基本料1』に基づいた会計処理がなされる場合もあります。
健康保険が適用できなければ自費負担(全額自己負担)
自由診療になるので、価格は医療機関によってさまざま。30万円〜70万円程度まで幅があります。プラス消費税です。
健康保険の5万円前後の出費と大違いですね。
実は健康保険の方が安すぎという考えも
これは私見。安すぎるがゆえにトラブルになっている人を少なからず見ているからです。気軽に手を出してしまう傾向があるかもしれません。結果的に経過が思わしくなくて後悔する人が常に生まれています。
まぶたの手術に限らず、医療は身体的負担や併発症などのリスクを伴います。だから慎重に検討しなくてはならないのです。
家のリフォームをするにあたっては時間をかけて業者選びをするでしょう?だって経済的にも時間的にも負担が大きいですから。
眼瞼下垂の手術を受けるのに6万円でお釣りが来る。安すぎるんです。だから安易に受けてしまいがち。
手術担当医の事を調べもせずになんてナンセンスです。そんな簡単な手術じゃないんです(手術者にとっても、患者さんにとっても)。それが沖縄旅行より安いなんて。
家の購入、結婚相手を決める、くらいの意志で臨むべき。
しかも一度手術をしたら、振り出しに戻せない事を十分に理解しましょう。家の購入や結婚相手なら最悪やり直せますよね。
参考記事:「眼瞼下垂手術後のダウンタイムを最短にして、一刻も早く社会復帰する方法」(内部リンク)
参考記事:「眼瞼下垂症手術の合併症をあらかじめ知っておきましょう」(内部リンク)
コストパフォーマンスのよい手術の受け方は
眼瞼下垂の人は健康保険で治療ができます(保険料払っているんだからね)。これは有効に活用すべき。それに加えて執刀医をしっかり選んでください。
大病院だから安心ということはありません。大きな病院では教育も担っていますから、未熟な若い執刀医に当たるかもしれません(しっかりした指導医がいれば大丈夫)。
眼科や形成外科を、調べもせずにふらっと受診するのはオススメしません。1ヶ月に1人2人しか執刀しない専門医もたくさんいます。
日本の各地には眼瞼を得意とする医師がきちんといます。選んで受診してください。
健康保険の適用の範囲も時代によって変化する可能性
健康保険を適用して手術を受けられる。それも今だけかもしれません。そのうちに健康保険から外される日が来るかも。
逼迫した医療経済を考えれば十分にあり得る話。命に関わる病気に優先的に配分されるでしょう。
冒頭でも述べましたように、健康保険適用の判断は医師によっても解釈の幅はあります。
たとえば私個人で言えば、左右差の著しい眼瞼下垂があれば、視野障害がなくても健康保険適用可能と診断することが多いです(2022年現在)。
生命保険の給付金の対象になるか?
契約している生命保険(医療保険)会社に確認しましょう。医療特約などで組み込まれていれば対象になるようです。
申告する手術術式の種類は以下です。
K219 眼瞼下垂症手術
(1)眼瞼挙筋前転法
(2)筋膜移植
(3)その他のもの
多くの人は「K219-1(左右)」(2024年現在)となります。
まとめ
以上、
- 眼瞼下垂手術の保険適用の条件
- 費用の内訳
- 眼瞼下垂手術(自費の場合)の費用
を提示しました。
さてあなたは、
- 眼瞼下垂に健康保険が使えるって知っていましたか?
- 健康保険を適用できる条件が理解できましたか?
- 国が定めている、日本全国一律のこの料金は適切だと思いますか?
保険診療の医療機関を受診したら診療費の明細を受け取ることができます。しっかり内容を確認しましょうね。
参考
◎「保険診療と保険外診療の併用について」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/heiyou.html
◎「なるほど診療報酬!」日本医師会ホームページ https://www.med.or.jp/people/what/sh/
「眼瞼下垂」を診断するための「物差し」ってあるのでしょうか?医学界で議論するときに「目が小さい」「パッチリ目」という表現では客観性が担保されませんね。だからまぶたの開き具合を数値化して眼瞼下垂の程度を表すことになっています。[…]