後葉の眼瞼下垂は、真の眼瞼下垂。前葉の下垂(たるみ)との違いを解説

こんにちは、形成外科専門医の金沢です。

「眼瞼下垂手術ってこの皮膚をピッと切り取るんでしょう?」

こんな風に理解している人も多いはず。

結論から言うと、まったくの大間違いです。

本当の(真の)眼瞼下垂患者さんを2人お見せします。皮膚切除は必須でない事がわかりますよ。

まぶたって薄っぺらい組織に見えますが、厚みがあり、層構造があります。どのレイヤ(層)が破綻しているかで、治療方法が異なります。

まぶたには厚み(前葉と後葉)がある

前葉(anterior lamella)は、皮膚と眼輪筋後葉(posterior lamella)は瞼板、眼瞼挙筋、ミュラー筋、瞼結膜が含まれます。

いわゆる腱膜性(退行性)眼瞼下垂は、後葉の下垂です。これは真の眼瞼下垂。対して、前葉のみの下垂は偽性眼瞼下垂(眼瞼皮膚弛緩症、ひとえまぶた)と言われます。

二重(にじゅう)シャッターです。前葉は表のシャッター。後葉は奥のシャッターです。(二重(ふたえ)の人は二重シャッターが物理的に緩く結合しており、連動する仕組みになっています。)

後葉の下垂(退行性眼瞼下垂)は、まさにまぶたの中身の破綻現象

いわゆる腱膜性(退行性)眼瞼下垂は、後葉の下垂です。これが真の眼瞼下垂。まぶたの中身が破綻している状態です。二重シャッターでいうところの奥のシャッターが壊れている状態。

コンタクトレンズを長年使用していたり、まぶたをこする癖があると、まぶたを持ち上げる筋肉(眼瞼挙筋の連結)がゆるみ、(ミュラー筋の力も限界に達し、)まぶた後葉を持ち上げることが困難になります。

視野を補おうとバックアップシステムである前頭筋が動員され、眉があがります。しかし、持ち上げられるのは前葉(皮膚)のみです。一方、後葉もつられて少しは上がりますが、基本的には置き去りにされる力が働きます。その結果、まつげが上を向いてくる人もいます。

前葉の下垂(偽性眼瞼下垂)はまぶたの表側のたるみ、置き去り現象

一方、まぶたのオモテ(皮膚と眼輪筋)がたるんでかぶさってくることを

  • 偽性眼瞼下垂症
  • 偽眼瞼下垂
  • まぶた皮膚弛緩症
  • Dermatochalasis

などと呼びます。

二重シャッターの表側が上がらない状態。もしくは下がってしまった状態。

まぶたの後葉はしっかり上がります。しかしながら前葉との連動が乏しく、前葉が置き去りになります。二重シャッターのうち、後ろのシャッターだけが上がるも、表のシャッターが上がらないようなものです。この場合は、おでこのチカラで表のシャッターを持ち上げることができます。(広い意味で、ひとえまぶたの人もこの範疇に入れることもあります)

しかし、加齢によって表のシャッターが(垂れて)おりてくると、おでこの力も限界に達します。そして視野が狭くなります。一方、奥のシャッターは機能しています。ここが味噌です。

当然両者の合併もある

表のシャッター、奥のシャッター同時におりてくることもあります。

各々の治療法

前葉の下垂の場合

前葉の下垂のみであれば、たるんだ皮膚(眼輪筋)を切り取ることで解決できます。また、後葉との物理的な結合をつくる(ふたえ手術)も有効です。

皮膚切除をする部位は眉下もしくは、まぶたの縁(ふたえにする場所)です。

関連記事:『上眼瞼リフト(眉下切開)』

関連記事:『通常の眼瞼下垂手術か、上眼瞼リフトか?どちらが良い?』

後葉の下垂の場合

眼瞼挙筋の連結を復元します。いわゆる挙筋前転法ですね。同時に前葉との連結も作るので前葉もある程度持ち上がるようになります。

くどいようですが、皮膚切除は必須ではありません。アキレス腱断裂を起こした患者さんのかかとの皮膚を切除することは、決してないですよね。

前葉と後葉の下垂の合併の場合

上の方法を組み合わせます。

実際のモニター患者さん

何十年もコンタクトレンズを装用している患者さん。眼科の先生から紹介がありました。「ふたえ幅」が広くなってきた様子。

典型的な腱膜性(退行性)眼瞼下垂です。シンプルな挙筋前転法(腱膜固定)が適応です。ちなみにまぶたの前葉はたるんでいません(年齢応分にはありますよ)。したがってまぶたの中身のみの修復としました。

コンタクトレンズ眼瞼下垂
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コンタクトレンズの着用

モニター患者さん2

眼瞼挙筋が機能せず、後葉が持ち上がらない状態。まさに真の眼瞼下垂です。

まずは本質を解決する事。中身のみの修復です。

視野が改善し、本人の目的を達する事ができました。つまり、ここまでは明らかに機能を回復する治療。

もし、前葉の下垂(たるみ)が気になるなら、後日相談です。つまり、皮膚切除はあくまでオプションです。

眼瞼下垂手術でまぶたの中を修復
眼瞼下垂手術でまぶたの中を修復

まとめ

以上、

  • まぶたには前葉と後葉がある
  • 後葉の下垂が真の眼瞼下垂
  • 後葉の下垂は皮膚切除は必須ではない
  • 実際のモデル症例

を提示しました。

  • まぶたには厚みがあり、前葉下垂と後葉下垂でまったく異なる現象であるって知っていましたか?
  • 真の下垂は中身の構造破綻現象である事が理解できましたか?
  • あなたは前葉の下垂ですか?それとも真の下垂(後葉の下垂)ですか?

鏡を見て自己診断してみましょう。

 

※眼瞼下垂症啓発目的に写真を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます😊
尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。

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