眼瞼挙筋(がんけんきょきん)とは

こんにちは、形成外科専門医の金沢です。

まぶた治療関係者は「挙筋(きょきん)が〜」などと呼びます。

眼瞼下垂の手術中に、「挙筋が動いてない」「挙筋が外れてる」「挙筋に麻酔が効いちゃった」とか聞こえる時があります😅

眼瞼挙筋って何でしょう?

結論から言うと「まぶたを持ち上げる筋肉」。

でも、まぶたを持ち上げる筋肉はいくつかあります。

  • 眼瞼挙筋:動眼神経支配
  • ミュラー筋(Müller’s muscle):交感神経支配
  • 前頭筋:顔面神経支配
  • 上直筋:動眼神経支配

これらが共同的(協同的)に機能しています。

例えば腹筋をするとき(腰を深く曲げる)は腹直筋、腹横筋、大腰筋、外腹斜筋、腸腰筋が働きます。つまり単独の筋肉だけで動くのではないのはまぶたも同じです。

人においては眼瞼挙筋がメインに使われ、補佐的にミュラー筋、前頭筋、そして上直筋を利用しています。

その「力バランス」は個人によります。例えば、いわゆる蒙古系のひとはミュラー筋と前頭筋につよく依存します。しかしながらいずれにせよ、眼瞼挙筋がメインであることには変わりありません。

関連記事:『眼瞼下垂とは』

眼瞼挙筋

眼瞼挙筋は細長い短冊状をしています。Levator palpebrae superioris muscle。

眼瞼挙筋の起始停止(始まりと終わり)と機能

眼窩奥(眼球の裏側の視神経の付近)から始まります。そこから眼球の上を回り込むように、上直筋の上に重なりつつ前方へ伸びてまぶたの縁(瞼板や皮膚、眼輪筋)に連結します。

(正確には眼窩外側部の骨膜にも停止します。)

筋肉の収縮により、まぶたが奥へ引っ張り持ち上げられます。

眉上方向ではありません。目の奥へ引っ張り込むのです。

眼瞼挙筋のイラスト
赤矢印の方向に収縮
眼瞼挙筋の仕事
眼瞼挙筋が引っ張り持ち上げる

 

起始部が視神経の鞘なので、眼球を飛び出させる働きもあるかもしれません。
眼窩上方から眺めた解剖
眼窩上方から眺めた解剖。A:眼瞼挙筋 J:挙筋腱膜

組織

横紋筋。

随意的に(意識的に)動かせるのは速筋。

無意識的に開瞼(まぶたを上げた状態)を維持するのは遅筋(ミトコンドリア豊富)。ミトコンドリア機能の異常があるとまぶたが下がります。

速筋が眼球側、遅筋は眼窩側??この辺は不確かです。

まぶたの縁(末端)になると、筋体成分から白いシート状の腱成分になります。これを挙筋腱膜(aponeurosis)と呼びます。

この膠原繊維からなる挙筋腱膜は少なくとも2枚~3枚。一番深い層は瞼板へ、浅い層は眼窩隔膜へつながります。

上直筋の上に重なり、上直筋と線維性結合組織でつながっています(発生学的にルーツは同じ)。多少なりとも上直筋の動きに連動しています。その程度は個人差があります。

連動が強い人は眼瞼下垂手術後の違和感の原因にもなりうるかなと思っています。(個人的感想)

眼瞼挙筋の上は、みずみずしく可動性に富む眼窩脂肪があり、挙筋をカバーしています。そのおかげで挙筋の伸長、収縮もスムーズです。

眼窩脂肪の癒着が起こると眼瞼挙筋の動きが妨げられます。

拮抗筋(きっこうきん)

眼瞼挙筋の反対の仕事をする筋肉。眼輪筋(目を閉じる筋肉)、鼻根筋、眉毛下制筋、皺鼻筋。(重力も眼瞼挙筋に対する拮抗作用となる。)本来は目を開くときは拮抗筋が弛緩すべきですが、この共同運動がうまくいかないと開瞼困難となります(ひどいと開瞼失行)。

例えば肘を曲げる時は上腕二頭筋が収縮し、同時に上腕三頭筋(二の腕側の筋肉)が弛緩します。この「弛緩」が速やかに起こらないのが錐体外路疾患(例えばパーキンソン病など)です。

眼瞼挙筋の拮抗筋
目を閉じる、眉を押し下げる筋肉ですね

眼瞼けいれん、メージュ症候群、顔面神経麻痺後遺症(の拘縮)などでは「拮抗筋の弛緩」がうまく機能しません。

ちなみに、眼輪筋を主体にしたら、「眼瞼挙筋」が拮抗筋ですね。「まばたき」をする時は眼輪筋が収縮しますがその瞬間、眼瞼挙筋の収縮はオフになるそうです。極めて瞬間的なオフスイッチです。驚きですね。

神経支配

動眼神経(脳神経のひとつ)。動眼神経は上直筋、下直筋、内側直筋、下斜筋も支配しているので、動眼神経麻痺になると眼球の動きも異常になります。

眼瞼挙筋が動かない病気

先天性:生まれつきの筋肉の欠損、神経の発達異常(過誤支配含む)

後天性:重症筋無力症、ニューロパチー、動眼神経麻痺(動脈瘤、脳梗塞、外傷など)、ミトコンドリア脳筋症、などなど

挙筋腱膜の連結の緩み、腱膜の菲薄化

眼瞼挙筋の、まぶたの縁への連結はもともと緩いという現実。手足の骨格筋のように骨膜に筋肉(腱)ががっちり付いている訳ではないのです。おまけに挙筋腱膜も柔らかくて伸びやすい。この点が腱膜性眼瞼下垂になりやすい要因です。

眼瞼挙筋の解剖の歴史は以下をご覧ください。杉田玄白の解体新書にも出てきます。

 

手術中に見える眼瞼挙筋

手術中に見える眼瞼挙筋はWhitnall’s ligamentよりも手前のみです。それより奥は見えません(見に行きません)。

厚さ、色、脂肪の割合など個人差が大きいです。挙筋腱膜の厚さ、長さも個人差があります。この下にミュラー筋、結膜、瞼板があります。

関連記事:『眼瞼(がんけん)挙筋腱膜(きょきんけんまく)の写真』

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