ADM: Advanced Desensitization of Mechanoreceptors in Muller’s muscle
直訳すると・・・
ミュラー筋の伸展受容器の感度を鈍くする手技。
◎Matsuo K, et al. Eplasty. Desensitization of the Mechanoreceptors in Müller’s Muscle Reduces the Increased Reflex Contraction of the Orbicularis Oculi Slow-Twitch Fibers in Blepharospasm. 2014 Sep 12;14:e33.
眼瞼けいれんに対する治療です。
まぶた治療のメッカ、信州大学形成外科学教室を訪問
寒かった〜…けど空気はきりりと澄んでてとても美味しい。外来棟が新築されて、コーヒーショップもできました。
松本市に来た目的はADMを学ぶため。
伴緑也先生の協力を得て、松尾清先生の手術をご教授いただきました。4年ぶりくらいの訪問でしたがやはり術式は変遷、進化しています。
マブタのための外来手術室ができたようです。動画で手術記録をとるシステムを構築中とのことで、手術をしながらガチャガチャとカメラとモニターのアームをいじくります。
松尾清先生やっぱりこういうの好きですね!🤗
ほかにも手術者チェアーを開発中だとか…
本日はけいれん手術2件。不眠、不安、頭痛を持つ患者さんたち。
眉毛上皮膚切除約5ミリ幅。眼輪筋外側部と皺眉筋の切除。
さらに、ミュラー筋を瞼板から外します。これはミュラー筋の感度を下げるため。そして腱膜固定。
約1時間半の手術でした(わたしが一人でやると3時間くらいかかりそう…)。マブタ専門医が3人でとりかかるので捗りますね。まずはマブタがぱっちり開きました。あえて挙筋腱膜の前転はしてません。そのまま固定です。下眼瞼のけいれんもありそうだけど要注意経過観察をとのことで終了。
この手技のコンセプトを病態生理から見てみます・・・
眼瞼けいれんの患者さんは、ミュラー筋の感度が高まっています。わずかな刺激(伸展刺激)で興奮し、眼輪筋や眼瞼挙筋を収縮させてしまいます。
このことがさらにミュラー筋(の中のカハール介在細胞たち)を伸展させ、さらなる興奮刺激となります。
「大岡越前の両腕を引っ張られる子供」
のイメージです。右腕は眼輪筋が引っ張り、左腕は眼瞼挙筋が引っ張ります。
ミュラー筋は上眼瞼挙筋と瞼板(けんばん)との間に連続する組織です。ミュラー筋を瞼板からはずすことにより、ミュラー筋にかかる緊張を解いて感度を鈍くしようとする試みです。
「右腕を話してしまえば子供は泣き止む」
イメージです。
ミュラー筋を外すのでミュラー筋の収縮による眼瞼の挙上効果も失われます。そのため、眼瞼挙筋の腱膜を瞼板へ固定して、まぶたがしっかり挙がるようにしておきます。
あとは経過を見守ります。
眼瞼けいれんの患者さんの苦悩を少しでも軽減したいものです。けいれんの症状が良くなることを心から期待します。
この手術治療の適応についての診断は
- 局所麻酔薬の点眼
- おもり負荷テスト
で評価します。局所麻酔薬(キシロカイン点眼)で眼瞼けいれんが弱まり、またおもり負荷テストで痙攣が誘発されなくなると手術の効果が期待できるかもしれないとのことです。
追記
ミュラー筋が引っ張られると、眼輪筋が緊張してしまうのです。眼輪筋が緊張すると、さらにミュラー筋が引っ張れるというスパイラルに陥ってしまうのですね。
だからミュラー筋が引っ張られないようにしてあげましょうというコンセプトです。
Eplasty. 2014 Aug 12;14:e30.
Trigeminal Proprioception Evoked by Strong Stretching of the Mechanoreceptors in Müller’s Muscle Induces Reflex Contraction of the Orbital Orbicularis Oculi Slow-Twitch Muscle Fibers.
Matsuo K, Ban R, Ban M, Yuzuriha S.
(2015年8月6日加筆修正)
(2018年6月26日加筆修正)