普通の眼瞼下垂手術(挙筋前転法)か眉下切開(上眼瞼リフト)か悩むケースは少なくありません。
今回は皆さんにお聞きします。以下の患者さんはどちらの術式が適していると思いますか?

偽性眼瞼下垂症の治療
このケースの所見。
- まぶたの後葉はしっかり挙がっている
- 皮膚の弛緩が主体
- 眉をほぼMAXで持ち上げている
わかりますか?
皮膚のたるみが著明で、視野を妨げています。
ずばり、診断は偽性眼瞼下垂症。
『まぶたのたるみ』と表現されることもあります。
偽?偽性?とは?
眼瞼下垂は、前葉の下垂と後葉の下垂とに分けられます。
真の眼瞼下垂は「後葉の下垂」。まぶたを持ち上げる腱の連結が緩み、結果眼瞼下垂を引き起こすのでした。
つまり、アキレス腱断裂を起こして病的な機能障害を起こしている状態です。
関連記事:『後葉の眼瞼下垂は、真の眼瞼下垂。前葉の下垂(たるみ)との違いを解説』
一方、前葉の下垂は
- 偽性眼瞼下垂症
- 偽眼瞼下垂
- まぶた皮膚弛緩症
- Dermatochalasis
などと呼ばれ、真の眼瞼下垂とは区別されます。
後葉は機能している状態。オモテの皮膚がたるんで邪魔しているものです。
偽性眼瞼下垂の治療
たるみ垂れ下がった邪魔な前葉成分(皮膚と眼輪筋)を取り除く事です。
- 皮膚切除:眉下切開、重瞼部切開
- 重瞼作成:埋没法、全切開法、眼瞼下垂手術
(重瞼作成?と思ったかもしれません。一重まぶたの人は、ふたえに折りたたむだけで、余分な皮膚のたるみを解消する事ができるのです。)
サイズが大きすぎて、長すぎるスカートをお直しする状況を想像してください。スカートの裾を踏んでしまうくらい長いスカートです。
皮膚切除は、生地を切り取る行為です。
- ウェストで詰める:眉下切開 関連記事:『【完全版】眉下切開(上眼瞼リフト)の適応、利点・欠点を4人のモデルケースと共に解説』
- 裾で詰める:重瞼部切開
重瞼作成は横方向プリーツを作って折込むイメージです。

モデルケース
さて、本ケースは、前葉の下垂に分類される偽性眼瞼下垂と診断しました。
どのようなアプローチが適しているでしょうか?
純粋な前葉の下垂であれば、眉下切開が適応です。
しかし、この患者さんはたるみの量が多すぎます。ウェストを詰めるだけで解決できるように見えませんでした。
私の判断は、「眼瞼下垂症手術(挙筋前転)」×「重瞼部分からの皮膚切除」でした。
この患者さん、上方視(視線を上にあげる)、下方視(視線を落とす)が上手にできません。眼球運動自体も機能がおかされています。
直感ですが、挙筋前転をした方が良いと感じました。なぜならば、真の眼瞼下垂の患者さんによく見られる所見だからです。(*視野が狭まると頭位を固定した状態で上下を見るのが困難になります。)
挙筋前転と皮膚切除、重瞼作成がうまく噛み合うことを期待しました。(ROOF切除も併用)

フルマックスで眉を持ち上げていました。それでも黒目は半分以上かぶさっています。明らかに視野を妨げていますよね。
そして、「下を見て!視線を落として!」と言っても黒目を下に向ける事ができません。(下の動画をご覧ください)
正面視とほとんど変わりがありませんね。
しかし、手術後は下を見られるようになりました。

そして上方視。手術後は上を見る事ができるようになりました。(動画をご覧ください)

「正面を見て、目を閉じて、目を開けて、下を見て、上を見て、正面を見て、目をギュッと閉じて、目をギョロッと大きく開けて」と指示しています。
他の選択肢は?
今回の術式は唯一の正解ではありません。他の手段もあり得たはずです。
候補として有力なのは、「眉下切開」×「重瞼作成(埋没か全切開)」でしょうか。
たるみとりをウェストで行い、裾部分で水平プリーツを作るという発想。
実際どうなるのか?
同じ患者さんは二度と現れません。この事が後になって医療者を悩ませるんですね。
「ああしたらもっと良かったのかなあ…?はあ…」
世界を枝分かれさせてパラレルワールドを作り、両者を比較するなんていうSFでしか検証できません。
なお、純粋な眉下切開の記事は以下をご覧ください。
関連記事:『【完全版】眉下切開(上眼瞼リフト)の適応、利点・欠点を4人のモデルケースと共に解説』
まとめ
以上、
- 偽性眼瞼下垂症とは
- 偽性眼瞼下垂症に対するアプローチ
- 実際のモデル症例
を提示しました。
- 眼瞼下垂には前葉の下垂と後葉の下垂がある事、ご存知でしたか?
- あなたは、このケースではどのアプローチがよかったと思いましたか?
- あなた自身はどちらの治療法を受けてみたいと思いますか?
正解はありません。いろいろ考えてみましょう。ほかにもいいアイデアがあったら教えてください🙇♂️
参考:
眼瞼下垂手術のリスク、併発症(合併症)
| 短期的なもの | 腫れ、出血、感染、傷の離開、目の閉じにくさ、視力の変化、ふたえの線の乱れ |
| 長期的なもの | 眼脂(めやに)・涙の増加、眩しさ、まぶたの腫れぼったさと赤み、稗粒腫、霰粒腫、縫合糸の露出、目の違和感・ツッパリ感、皮膚の痺れ・痛み、目立つ瘢痕、低矯正・過矯正 |
| 仕上がりに関するもの | 左右差、眉毛下垂・顔貌の変化、まぶたの見かけに対する違和感、眼瞼下垂の再発、眼瞼けいれんの顕在化・悪化 |
詳細は別記事をご覧ください。『眼瞼下垂症手術の併発症(リスク)をあらかじめ知っておきましょう』
眼瞼下垂手術の費用
健康保険が適用されれば、50000円程度(3割負担の場合)です。
自費診療になると、医療機関によって異なります。40万〜70万円(プラス消費税)です。
詳細は別記事、『眼瞼下垂手術の料金は?健康保険は使えるのか?自費の場合の費用は』へ
※眼瞼下垂症啓発目的に写真を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます😊
尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。


