あなたの踵(かかと)にはアキレス腱があります。アキレス腱が切れる(断裂)と足をうしろへ蹴り出せなくなりますね。ふくらはぎの筋肉のチカラが伝わらないからです。このような腱がまぶたにもあります。この腱は腱膜(けんまく)と呼ばれているんですよ。
患者さんの例をまず紹介します。

まぶたの腱膜は腱(スジ)である
まぶたの腱膜は眼瞼挙筋(がんけんきょきん)といわれる筋肉のスジです。眼瞼挙筋は目玉の裏から上を回り込んできて、その腱膜がまぶたのフチにつながっています。眼瞼挙筋がぎゅっと収縮するとまぶたが持ち上がります。つまり、まぶたを持ち上げる筋肉ですね。加齢や損傷で、この筋肉の腱膜(スジ)が機能しなくなり、まぶたが下がるのです。
腱膜(けんまく)が壊れて眼瞼挙筋(がんけんきょきん)のチカラがまぶたに伝わりにくくなるとはどういうこと?
例えると、アキレス腱が切れてしまった状態です。
眼瞼挙筋の動力がまぶたのフチに伝わりにくくなると、まぶたが落ちてきます。
眼瞼挙筋を動かす神経や眼瞼挙筋そのものは健康であり、単に動力の伝達がうまくいかない状態です。このようにまぶたが下がってくることを腱膜性(けんまくせい)眼瞼下垂症(がんけんかすいしょう)と言います。
動力源はしっかりしているのにそのチカラを伝える機構にエラーが起きているのです。
例えると、
- チェーンが外れた自転車
- すりへったタイヤで雪道を走る車
動力源がどれだけ頑張ってもチカラを伝えることができません・・・・
腱膜(けんまく)が壊れる原因は?
壊れる原因はいくつかありますが、おもな原因を3つあげましょう。
(1) 加齢
これは分かりますね。年齢とともに腱膜(スジ)が劣化します。使い古したパンツのゴムと同じです。
(2) 機械的な刺激:目をこすること、長期コンタクトレンズの装用
目をゴシゴシこすったり、コンタクトレンズを装用するのはまぶたに物理的な負担をかけます。ゴムチューブを引っ張ったり縮めたりしたらそのうち破断しますよね。
(3) まぶたの怪我
まぶたへの強い負荷が腱膜を一気に破ってしまいます。アキレス腱断裂を同じです。
[aside type=”normal”]要するに構造的な破綻現象です。なぜ構造が破綻するのか?腱膜は柔らかいコラーゲン線維からできています。肌が加齢で緩み垂れてくるのと同じです。妊娠線のようにコラーゲン線維が断裂してしまうこともあるのです。[/aside]劣化した腱膜は治せるのか?
残念ながら元どおりの弾力性を回復させる手段はありません。断裂した腱膜も自然には治りません。
妊娠線もコラーゲン線維が断裂して生じますが、一度できたら治りませんね。
まぶたが落ちると何が困る?
視野が狭くなる。というのはわかりますね。しかし、視野が狭くなる前に、落ちたまぶたをなんとかしようと身体が代償機構(予備力)を発揮させます。余計な筋肉の緊張、交感神経の興奮を作り出してしまい、以下のような症状が現れます。
- 肩こり:首の後ろから肩の筋肉が緊張します。
- 頭痛:こめかみや首の後ろの筋肉が緊張します。
- 疲労感:交感神経の興奮状態が継続することで疲れます。
- 不安障害:交感神経のバランスを司るホルモンバランスが崩れます。
- 自律神経失調症(関連記事:まぶたは脳幹の覚醒と交感神経の制御に関わっていた)
腱膜性眼瞼下垂の進行を予防する方法
6個の予防法を紹介しましょう。まぶたを愛護的に扱うことです。まぶたのスジはコラーゲン線維からなる柔らかい組織です。ベタですが、はかなげな柔らかい組織に対して愛をもって接することです。
(1) むやみにまぶたを引っ張らない、こすらない
引っ張れば柔らかい組織は伸びてしまいます。簡易的に二重を作るアイテープは剥がすときに皮膚を引っ張ります。メーク落としもゴシゴシしてしまいますね。気をつけましょう。(関連記事:間違ったメーク落としをしていませんか?)専用のクレンジング剤やリムーバーを使用しましょう。
(2) コンタクトレンズをやめる
長期間のコンタクトレンズ着用はスジが伸びてしまうだけでなく、ミュラー筋という筋肉も機能低下を起こしています。(関連記事:コンタクトレンズが眼瞼下垂を進行させる理由)
(3) むやみに顔を太らせない
肥満は眼瞼下垂の悪化要因です(関連記事:悲報!肥満が眼瞼下垂症のリスクファクターに!)。分厚く重たいまぶたは下垂を進行させます。顔やせに挑戦しましょう。個人的には糖質摂取を減らす(タンパク質、脂質は制限なし)のはおすすめです。
(4) まぶたをむくませない
まぶたがむくむと腱膜(スジ)が引き伸ばされます。むくみやすい人は深酒、塩分の取りすぎに注意しましょう。深夜にお涙頂戴もののドラマ・映画を深夜に観て泣くことは避けた方が良いかも?翌朝、まぶたがむくみます。
(5) まぶたの循環を促す
目の温パック・冷却パックなどで循環を促しましょう。顔のリンパマッサージも有効です。(過去にリンパマッサージで下垂が一時的に治ると言っていた女性がいましたよ)。目周りのリンパは左右それぞれに耳の前に集まり、首の方へ降りていきます。首と耳の前のリンパマッサージはおすすめ。マッサージの順番は首→顔です。
(6) 目力(めぢから)アップリハビリテーション
「挙筋(きょきん)トレーニング」とも言います。顎を引いて目を上向きにする(おでこに力をいれて眉をあげないこと!)と”挙筋スイッチ”が入って眼瞼挙筋の力が入りやすくなります。腱膜性眼瞼下垂になると挙筋のチカラがだんだん弱ってきます。するとおでこにチカラが入って眉を持ち上げるようになり、顔つきが変わってきてしまいます。これを予防する手段です。(関連記事:眼瞼下垂を予防、克服したければ挙筋スイッチを入れよう)お手洗に立った時、電車内でなど。一日4回練習しましょう。

自分は眼瞼下垂症なのか?診断する方法

眉ブロックテストと呼ばれる方法を試しましょう。
洗面所など垂直に立てた鏡を用意しましょう。おでこの力を利用しないでまぶたを上げるテストです。
- 鏡に対面し、優しく目を閉じます。
- 閉じたまぶたの中で下を見ます(黒目を下に向けます)
- おでこの力を抜いてリラックスします。
- 眉の上に自分の人差し指を乗せて眉が動かないように固定します。
- その状態でそっとまぶたを開きます。
その状態で視野が狭くなっていたら(瞳孔にまぶたのフチがかかっていたら)眼瞼下垂症の疑いが濃いです。
眼瞼下垂になってしまったらどう対処する?
(1) アイテープや二重(ふたえ)の接着剤
アイテープや接着剤は一時的にはまぶたの重さを解消します。しかし、長期的には腱膜性眼瞼下垂を悪化させる可能性が大きいのであくまで一時的に使用してください。
(2) ばんそうこうで眉を吊り上げる
自宅にいるときは眉を吊り上げるように絆創膏で眉を固定します。まぶたの重さが多少解消されます。(重症な人におすすめ。うっかりそのまま外出しないように注意)
(3) ボツリヌス毒素注射
目を閉じる筋肉(眼輪筋など)の力を緩めるボツリヌス毒素注射治療があります。3ヶ月〜6ヶ月程度効果が持続し、まぶたが軽くなります。
患者さんおでこにボトックスを打ったら、まぶたをが重くて重くて・・・40歳以上で眼瞼下垂症になるとおでこのシワが増えます。目を開く(まぶたを挙上する)ために、眉を持ち上げるようにおでこに力を入れているからです。そこで、おでこジワ[…]
(4) 手術
眼瞼下垂を根本的に治したい!という熱意があれば、挙筋腱膜の修復をします。形成外科もしく眼科を受診しましょう。受診の前に「眼瞼下垂の治療をしているかどうか」問い合わせましょう。
眼瞼下垂の治療は美容治療か?
眼瞼下垂の治療は、壊れた腱膜(スジ)を修復することによります。加齢現象に対する治療ではありますが、白内障手術、歯のインプラント治療、変形性膝関節症の治療などと同様に機能改善の治療です。美容的要素はありますが、メインの目的は機能回復です。美容整形ではありません。
さらに、視野障害を認めた場合は健康保険が適用される(医療機関で要診断)ので費用は高額になりません。
実際の眼瞼下垂患者さんの治療前後をご覧ください
長い年月に渡り、コンタクトレンズを使用していたために腱膜性(けんまくせい)眼瞼下垂症を発症したと思われます。まつげが上向きになっているのもコンタクトレンズ眼瞼下垂の特徴です。
ペラペラになった挙筋腱膜を認めました。

挙筋腱膜のつながりを修復しました。皮膚のたるみ取りなどはしておりません。
「三白眼」が治っていますね。これは副次的な効果です。(関連記事:どうして三白眼になるの?)
眼瞼挙筋は健康そのもの。ベンチ裏で待機させられていたのです。けなげでしょう?。。。でも、これでまた眼瞼挙筋が仕事できるようになりました。
腱膜性眼瞼下垂症の関連記事「見えないところに真実あり。まぶたの中身が垂れるのが本当の眼瞼下垂」、「本当の眼瞼下垂はやっぱり中身のたるみが原因 その2」
腱膜性眼瞼下垂でお悩みのかたのために、写真使用の承諾をいただきました。心より感謝申し上げます。(埼玉県の患者さん)
追伸
眼瞼下垂の芸能人を思いつくままに挙げてみます。まぶたが下がっていること自体は優しい印象もあり、全例治すべきとは限りません、悪しからず・・・・
大野智さん、水谷豊さん、浅丘ルリ子さん、若尾文子さん、美川憲一さん
フォレスト・ウィテカー(Forest Whitaker):左眼瞼下垂。左眉毛挙上が顕著
パリス・ヒルトン(Paris Hilton):左眼瞼下垂