まぶた術後に一刻も早く社会復帰するために
ダウンタイムとは?
一般的に「ダウンタイム」の語義は、
と定義されます。なるほど、工場などの運転が止まっている状態が続いている期間ですね。
一方、形成外科的に「ダウンタイム」というと、「手術を受けてから社会復帰までの期間」と定義できます。
「眼瞼下垂手術後のダウンタイム」の原因
腫れ、むくみ
眼瞼下垂症の手術をすると、まぶたが強く腫れます。局所の炎症により、血管内の水分が漏れだして局所の間質に水分がたまる現象。水を吸ってスポンジが膨れ上がるイメージです。局所の内圧が上がることで出血が抑えられる効果があります。
紫斑(青タン、青あざ、内出血斑)
眼瞼下垂手術の後に、内出血の青い色がつくこともあります。徐々に黄色に変化して吸収されていきます。打ち身の青たん、採血や注射の時にできた青あざをイメージしてください。
そのため、はじめの1週間は人に会うのがためらわれるくらいの顔になっています。ボクシングなどの格闘技をした直後の選手をイメージしてください。そのため、例えば人と頻繁に会う仕事をしている人は、仕事を1週間休業するわけです。この1週間が「眼瞼下垂治療のダウンタイム」となります。
腫れの経過は?
手術後2,3日が腫れのピークで、1週間後におよそ半分腫れがひきます。さらにもう1週間で7,8割腫れがひきます。
その後は、少しずつ少しずつ腫れがひいていき、3ヶ月から6ヶ月程度(長い人は1年程度)で最終形に落ち着きます。(厳密には初期の腫れは炎症に伴う腫脹ですが、2週間経過した後の腫れはむくみのようなものになります。)
紫斑の経過は?
内出血斑(紫斑)は2週間程度で紫色から黄色になり、さらに2週間程度かけて吸収されます。
関連記事:『眼瞼下垂手術後の出血斑(青あざ)は何日できれいになる?』(内部リンク)
わたしの眼瞼下垂手術のダウンタイムは何日間ですか?
「社会復帰するまでの期間」ですから、あなたの生活環境によります。人それぞれ。
- 営業などのお仕事:少なくとも1週間は支障あり。
- 顔のモデル:1ヶ月は無理。濃いメークをすれば2週間くらいから大丈夫かな。
- 屋内でのデスクワーク:翌日からでもOK。
- スーパーへの買い物:サングラスを着用すれば翌日からOK。
- 車の運転:1週間程度は控えたほうがいいかも。事故に巻き込まれた時に不当な過失割合が当てられる可能性も?
- 運動:1週間は控えるべき。
仮に同じ腫れ方だったとしても職業や生活スタイルによってダウンタイムが異なることがわかりますね。
イベントを控えている人は注意!
- 自分や親族の結婚式を控えている
- 旅行やイベントで写真を撮られる機会を予定している
などの場合は、それらのイベントが終わってからか、もしくは1ヶ月程度は余裕を持って手術のスケジュールを組みましょう。
腫れや内出血の強さには個人差がある
腫れの度合い、内出血の目立ちやすさも非常に個人差が大きいです。この個人差もダウンタイムに影響します。
腫れが長引きやすい要素・要因は、
- 男性
- 高齢
- 眼輪筋の緊張が強い
- まぶたが腫れぼったい(脂肪が多く、筋肉が厚い)
- もともと浮腫んでいる
- 侵襲の大きい手術(脂肪切除、眼輪筋切除、皮膚切除の量が大きいなど)
- 手術時間が長時間(術者の技量も影響)
当てはまりそうですか?
内出血の程度に関しては、患者さん要因と医療提供側要因がある
患者さん要因としては
- 出血傾向
- 組織が硬い
- 高齢
- 過去の手術の経験
- 抗血小板薬の内服(バイアスピリンなど)
- 抗凝固療法中(ワーファリンなど)
- 高血圧
- 月経
- 安静にできない
などです。
医療提供側要因としては
- 手術者の技術
- 手術の器械の性能、器械の選択
です。
しかし不確定要素も多く、ベストを尽くしても内出血の色が出ることはあります。
ダウンタイムを短くするためにできること
まずは大事な3点。
- 頭に血が上る行為を控える
- 患部をクーリング(冷却)する
- まぶたへの物理的な刺激を避ける
以上を徹底してください。
(1)温まる行為を極力控える
- 熱い湯に浸かる
- サウナに入る
- 激しい運動をする
- 飲酒する
これはすべきでない事です。つまり顔が火照る様な行為を控えなければならないのです。想像すればわかりますよね。
上半身を起こした状態のほうが頭に血が昇りません。日中はゴロゴロ横になっているよりも、上半身を起こして活動したほうが良いでしょう。
スーパーに買い物に出かけたり、職場でデスクワークするのは大丈夫です。
(2)冷却は有効
クーリングも有効。濡らしたハンカチやガーゼで冷やしても良いでしょう。保冷剤を利用することもあります。
※:スポーツ医学における外傷時の応急手当:RICE処置ってご存知ですか?
- R:Rest:安静
- I:Icing:冷却
- C: Compression:圧迫
- E:Elevation:挙上
炎症に対する処置としては考え方は同じです。
冷却期間は3日間から7日間(諸説あります)です。しかし、冷却は有効でないとの報告も(下記)。
(3)局所は安静に
あなたがまぶたを擦る癖を持っていたら注意してください。3ヶ月は愛護的に。
- 縫合して連結させた組織同士の癒着(結合)が外れてしまいます。縫合したキズが開く危険性もあります。
- こする刺激で炎症も長引きます。
のり付けした工作の「のり」がまだ乾く前に触らないように、ということ。
洗顔で軽く触る程度は支障ないですが、痒みでまぶたを擦りたい衝動にかられたら…
- メガネをかける
- 冷やす
- 抗アレルギーの点眼薬をさす
などで対処しましょう。普通に生活して瞬きするなどは問題ありません。
花粉症の症状がコントロール出来ない人は、花粉症の時期は手術は避けた方が良いかもしれません。
(4)睡眠を十分にとる
創傷治癒は睡眠中に進みます。成長ホルモンも増え、組織の修復が早まります。これが最も有効だと個人的には思います。
以下のアプローチは効果が明らかではないが、復帰を早くする可能性が
(1)のみ薬での対処
術後1週間程度で十分かも。
治打撲一方:ヂダボクイッポウ: ツムラ89番 効能:打撲による腫れ。痛み
内出血をひかせる作用のある「川骨(せんこつ)」や便の排出を促す「大黄(だいおう)」など7種類の生薬を含む。血の巡りを良くすることで内出血をひかせる働きを持つ。
桂枝茯苓丸:ケイシブクリョウガン ツムラ25番 効能:血流の改善
血流をよくする。
柴苓湯:サイレイトウ ツムラ114番 効能:むくみをとる
余分な水分を排出する。
これらはまぶた手術を受けた”医師”が実際に内服し、「よかった」との情報によります。使用にあたっては必ず医師と相談してください。わたしは個人的には処方していません。
「短期的にステロイドを内服したと」の情報もあります。薬理学的には腫れの程度を抑えることは可能と思われます。副作用として「治癒が遅れる」「感染に弱くなる」「血糖値が上がる」などが予想されます。私個人は処方していません。今後の研究を待ちたいです。
(2) 塗り薬(外用薬)
ワセリンを創部に塗るとかゆみなどの違和感が落ち着きます。抜糸が終わっても勝手に塗り続ける患者さんが意外に多いことから判明しました。術後2週間程度は効果がありそうです。
(3) 生活習慣での対処
水分を控える:水分を摂りすぎるとむくみが強くなります。
糖質を控える:糖質を摂取すると喉が渇き、水分を余分に摂取することになります。
(4) マッサージ
いわゆるリンパマッサージ。目周りのリンパ液は耳の前に集まり、首に流れて胸に注ぎ込みます。その流れを助けてあげると顔のむくみが改善します。耳の前から首にかけてやさしくさするよう(そっとタッチするくらいの優しい刺激)にマッサージしましょう。術後3ヶ月程度は有効かも。まぶたそのもののマッサージは避けてください。
(5) 圧迫
やさしく圧迫することは、腫れやむくみを改善します。術後3日間程度は有効です。圧迫の圧力が強すぎると目玉をそのものを圧迫するので加減が大事。自己判断で行うのはおそらく難しいでしょう。
関連記事:『術後のまぶたの腫れは合目的的かもしれない』(内部リンク)
事前(まぶた手術前)にできることはないか?
社会復帰を早めるためには、傷の回復を早めること。そのためのコンディション作りは有効です。
(1) 創傷治癒能力を高める
生活リズムを規則正しくすることは、傷を治す成長ホルモンの分泌を促します。また皮膚のコンディションにも好影響を及ぼします。特に睡眠。
(2) 皮膚のコンディションを改善する
- ニキビ治療
- 皮膚炎の治療(アイテープをしているヒトは1週間は休ませること)
- 日焼けをしない:日焼けをすると皮膚の弾力性、柔軟性が失われます。
- 乾燥のケア:保湿をしっかり
- タバコを控える:血のめぐりを改善し、皮膚のキメと弾力性、柔軟性を少しでも回復させます。
結局は見かけの問題
どんなに腫れてて、内出血が酷くても、本人は痛くも痒くもありません。周りが気にならなければ翌日から活動しても構いません。
カモフラージュする手段を持つのも選択肢
- メガネ
- サングラス
- つばの大きな帽子
- 上手にメーク
- 目立つイヤリング(注意を逸らす)
サングラスは人気です。おしゃれなサングラスを探してください。最近のトレンドとしては厚めのフレームのメガネです。サングラスは逆に目立ってしまう(日本では)かも。
注意!術後内出血でまぶたに大きな青あざを作った患者さんが3人
○術後4日後に入浴して内出血しました。まぶたに「プチッ」とした衝撃を感じ、その後ぷくーっと腫れてきたそうです。 😥
○術後4日で、強く咳き込んだときに内出血を起こしました。いわゆる「お岩さん」になりました。
○手術当日帰宅して出血し、「お岩さんに」なりました。 😥 ※プライバシー保護の観点から「まぶた講座」でのみ写真閲覧可能です。
細心の注意を払ってもこのようなトラブルを起こすことはあります。3人ともその後のケアで綺麗に落ち着いています。
以下の記事に体験談リンク集を記載しました。
眼瞼下垂の情報収集で参考になるウェブサイト親しみやすく分かりやすい内容のものをピックアップしてみました。大学病院など権威のある病院のウェブサイトも探しましたが、詳細な情報を載せている病院はありませんでした。クリニックレベルの方が患者さん[…]
「術後間もない時期のダウンタイム中の経過」を勇気を持って報告してくれる方々です。色々な経過があることがわかる貴重な情報。クリニックの宣伝になるものや写真のメークが濃いものは誤解を生む可能性があるので省いてあります。個人による個人のためのwebsiteを選びました。
追記1
冷却は有効ではなかったとの報告が!
「まぶた手術後の冷却行為の『痛み、むくみ、あかみ、内出血』への影響について」結果:当日の痛みは軽減したが、他は効果なしだった。
「眼瞼下垂の手術終わったら、せっせとまぶたを冷やします〜」それって意味のある行為なのだろうか?まぶた手術後のクーリングには腫れを早く退かせる効果はなかったまぶた手術後の冷却行為の「痛み、むくみ、あかみ、内出血」への影響[…]
追記2
「シンエック」という内服薬が美容クリニック界隈で紹介されています。これはホメオパシーに基づく治療。元の成分はほとんど入っていないというおまじないのようなものです。
関連記事:『まぶた手術後の腫れの期間を短縮する「シンエック」って?』(内部リンク)
まとめ
以上、
- 眼瞼下垂手術後のダウンタイムとは
- ダウンタイムの長さ
- ダウンタイムを短くする方法
- 手術前の準備
- カモフラージュ方法
を提示しました。
- 眼瞼下垂手術後はすべての人が痛々しいお顔になるって知っていましたか?
- ダウンタイムを長引かせないために、してはいけない事が理解できましたか?
- カモフラージュも手段として有効に利用できそうですか?
いずれにせよ、ある程度のダウンタイムは避けられません。そのプロセスをゆっくりじっくり味わうくらいの気持ちで臨むか、目を見ないで過ごす余裕を持ちましょう。”A watched pot never boils(見つめてたらお湯が沸かない)”というイギリスの諺。見つめるほど腫れは退きません。少なくとも抜糸が終わったら目の手術をしたことを忘れるくらいのマインドでもいいかも。
あとがき
眼瞼下垂の手術後5日目にマラソンレース10キロ走った猛者がいました。1週間後の抜糸のときは傷の癒合が弱かったのを覚えています。
腫れと内出血は大丈夫でしたが。オススメしません。(注意:その患者さんは医療関係者です。)
あなたへの質問
ダウンタイムの過ごし方やケアの方法など、良いアイデアがあったら教えてください。この記事に追記させていただきます😀
ご回答
実際の経過写真…
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