ミュラー筋は着火剤。眼瞼挙筋の遅筋、前頭筋、眼輪筋に火をつける

名無し
ミュラー筋って必要なの?

まぶたのたるみ(眼瞼下垂)から、「おでこのシワが増え、肩こり頭痛が悪化する現象」についてはご存知の通り。その震源地がミュラー筋(Müller’s muscle)であります。

そんなことを言うとミュラー筋は「悪さをする臓器」という印象を抱きます。ですが元々はカラダに必要な機能を持ち、しっかり働いています。

挙筋腱膜の下にいるミュラー筋
挙筋腱膜の下にいるミュラー筋

関連記事:ミュラー筋ってまぶたのどこにあるの?

ミュラー筋の機能は

(1)直接的にまぶたを持ち上げる筋肉の一つ。

(2)間接的にまぶたを持ち上げるシステムを作動させる。

(3)交感神経に刺激を入れて脳を覚醒させる。

今回は(2)について解説します。

ミュラー筋は間接的に他の筋肉を起動している

まぶたをあげ続ける(開瞼を維持)ために、眼瞼挙筋の遅筋が収縮する必要があります。

眼瞼挙筋の遅筋の収縮スイッチになっているのがミュラー筋です。まず、眼瞼挙筋の速筋が収縮します。するとミュラー筋が引き伸ばされ、ミュラー筋伸展受容器が刺激されてインパルスが生まれます。

このインパルスが三叉神経を通って中枢(脳幹)に届き、眼瞼挙筋の遅筋を収縮させるシグナルが生まれます。そのシグナルが動眼神経を通って眼瞼挙筋遅筋に届き、遅筋が収縮します。

その結果、まぶたを持ち上げ続けることができます。

「備長炭の着火」に例えると、

眼瞼挙筋の速筋は「ライター」です。ライターが「着火材(剤)」であるミュラー筋に火をつけます。着火材がトロトロ燃え出します。この炎が眼瞼挙筋の遅筋「備長炭」をあぶり、「備長炭」が点火します。

一度備長炭がメラメラ燃え出せば、新たな着火剤を投入する必要もなく燃え続けてくれます。

眼瞼下垂になると(まぶたがたるむと)

「備長炭(眼瞼挙筋の遅筋)」が燃えてもまぶたが持ち上がらないと、「着火剤(ミュラー筋)」が投入され続けます。すると、「着火剤」の火は眉を持ち上げる筋肉(前頭筋)を点火します。すると眉が持ち上がり(おでこに横ジワができ)、まぶたが持ち上がります。バックアップシステムを起動させるわけですね。

まぶたがたるむと眉が上がるのは合目的的なんです。

さらに「着火剤」が燃えつづけるとどうなる?

さらに着火剤が投入され続けると、今度は目を閉じる筋肉(眼輪筋)が燃えだします。

これが厄介。まぶたを持ち上げたいのに目を閉じる筋肉が起動してしまうのです。

いわゆる「眼瞼けいれん」という状態。眼輪筋の炎上です。

目を開けたいのに目を閉じる筋肉が邪魔をするんです。眉が上がりにくくなります。

この状態になる人は要注意。ミュラー筋が刺激され続けてカラダが疲労困憊します。

「着火剤」を水で湿らせるとどうなる?

つまり、局所麻酔薬でミュラー筋を麻痺させるのです。すると着火剤が過剰に燃えなくなります。結果、眼輪筋の炎上が収まります。眼瞼けいれんが弱まります。点眼の麻酔薬がいい例です。

しかし、「着火剤」が完全に濡れてしまうと、「備長炭(眼瞼挙筋遅筋)」も点火できなくなるのでまぶたが上がらなくなります。

この現象はまぶた周りの局所麻酔手術の際に稀に経験されます。「こめかみのホクロを取る手術をしたら帰宅する頃にまぶたが完全に下がってしまった」なんてことが起こるのです。麻酔が切れれば速やかに回復しますけど。

コンタクトレンズ下垂では「着火剤」そのものの火力が弱くなっている

コンタクトレンズを20年以上着用している人はまぶたが下がってきます。「着火剤」が薄っぺらくなり、他を点火させる働きが弱っています。そうなると限られた着火剤を効率的に燃やそうと、「奥歯の噛み締め」「眉間にシワを寄せる」といったいわゆる「着火剤に空気を送り込むこと」をします。

心当たりはありませんか?

まぶたのたるみ(眼瞼下垂)を修復するとどうなる?

過剰に「着火剤」をくべる必要がなくなります。間接的に燃やされていた前頭筋や眼輪筋の炎上が治る可能性があります。

「着火剤」が弱っている状況であれば、着火剤が正常の火力に戻ります。着火剤に空気を送り込む必要がなくなります。

実際のモデル患者さん

左右の眼瞼下垂です。眼瞼下垂なのに眉がしっかり上がりきっていません。前頭筋のチカラがフル動員されていないです。

なぜか?眼輪筋が炎上し始めています。この状態はまぶたが重く感じられ、本人にとってとても辛い状態です。

左右のまぶたのたるみ手術を行いました。

眼瞼下垂の治療後に眉挙上ができるようになった。
眼瞼下垂術前後。眉を挙げることができるようになった。

眉が持ち上がっています。前頭筋の燃焼は残っています。

これはいい兆候です。なぜいい兆候なのでしょうか?

眼瞼下垂術後に前頭筋の燃焼が弱まり、おでこジワが取れることはよく経験されます。

しかし、前頭筋が全く燃えなくなると、眉が下がりすぎてまぶたが重くなってしまう事もあります。ですから、(ある年齢以上になったら)前頭筋の燃焼はある程度は残った方が良いのです。

ですから、眼瞼下垂の治療では挙筋腱膜の修復はやり過ぎないように加減をし、すこ〜し眼瞼下垂が残った状態にするのがキモなんです。

着火剤の働く余地を残してあげるのです。

ライター、着火剤、備長炭といった着火の流れを再現するだけでなく、前頭筋の燃焼ルートも残しましょう。

 

※眼瞼下垂症啓発目的に写真を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます😊
尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。

公式LINE版はこちら!(無料)

なぜ眼瞼下垂治療で失敗してしまうのか?20年以上の経験から紡ぎ出された対策です。

そして情報収集の旅もここで完結です。

特典:筆者の手術体験記、本ウェブサイトの鍵🗝付きページへのパスワード、手術併発症リスト(PDF)