眼瞼下垂治療によって頭痛が改善するのか?因果関係は証明されているのか?

「眼瞼下垂の手術後から頭痛がないです。まあ、肩こりはまだ少しありますかねえ。もう、頭痛薬使っていません。」

という患者さんのご報告(個人的体験です)。

「肩こりの変化」よりも「頭痛の変化」の方がインパクトがあるようです。頭痛は生活の質を著しく悪くしますからね。

患者さんは本当に嬉しそうです。

ところで、

「眼瞼下垂の治療によって」頭痛が改善したのでしょうか?

つまり、因果関係はあるのか?という疑問があります。

  • たまたまなのでは?(例:雨乞いしたら雨降った。)
  • プラセボ効果なのでは?(気のせいでも効果が出ることは医学的に認められています)

これを検証するには、統計学的手法が求められます。まぶた治療をする人としない人に分ける必要があります。そして経過を観察し、頭痛の変化の数を比較するのです。

しかし、プラセボ効果を省くことができません。

眼瞼下垂症手術(皮膚を切開して、中身を修復)と対照手術(皮膚切って中身を修復しないで傷を縫合して閉じる)としても、見た目でバレます。もちろん倫理的にも許されませんね。

眼瞼下垂の修復で頭痛が改善したとの報告

こんなブログを徒然なるままにたたいているうちに、「まぶた手術後に頭痛が改善した」という報告が出てきました!

文献:

152人を対象にした調査。

まぶたの手術後にHIT6スコアが改善した。(HIT6スコアは頭痛の重症度を数値化したもの)

眼瞼下垂の手術だけでなく、まぶたの形成(たるみ手術など)でも頭痛が改善しているようですね。

しかし、

メカニズムを証明するのは難しいです。その場合は、「眼瞼下垂が頭痛をもたらす」証明でしょうか。

基礎医学的アプローチです

生理学、病理学からの検証です。理論的にロジカルに思考します。(例:青酸カリやボツリヌストキシン の毒性、致死量などは人体実験できませんね。基礎医学です。)

頭痛の病理:頭周りの筋肉の緊張(筋緊張性頭痛)。頭の中の血管にまとわりついている知覚神経(主に三叉神経)の興奮。

であると仮定します。

眼瞼下垂になるとミュラー筋伸展受容器が刺激され、前頭筋や後頭筋が収縮し、緊張状態になります。その結果、筋緊張性頭痛になります。

また、ミュラー筋伸展受容器が刺激されると青斑核がノルアドレナリンを出します。いわゆる交感神経が刺激され、これを調節するセロトニン(縫線核や血小板から)というホルモンがドバッと放出されます。これが血管を収縮させ(縮み上がる)、しばらくすると反動で血管拡張が起こり、血管周りの神経が刺激されて頭痛(偏頭痛)が起こります。

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以上のようなメカニズムです。(ミュラー筋の伸展受容器に関連する神経生理学は信州大学で研究されました。)

眼瞼下垂を修復するとミュラー筋伸展受容器が刺激されにくくなります。その結果、頭痛が改善するのです。

眼瞼下垂症患者の前頭後頭筋の収縮が原因の筋緊張性頭痛が、ミュラー筋の感度を下げることにより改善する。ミュラー筋の感度を下げたら、前頭後頭筋が緩み、ミュラー筋を引っ張ったら前頭後頭筋が緊張する。

文献:Matsuo K, Ban R. Surgical desensitisation of the mechanoreceptors in Müller’s muscle relieves chronic tension-type headache caused by tonic reflexive contraction of the occipitofrontalis muscle in patients with aponeurotic blepharoptosis.J Plast Surg Hand Surg. 2013 Feb;47(1):21-9.

頭痛と眼瞼下垂の因果関係ありといえそうでしょうか?まあ、頭痛という「痛み」は主観ですから科学的に評価するのはやっぱり難しいかなあ。

そもそも、因果関係があるとして、

あなたの頭痛は眼瞼下垂から来るものなのか?

という診断が必要です。別の原因の可能性もあります。したがって、「眼瞼下垂症手術をすればあなたの頭痛は治る」とは断言できません。悩ましいですね。頭痛のあるときにまぶたを吊り上げるテープを試してみて頭痛の改善があれば「眼瞼下垂症と頭痛の関連」はあるかもしれません。プラセボかもしれませんが。

こういう検証もありかな?

「まぶたを酷使する。」まぶたに重りをつけて擬似的に眼瞼下垂を作り出し、ミュラー筋負荷を増やします。その結果頭痛がしてきます。(プラセボもあるかもしれませんが😉)

頭痛がなくなったよという患者さんです

「左のまぶたが重いです」という女性。見れば分かりますね。

想像してみてください。あなたがこうなったら…朝起きてから日中、そして寝付くまで、この状態です。

辛いですよね。おそらく視野自体はまだそれほど狭くなっていない。でもなんとかまぶたを持ち上げようと頑張っている状態です。

「頭痛持ち」です。

左だけ眼瞼下垂手術をしました。外れた挙筋腱膜を修復します。(※挙筋自体は健康そのものなのです)

左の眼瞼下垂を修復
左のみの修復

6ヶ月後の最終診察日。

「頭痛が改善したんです。治療してよかった…😃」

良かったですね!

これ、気のせい(プラセボ効果)だと思いますか?

プラセボ効果かもしれませんねえ。

でも、百歩譲ってプラセボ効果だとしても、まぶた治療をして良かったと思います。生活の質が著しく向上しましたから。想像してください。頭痛薬を使わない生活を。

※眼瞼下垂症啓発目的に写真を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます😊
尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。

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