眼瞼下垂手術における皮膚のたるみ切除は必ずしも必要ではない
眼瞼下垂手術の目的。それはまぶたの中身のエラーを修復し、視野を広げること。まぶたを持ち上げやすくすること。
まぶたのエラーとは眼瞼挙筋がうまく機能しないことです。その結果、まぶたが持ち上がりません。
例えると、
テニスをしていて足首のアキレス腱が切れてしまい、爪先立ちできない状態です。
この時の治療の目的は何でしょう?
それはアキレス腱が繋がり、ふくらはぎの筋肉が機能して爪先立ちできるようになること。蹴り出すことができるようになることです。
かかとの見栄えをよくすることが目的ではありませんね。
眼瞼下垂手術で皮膚のたるみをとるのが当然って思っている人が多い
眼瞼下垂手術の目的は、まぶたが持ち上がるようにすること。
「視野を良くするならたるみをとった方がいいんじゃない?」
もちろんそれが正解の場合もあります(偽性眼瞼下垂の場合)。
でも必須ではありません。
眼瞼下垂が左だけに認められ、左だけ手術することになったとします。その際、挙筋の修復と同時に皮膚切除をしたら?
左右差が出てしまいますね。手術した方だけたるみがない顔…それは困ります。だから皮膚切除はしません。これは当たり前の話。そして治療の目的は達します。記事の最後にモデルさんを紹介します。
皮膚切除そのものにもリスクがある
皮膚切除すれば、その手技自体のもつリスクがあり、さまざまな悩みが新たに生まれる可能性があります。
だから安易に「ついでに皮膚をとっておきますね」なんて言えないのです。
「眼瞼下垂手術って皮膚のたるみをとるのが当然」って思っている人が多い。
これ、絶望的に勘違いです。
たるみとりはblepharoplasty:まぶた前葉の引き上げ、たるみとり
眼瞼下垂手術はptosis repair:まぶた後葉の挙筋腱膜の処理
別物です。以下の治療くらい違います。
- 歯を白くする治療とインプラント治療
- 白内障手術と屈折矯正
- 開腹手術と腹部の脂肪吸引
治療の目的、本質を見誤ってはいけません。
眼瞼下垂の手術はまぶた後葉を処理することです。
現実には両者を同時にすることもあります。
「健康保険でたるみとりを同時にします」と提案されることもあります。「サービスです。」なんてね。
「ラッキー!」なんて思っていると落とし穴があります。
皮膚切除すれば、下に示したようにさまざまな悩みが新たに生まれる可能性があります。
ただでさえまぶたの手術は不確定要素が多くて結果が予測し辛いのに…
- 傷がさらに長くなる(目尻の線は隠れない)
- ふたえの線が乱れる(切開線で折れない)
- 傷の端っこが盛り上がる(ドッグイヤ)
しかも不可逆的(元に戻せない)。過剰に皮膚切除された人は残念ながら回復できません。ゴミ箱から腐った皮膚を拾って戻すことはできません。
だから安易に「ついでに皮膚をとっておきますね」なんて言えないのです。
とくに要注意なのが厚ぼったいまぶたの人(東洋人)。
しなやかな薄い皮膚が切除されてしまうので、分厚い皮膚によって二重(ふたえ)が作られてしまい、いかつい顔貌(顔つき)になるリスクがあります。
重瞼部分からの皮膚切除はしないか、最小限にすべきです。
たるみ取りは後になってからでも可能です。
どうしても眼瞼下垂手術と同時にたるみを取りたかったら、上のリスクを受け入れる覚悟をするか、眉下切開を考えてください。
皮膚切除を最小限にすべきとは?やっぱり切除してもよい?
「たるみとりは禁忌」とは言いません。
たるみとりにも程度があります。たくさん切除すればリスクは増大します。控えめであればリスクは小さいです。
したがって、リスクを最小限に留める範囲でたるみとりを行うデザインをするのです。このあたりは術者の技量や経験が必要になります。
「リスクを避けつつ最大のたるみとり効果を得る」絶妙な妥協ライン、最適解を探るのです。
しかも最低条件があります。「眼瞼下垂」がきちんと治っていることです。
眼瞼下垂手術に合わせて皮膚切除をするなら、熟練した医師にお願いしましょう。
まぶた難民を経験した
振り返ること10年以上前。
「まぶたの手術を何回も受けたのに視野が広がらない」というまぶた難民です。
診察すると「眼瞼下垂」です。過去の手術は、
- 重瞼部分の皮膚切除
- 眉上の皮膚切除
- おでこ上部、髪の生え際の皮膚切除(前額リフト)
でした。
衝撃です。まぶた後葉のエラーによる眼瞼下垂なのに、ひたすらに前葉を持ち上げる手術を何回も繰り返していたのです。顔の皮膚はパツンパツンです。
白内障なのに、ひたすらに屈折矯正手術をしていたようなもの。アキレス腱断裂なのにかかとの皮膚やふくらはぎの皮膚をせっせと切除していたようなものです。
挙筋の修復をしたら、ぱちっと目が開きました。
「本質を見誤る」とはこういうことです。
モニターさん
左まぶたの眼瞼下垂です。訴えは「左が見えにくい。」
左のみの手術を予定しました。皮膚のたるみとりはすべきでしょうか?
結論は「すべきでない」です。
左の眼瞼下垂をもたらしているのは眼瞼挙筋のエラーです。皮膚のたるみではありません。
したがって挙筋腱膜をそ〜っと修復するのみです。
しっかりと黒目が露出しました。治療の目的は達しました。
「治療の結果皮膚のかぶさりが強調された」
そんな声が聞こえてきます。
その通りです。眼瞼下垂の治療がうまくいくと眉は下がるし、まぶたは持ち上がるしで皮膚が被さるのです。
ただしこれは結果論。
ではもしうまくまぶたが挙がらなかったら?
そう、皮膚は余らないのです。
恐ろしいことですが、医療に完璧はありません。手術が無効に終わる可能性もあるのです。
術前写真に見られるような左目の開き方のままで、皮膚だけ取られてしまうとどうなるのでしょう?想像したくないですね。
だから皮膚の余りに対しては眼瞼下垂手術の結果を見届けてから、たるみとりを計画するのが安全です。
治療の結果どのくらい目が開いたか?どの程度眉位置が変動したか?あるいは右の治療を今後する可能性は?
ゆっくりと評価し、相談していくことになります。
後々のオプションを残すことが安全にまぶた治療を行うコツです。
モニターさん追加
左の眼瞼下垂。左のみの治療です。
当然皮膚切除はしません。皮膚切除は治療の本質でないことがわかりますね。