こんにちは、形成外科専門医の金沢です。
「歳をとって目がショボショボするようになってきた」
これ、いわゆる逆さまつ毛が原因の場合があります。自分で気づいていないんですね。眼科で指摘されます。
放置しておいても良いのでしょうか?
加齢性の眼瞼内反症
右左どちらか、もしくは両方のしたまぶたがクルンと内反(内向きに回転)して下まぶた自体が目の中に入り込みます。「逆さまつげ」の一種です。
生まれつきの睫毛内反(逆さまつ毛)とは違います。ここは注意。
睫毛内反症は眼瞼に異常はなく、先天的に睫毛のみが内反し、…(略)…、一方、眼瞼内反症は睫毛の生える方向は正常であるが、瞼板や眼球・瞼結膜の関係で眼瞼縁が内反し、睫毛が角膜に触れるようになったものである。


加齢性の眼瞼内反症の原因
- 眼球が後退し、下まぶたの横方向のテンションが弱まる。横方向の長さが余る。
- 下まぶたを下に引っ張る下眼瞼牽引靭帯(LER)がまぶたの皮膚を引っ張る力が眼瞼後葉に比べて相対的に弱くなる。
- 下まぶたの皮膚が余る。
- 下まぶたの縁の眼輪筋の緊張が強くなる。
- したまぶたミュラー筋の緊張が強くなり、眼瞼前葉にくらべて後葉を引っ張る力が強くなる。
これらの要因が複合的に作用します。(参考:「眼手術学」文光堂、「眼形成外科」葵メディカル出版)
眼瞼内反症の問題点
- 目の表面を刺激することによる違和感、いたみ・かゆみの症状
- 涙が多く出る
- 目やにが多い
- 目の表面が傷つく:視力への影響
- 眼輪筋の緊張亢進
眼瞼内反の対処法
- まつげの抜去(永久脱毛も)
- 手術
まつげの抜去は痛みはそれほどでもないようですね。ただ、自分で抜去しようとして途中で切れ、切り株になると目の表面をちくちく刺激します。眼科の医師が抜去してくれることが多いです。
眼瞼内反の手術法
- 皮膚切除
- まつげ近くの皮膚を瞼板に縫い付ける(Hotz法)
- 眼輪筋(瞼板前)を部分切除する
- 眼輪筋や外し靭帯を眼窩外側骨膜へ牽引固定する
- 下眼瞼牽引靭帯(LER)をまつげ近くの皮膚に縫い付ける
- 下眼瞼牽引靭帯(LER)を瞼板から外す
- 下まぶたミュラー筋を瞼板から外す
- (埋没法もあるらしい)
などの手技を組み合わせます。「コレで絶対治る」という単一の手技はありません。。。睫毛内反症の手術と同じです。

最終的な傷跡は以下のようになります。

受診する診療科
眼科か形成外科です。
手術の問題点
睫毛内反症の手術と同じです。
- 再発の可能性
- 過矯正(外反)
- 傷が露出し、くぼむ
- 睫毛乱生
- ダウンタイム(腫れと内出血)
「眼瞼外反症」は最も避けるべき合併症です。
下まぶたが眼球から浮いてしまいます。いわゆる「あっかんべー」です。
これを予防するためにも矯正を甘く仕上げることもあります。その結果すなわち再発(後戻り)も起こりやすくなるわけです。
関連記事:『🏥目尻の白いスジは何?目がしょぼしょぼしているのは逆さまつげかも?』
費用の内訳
保険診療では医療行為に対しての報酬が定められています。厚生労働省と中央社会保険医療協議会で決定されます。
K217 眼瞼内反症手術
縫合法1,660点 皮膚切開法2,160点
2020年現在は、1点10円で計算されます。皮膚切開法手術の費用が21600円です。これに手術時の薬剤の費用や再診料などが加算されて合計金額(27千円程度)になります。3割負担の場合は1万円弱の支払いとなります。(医院により多少のバラツキはあります。医院で確認しましょう)
※医師会による診療報酬についての記事は下にリンク
これが医療機関の売り上げとなり、診療所の場所代、設備代、人件費(医師、看護師、検査技師、医療事務…)、医薬品、ランニングコストの維持に用いられます。
下眼瞼内反症の患者さん1
頑固な眼瞼内反症です。これはつらい!目の表面が終始刺激され続けます。
- 皮膚切除
- 下眼瞼牽引靭帯の付け替え
- 眼輪筋(瞼板部)の部分切除
- 眼輪筋や外し靭帯を眼窩外側骨膜へ牽引固定
を行いました。


下眼瞼内反症患者さん2
「涙が止まらない…」
目尻に白いスジ(涙の跡)ができていました。眼科医師から手術を勧められるも怖くて逃げていたそうです。

局所麻酔で両目で40分。抜糸は1週間後。ダウンタイム(腫れや青あざが目立つ期間)も相応にあります。
でもその結果(半年後)、

無事に経過しているようです。
おまけ:目のキズの検査はフルオレセイン
関連記事:『眼瞼内反症の診察で目のキズをチェックする色素』 この記事を参照してください。

コレで終わりなのか?
しかし、ここで油断はできません。私金沢の不安がまだあるのです。
「下まぶたの内反」は基本的には加齢による現象。頭蓋骨の萎縮による眼窩(目玉の入るソケット構造)容積の拡大、目周りの解剖の萎縮も相まって、眼球が落ちくぼみます。
その結果、下まぶたの縦方向、上下方向、さらに前後方向の余り現象(3次元ですね)が起きるのです。さらに眼輪筋の緊張バランスの崩れや、下眼瞼を奥へ引っ張るスジの過緊張や緩み、などなども重なり、内反が強まるのです。
残念ながら、手術ではコレらの要素全てを修復できるわけではありません。
今もなお、形成外科医師の間で議論になります🤔「このスジの連結は外した方が良いのでは?」「ここはしっかり連結を作った方が。。」とかね。
この患者さんも「今」はいいのです。でもコレからはまだ分かりません。
まとめ
以上、
- 加齢性の逆さまつ毛は眼瞼内反である
- 放置すべきでない
- 手術は有効だが、再発もありうる
- 実際のモデル症例
を提示しました。
さて、あなたは、
- 眼瞼内反の起こるメカニズムが理解できましたか?
- 加齢現象だと知っていましたか?
- 手術は複雑であると理解できましたか?
※眼瞼内反(逆さまつげ)でお悩みのかたのために、写真を使用することを承諾いただけました。心より感謝申し上げます。
参考
◎「保険診療と保険外診療の併用について」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/heiyou.html
◎「なるほど診療報酬!」日本医師会ホームページ https://www.med.or.jp/people/what/sh/