「顔の手術の後のダウンタイムを最小限にしたい!」
顔の手術を受けた患者さん誰もが悩み、望むこと。1日でも早く社会復帰したいですものね。
じつは飲み薬として、傷の回復を早くするという「薬剤?」に出会ったのです。
おお〜神の薬??
眼瞼下垂手術を執刀している私は興味を持たないわけはありません。
アルニカ・モンタナ(Arnica montana)
薬用ハーブ。ヨーロッパでは民間療法(代替療法)としての歴史があるよう。
かすり傷や打撲などに用いられてきたとか。これがシンエック(Sinecch)の材料です。
学術報告もあります
アルニカ・モンタナの周術期投与(内服)は鼻の形成手術後の紫斑を減らした。22人の調査。紫斑の範囲と消退がプラセボに比較して有意に(P<0.1)小さく、早かった。
鼻の手術も顔が腫れますからね。やはりなんとかしたいという気持ち、痛いほどわかります。
目まわりの手術も同じです。
目まわりの手術後に肌へ塗ったら腫れと紫斑がはやく退いた。27人の調査。
おお?なんだか頼もしいですね。ちなみにこの調査はアルニカモンタナだけでなく、”rhododendron tomentosum”というハーブも使われています。
シンエックはホメオパシーだった…
同時に反論もありました。「科学的でない」と。「疑似科学である」と。
そう、ホメオパシーは多くの科学者が否定しています。
②の論文「Arnica 1M 50% and Ledum 50 M 」という希釈……とはいったい?
a dilution of 1 particle in the known universe is only 40 C
観測可能な全宇宙の分子で1分子を割っても「40C 」である。
この記事はすぐ上に紹介した、「目まわりの手術の後に塗ったという研究」に対する意見です。
つまり宇宙の全分子を用いて希釈した濃度よりも、もっともっともっともっと……希釈された濃度ってこと。いわゆる全宇宙(ぜんうちゅう)で希釈したものよりも薄い濃度とは?
これって…ずばり「無」に等しい。
Understanding the Paradox of "Less is More" By Douglas Brown…
シンエックは「1M」のカプセルと「12C」のカプセル2種類からなるホメオパシー商品です。1Mは100倍希釈を1000回、12Cは100倍希釈を12回です。いずれにしても太平洋の大海原に一滴垂らして十分に撹拌してから回収したサンプルよりももっともっと希釈されています。
先程の「M」の単位を用いて「1M」の希釈濃度を作ってみます
1リットル(1kg)の水にマイクロピペットを用いて1μlの原液のしずくをポタリと入れて希釈(これで1000000000倍=10の9乗)します。(1L=1kg=1000g=1000000mg=1000000000μg)
この希釈液1リットルの中から1μlだけ吸い取ります。そしてあたらしい純粋な水1リットルに垂らします。
このプロセスを222回繰り返します。
これで10のマイナス2000乗です。1Mです。
太平洋の大海原に一滴垂らして十分に撹拌してから回収したサンプルよりももっともっと希釈されています。
もちろん結果的にはもとの薬草の分子ひとつ分も存在しない液体になっています。
しかしホメオパシーの考え方は「濃度」ではなく、「水の記憶」との考えであり、「希釈回数」が重要なのだとか。だから私のやり方は「ズル」だから効き目が出ません。なんだったらプールの水、いや琵琶湖を使えば希釈回数減らせるかなあと思ったけどダメです。
軟膏は効き目なかったとの報告
アルニカ軟膏は上眼瞼手術後の腫れ、赤み、痛み、内出血を改善しなかった
試験側にアルニカ軟膏とプラセボ軟膏、そして反対側はケアなし。136人の調査です。結果はプラセボ軟膏との差は認めず。
というかプラセボ効果すらありませんでした。このアルニカ軟膏もホメオパシー。
※「腫れの程度に差がなかった」というのは「効果がないこと」の証明ではありません。「無いことの証明」は「悪魔の証明」と言われ、難しいのです。
※毒にも薬にもならないと言いたいのですが、外用にせよ内服にせよ添加物もあるので副作用には注意です。
しかし一番上に紹介したジャーナルは形成外科領域ではそこそこに知られたジャーナルなんです。複雑な気分😅。
参考:日本医学会の声明
その理由は「科学の無視」です。レメディーとは、植物、動物組織、鉱物などを水で100倍希釈して振盪(しんとう)する作業を10数回から30回程度繰り返して作った水を、砂糖玉に浸み込ませたものです。希釈操作を30回繰り返した場合、もともと存在した物質の濃度は10の60乗倍希釈されることになります。こんな極端な希釈を行えば、水の中に元の物質が含まれないことは誰もが理解できることです。「ただの水」ですから「副作用がない」ことはもちろんですが、治療効果もあるはずがありません。物質が存在しないのに治療効果があると称することの矛盾に対しては、「水が、かつて物質が存在したという記憶を持っているため」と説明しています。当然ながらこの主張には科学的な根拠がなく、荒唐無稽としか言いようがありません。
シンエックはFDAで承認されてるのか問題
ネットでは各美容外科クリニックが「FDAお墨付き!」みたいに宣伝しています。「シンエック FDA」でググってみてください。
「シンエックは、FDA認可のAlpine Phamacuticals 社(米国)の商品です。」
「FDAの認可もあり安全性の高い商品です」
「手術の腫れや内出血を軽減させることができる、FDA認可の天然成分の医薬品です。」
おお?頼もしいですね!
FDA: Food and Drug Administration(食品医薬品局)
まずはFDA本家のウェブサイトで承認されているのか調べてみます。しかし、残念ながらその情報には行き着くことはできませんでした。
「arnica montana」「sinecch」「arnica」「montana」で検索するもヒットせず。”Your search did not return any results.”
つまり「そのようなものは扱っていない」とのことです。
だれか、わかる人いたら教えてくださいませm(_ _)m
一方FDAが「毒性をもつ植物」としてデータベースを公開しています。そこでは、“arnica montana”がありました。おもなる報告はアレルギー反応のようです。ただし、心配しないでください。報告はホメオパシーとしてのアルニカモンタナではありません。あくまでその薬草に対してのアレルギーです。シンエックにはアルニカモンタナの成分が一分子も含まれていないはずなので。
アメリカ国立医学図書館
「FDAのサイトに掲載されていない問題」について、アメリカ国立医学図書館のウェブサイトに解答がありました。
DISCLAIMER: This homeopathic product has not been evaluated by the Food and Drug Administration for safety or efficacy. FDA is not aware of scientific evidence to support homeopathy as effective.
このウェブサイトによると、”Sinecch(シンエック)”はFDAでは安全性や効果について、評価の対象になっていないとのこと。FDAはホメオパシー自体を認めていないようです。
調査終了
私の検索能力の限界です。「FDAに確かに承認されている」との情報がありましたら教えていただけると幸いですm(_ _)m
そもそもホメオパシーであることが科学的評価の限界
アルニカモンタナの成分が含まれていれば、薬効を評価することができます。しかしその成分自体が含まれていないホメオパシーですから、そもそも評価の対象にならないのですね。
「信じれば救われる」プラセボ効果は期待できるかもしれません。お守りや壺など、おまじないレベルには効果はあるかもしれませんよ。
ダウンタイムの短縮には、こちらの記事を参考にしてくださいね。
関連記事:『眼瞼下垂手術後のダウンタイムを最短にして、一刻も早く社会復帰する方法』
まとめ
以上、
- 「シンエック」はホメオパシーだった
- 薬効成分になるはずのアルニカモンタナは一分子も含まれていない
- FDAに承認されているとの事実が確認できず
を提示しました。
さて、あなたは、
- ホメオパシーって知っていましたか?
- 一分子も含まれない薬物の効果を信じられますか?
- 他人から勧められたらどうしますか?
2022年現時点で、私個人の意見としては、科学的根拠がないことから、
- おすすめはしないが、自分に使用するのは個人の自由
- 他人に勧めるべきでない
- ダウンタイムが長期化したのを、「これを使用しなかったから」と後悔する必要も無し。責める必要も無し。