「もうこの歳まで生きてきたし、このままでいいかなあなんて…」
こうやって悩んでいる人に限って、重度の眼瞼下垂。機能的な視力を失いつつあります…手術の怖さもあるのでしょう。
しかし、最近の80歳の方は若いです。まだまだ社会で現役です。チャンスはありますよ。
80歳以上の眼瞼下垂手術
加齢性の眼瞼下垂は、いわゆる挙筋前転法で治療を行います。
しかし、高齢者の場合、その術式で効果が十分に得られない場合があります。その要因は、高齢者の眼瞼下垂の特徴にあります。
- 眼瞼挙筋の筋力が衰えている(脂肪変性してしまう)
- 眼球が落ち窪む結果、挙筋の長さが余る
- 挙筋が周囲の組織と癒着し、滑りを起こしにくい(長期間使っていなかったため)
こちらの記事にもまとめています。

「効果が十分に得られない」とは、「眼瞼の挙上(目の開き)が不十分」という意味です。黒目の露出の仕方が不足ともいいます。
しかし、ここで失望する必要はありません。加齢により、目が落ち窪んでくると、そもそも目は小さくなります。縦方向だけでなく、横方向も。
だからパッチリになる必要はないのです。黒目の中の瞳孔が少し出てればOK。
MRDは2mmあれば十分です。関連記事『まぶたの開き具合を測定する。MRD(エムアールディ)』
横幅が小さいのに、縦幅だけは若い人と同じにしたら、目が縦長になってしまいますよね。縦横の比率は同じにすべし。
眼瞼下垂手術は高齢者に有効なのです。ただし挙筋前転で、期待したほどにまぶたが挙がらないということもあり得ます。その場合は筋膜移植術も検討されるでしょう(実際にそこまで選択する人はレアです)。
高齢であることのリスク
さて、有効と分かっても「リスクはないだろうか?」ここは気になりますよね。
確かに、加齢によって体の組織はすべて衰えます。傷の回復にも時間がかかります。その点は残念ながら否定できません。
さらに、臨床上の問題点として、
- 手術の内容を理解するのが億劫
- 患部のケアが疎かになる
- 複数の持病を抱える傾向(内服薬が多い)
その点では、ご家族の協力もあると助かります…
手術を受けるメリット
視野が広がることによる、生活の質の改善です。想像してください。ピンホールのメガネで生活することを。
だんだん活動性が低下してしまうのです。
眼瞼下垂術後から元気になる高齢者がいます。今まで手を引いてもらわないと歩かなかった方が、元気に一人で歩き出すのです。家でずっとウトウトしていた方が、新聞や本を読み出したのです。
普段の活動性の低さに、認知症のレッテルを誤って貼られていた患者さんもいました。それが、術後から活発になりました。見かけ以上の大きなメリットがあるのです。
繰り返しになりますが、本人の希望がなければ手術はすべきではありません。
高齢者はかかりつけの眼科を持とう
白内障、緑内障、鼻涙管の通過障害、結膜弛緩…目周りのトラブルが多くなります。豊かな生活を送る上で大事な機能です。かかりつけの眼科を持つことは大事ですよ。
現実には白内障治療などを行う過程で眼瞼下垂が明るみになり、眼科医に治療をすすめられるケースが増えています。
モデル患者さん
右まぶたのみの下垂。80代です。

顔のバランスに注目
概ね良好な経過ですね。実はこのケースからわかることが2点あります。
- 逆ヘリングの法則
- 表情筋バランス
術前状態では、ヘリングの法則により、左の目の開きが強くなっています。左に余分にチカラが入ってしまっています。これは、左まぶたにも「挙上せよ!」というシグナルが届いているんです。
術後はチカラが緩みました。ヘリング効果が如実に現れています。
関連記事『片方の眼瞼下垂症手術。ヘリングの法則を予見することが大事。』
そして、表情筋のバランス。右の下垂で右の表情筋の緊張が高まっています。右の法令線が深く、口先が右方へ偏位しています。それが術後は改善していますね。
まとめ
以上、
- 眼瞼下垂手術は80歳超えてもできる
- 若い時のような目の開きは不要
- 実際のモデル症例
を提示しました。
さて、あなたは、
- 眼瞼下垂が活動性を低下させるって知っていましたか?
- 眼瞼下垂手術に年齢の上限はあると思いますか?
- 近くに通える眼科はありますか?
まぶたって意外に見落とされる加齢現象かもしれません。