私が眼瞼下垂患者さんを見る時、「前葉の下垂か、後葉の下垂か」を瞬時に判断します。
まぶたには厚み(前葉と後葉)がある
前葉(anterior lamella)は、皮膚と眼輪筋。後葉(posterior lamella)は瞼板、眼瞼挙筋、ミュラー筋、瞼結膜が含まれます。
いわゆる腱膜性(退行性)眼瞼下垂は、後葉の下垂です。これは真の眼瞼下垂。対して、前葉のみの下垂は偽性眼瞼下垂(眼瞼皮膚弛緩症、ひとえまぶた)と言われます。
二重(にじゅう)シャッターです。前葉は表のシャッター。後葉は奥のシャッターです。二重(ふたえ)の人は二重シャッターが物理的に結合しており、連動する仕組みになっています。
後葉の下垂(退行性眼瞼下垂)は、まさにまぶたの中身の破綻現象
コンタクトレンズを長年使用していたり、まぶたをこする癖があると、まぶたを持ち上げる筋肉(眼瞼挙筋の連結)がゆるみ、(ミュラー筋の力も限界に達し、)まぶた後葉を持ち上げることが困難になります。
視野を補おうとバックアップシステムである前頭筋が動員され、眉があがります。しかし、持ち上げられるのは前葉(皮膚)のみです。一方、後葉もつられて少しは上がりますが、基本的には置き去りにされる力が働きます。その結果、まつげが上を向いてくる人もいます。
前葉の下垂(偽性眼瞼下垂)はまぶたの表側のたるみ、置き去り現象
まぶたの後葉はしっかり上がります。しかしながら前葉との連動が乏しく、前葉が置き去りになります。二重シャッターのうち、後ろのシャッターだけが上がるも、表のシャッターが上がらないようなものです。おでこのチカラで手前のシャッターを持ち上げることができます。
しかし、加齢によって手前のシャッターがおりてくると、おでこの力も限界に達します。そして視野が狭くなります。一方、奥のシャッターは機能しています。ここが味噌です。
当然両者の合併もある
表のシャッター、奥のシャッター同時におりてくることもあります。
前葉と、後葉の下垂それぞれ治療のアプローチが異なる
前葉の下垂の場合
前葉の下垂のみであれば、たるんだ皮膚(眼輪筋)を切り取ることで解決できます。また、後葉との物理的な結合をつくる(ふたえ手術)も有効です。
皮膚切除をする部位は眉下もしくは、まぶたの縁(ふたえにする場所)です。
関連記事:『眼瞼下垂症手術の上眼瞼リフト(眉毛下皮膚切除)のきずあと』
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後葉の下垂の場合
眼瞼挙筋の連結を復元します。いわゆる挙筋前転法ですね。同時に前葉との連結も作るので前葉もある程度持ち上がるようになります。
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実際のモデルケース
前葉の置き去り現象が見られます。後葉にあるまつげが前葉に押し込まれて下向き(逆さまつげ)になっています。さらに、二重(ふたえ)の線が現れたことからも挙筋腱膜が緩んで後退(奥へ引っ込む)していることが予想されます。それでも後葉が持ち上がるのはミュラー筋が頑張っているからです。
もともと「ひとえまぶた」です。前葉と後葉との物理的な連結が弱いです。だから前葉と後葉とのズレが顕著になります。本ケースでは、前葉と後葉との連結を作ること、および挙筋腱膜をまぶたの縁へ固定することの方が優先されると判断しました。なので、皮膚切除は行いません。
過剰な挙筋前転は行わずに、挙筋腱膜のはしっこを前葉のふたえで折れる場所に連結します。(挙筋腱膜は瞼板にも固定します)
前葉によって下向きに押し込まれていたまつげも上向きに治りました。
※眼瞼下垂でお悩みのかたのために、写真を使用することを承諾いただけました。心より感謝申し上げます。本記事はまぶたの病理を追究するものであり、特定の手術治療を推奨するものではありません。あらかじめご了承ください。