“瞼が重く皮膚のたるみもあり、現在眼瞼下垂の手術を希望しています。
眉の下できる方法も候補にあるのですが、目元の張りのない皮膚を取らないと結局はまつ毛に余剰皮膚が乗っかりそうな気がして、二重線での切開の方が良いのかなと考えています。
ただ、二重線での切開の場合皮膚の切除は最低限に、と金沢先生が書いていらっしゃるのを読ませていただきました。皮膚切除が少ないと術後落ち着いてきた時にすぐまつ毛に瞼が乗ってきそうな気がしてしまい、躊躇しています。
美容外科さんなどではオンラインで〜5mm切除された症例も見ますが、確かに厚い皮膚が降りてくるというのも分からなくはないです。眼の開きを最優先していらっしゃるために皮膚の切除には慎重な態度になる事もあるのでしょうか?
金沢先生の症例で、仕上がりの審美的な希望で皮膚の切除を多めにされる場合、どのくらいまでされますか?
(勿論しわしわのご老人などではまた比較にならないかもしれませんが…)
ご多忙かと思いますが、ご意見を伺えたら幸いです。
宜しくお願い致します。(若干の改変あり)”
個別の特殊ケースではなく、普遍的な質問内容と思われたのでシェアします(同意を得た上で質問内容を少し改変)。
でもなかなか鋭い内容です。とてもいい質問だとも思います。
※診察をしていないので、一般論として回答いたします。
眼瞼下垂手術で皮膚のたるみをとるべきか?
結論から申し上げると皮膚切除は必要ありません。眼瞼下垂とはまぶたを持ち上げるシステムがエラーを起こしている状態です。
踵のアキレス腱で例える

テニスをしている人が試合中に「踵のアキレス腱が断裂してしまった」ような状態です。こうなると足関節で蹴り上げる事(爪先立ちとか)ができなくなりますよね。
足首(足関節)の機能を回復するために必要なことは?
そうです。断裂したアキレス腱が再度連結され、ふくらはぎの筋肉のチカラが発揮できるようになることです。
医療では手術で腱の縫合をしたり、ギプス固定をして保存的に(自然治癒を促す)治療したりします。
仮に手術をするとして、踵の皮膚を切除する事があるでしょうか?
答えはNOです。
足関節が機能しない原因は、皮膚のたるみではないからです。
アキレス腱やふくらはぎの筋肉に相当するのが眼瞼挙筋腱膜と眼瞼挙筋
挙筋自体もしくは挙筋腱膜にトラブルが起こること。これが原因で眼瞼下垂になります。(※関連記事「眼瞼挙筋とは」へのリンクは下)
まぶた本体を引っ張り持ち上げるシステムにエラーが起こるものです。これが真の眼瞼下垂です。
まぶた本体(後葉)が持ち上がらないので黒目が十分に露出せず、視野が狭くなります。後葉の下垂。
左右差のあるケースです。左だけの手術です。皮膚切除はしません。

(関連記事は下にリンク)
「皮膚のたるみでも視野が狭くなるよ」
という声が聞こえてきます。
その通り。皮膚のたるみがひさしのようにかぶさってくるとやはり視野が小さくなりますね。
これは前葉の下垂。偽性眼瞼下垂です。
この場合は皮膚切除も選択肢です。しっかりしたふたえを作ることも選択肢になります。
質問者さんに対する回答です。
Q.皮膚のたるみを取らないと皮膚がかぶさってくるのでは?
可能性はあります。まずは本当に眼瞼下垂なのかの診断が必要です。後葉の下垂なのか?それとも前葉の下垂なのか?しっかり見極めましょう。
後葉の下垂(真の眼瞼下垂)である場合、治療によってこれが修復されると皮膚のたるみが多くなる場合があります。
眉位置の変動、目の開きの変動によってたるみ量の増加が影響されます。(※眉位置の変動記事へのリンクは下)
どのようなシナリオに進むかによってたるみの量がまったく異なってきます。眉位置や目の開き加減は予測がつかない不確定要素なのです。
もうひとつ、大事なこと。それは皮膚を取りすぎた場合、元に戻す事ができないということです。
以上から「眉位置が下がらない」、「目の開きが大きくならない」という前提で皮膚切除のデザインをするのが安全です。
結果的に眉位置が下がった上に目の開きが大きくなり、皮膚が大量に余るというシナリオもありますが、後日解決する事ができます。
フェールセーフの概念です。失敗するなら安全な方に転ぶようにします。
では前葉の下垂(皮膚のたるみ)が主体であった場合は?この場合は皮膚切除(重瞼部分もしくは眉下)も選択肢です。単に二重にする方法もあります。
現実には前葉と後葉の下垂は両者併存します。なので実際には診察して判断することになるでしょう。
Q.重瞼部分からどの程度皮膚が取れるか?厚い皮膚が降りてくる?
まさしくその通りで、切除量が大きくなるほど眉側の厚い皮膚が降りてきます。不自然な目の形になるリスクがあります。
これも程度問題です。切除量が少なければその分「不自然になる確率」はおよび「不自然さ」は小さく済みます。切除量が多ければその分…
そして目の輪郭の不自然さに不満が残っても、もとに戻すことはできません。
前葉のたるみが著しく、大量に切除する事が必要になる場合もあります。縦幅で15ミリとることも。しかしその場合は仕上がりイメージをあらかじめ予測する事が難しいということをご理解いただく必要があります。
「目の輪郭の不自然さ」「仕上がりのイメージを予測するのが難しい」という観点からは眉下切開の方がリスクは大幅に小さくなります。(※眉下切開記事へのリンクは下に)
以上から通常の眼瞼下垂手術の際に、無理に皮膚切除(たるみとり)を多くすることはおすすめしないという結論になります。
Q.どのくらい皮膚切除が可能か?
何ミリと具体的な数値で示すことはできません。各個人にあったデザインを行い、結果的に「何ミリ」になるというのが現実です。
人体のスケールは個人差が大きいです。たるみが多いと言っても小柄な女性と顔の大きな大柄な男性とではまったく量が異なってきます。
決まった人数分の料理を作る際はあらかじめレシピで分量が設定されます。一方レシピにない料理をする場合は熱の通り具合や味をリアルタイムに調節しますよね。使用した調味料の量や加熱時間は結果です。
まあ、こんな回答だと物足りないかもしれません。
あえて申し上げれば…
見かけの仕上がりをまったく考慮しないという前提であれば、目安とする切除デザインというのはあります。
眉下のラインから重瞼の谷間までの距離を最低15〜20ミリは温存(確保)することです。これは目が閉じられなくなるなどのリスクを回避するためのもの。
そもそも眉の輪郭(境界)自体も曖昧なので、数値も曖昧です。この点はどうかご理解くださいませ。
重瞼部分から皮膚切除したモデルさん
幅15m程度切除しました。眉下からは20mm残しています。
厚い皮膚が降りてきました。二重の折れ方があつぼったくてガタついています。

この患者さんの記事はこちら『偽性眼瞼下垂症の手術方法は複数。眼瞼下垂手術か、上眼瞼リフト(眉下切開)か?』
顔の印象もガラリと変わっています。印象の変化を受け入れる覚悟が必要ですね。
以上、
- 眼瞼下垂症と皮膚のたるみとの違い
- 眼瞼下垂手術で皮膚切除は必須でない
- 重瞼部分から切除するとしても控えめにすべき理由
を提示しました。
さてあなたは、
- 皮膚のたるみによる視野障害を偽性眼瞼下垂というのが理解できましたか?
- 眼瞼下垂手術をするなら皮膚のたるみも取りたいですか?
- 印象の変化を受け入れられますか?
鏡を見て考えてみてください🤗
お問い合わせから質問いただき、回答をここで共有することに承諾いただきました。ありがとうございました。






