眼瞼下垂の他院修正:術式を瞬時に理解することが必要

他院修正

私の「他院修正の本棚」に、また新しい1冊が加わりました。挙筋腱膜とROOF(まぶた内部の脂肪組織)の間をグルグル往復するナイロン糸。

頭の中が???となります。(今回の記事は、あくまで個人的見解です)

目次

他院修正の本棚

まぶた治療に専念して20年近く。それでもまだ、知らない術式に出会うことがあります。自分が体得した手術方法など、数あるなかのひとつにすぎません。まわりを見渡せば術式はいくらでもあります。

他医が執刀した手術の修正(他院修正)をするにあたり、世間で行われている多くの術式(技術)をあらかじめ知っておくことが求められます。

それはなぜでしょうか?

それは、まぶたの手術前にあらかじめ分かることのほうが少ないから。そして実際にまぶたを開いてみて、その時に初めて状況が見えるのです👀

その時点で「ああこれはあの術式だな」と瞬時に分かる技術。術式が分かればおおよそ「今」の状態を理解することができるから。理解できれば迷わずに手術を進行することが可能になります。理解がないと1ミリずつおそるおそる剥離する「牛歩手術」になってしまいます。

「だったらより多くの術式を勉強せよ」って思うでしょう?しかしテキストで一生懸命に勉強してもまったく足りません。

現実には「テキストにない術式」の存在に翻弄されてばかり🌀。そしてその術式に特有なトラブルを理解し自分の辞書に書き加えて行く必要があるのです。だから私は、実直に経験を積み、「自分自身の他院修正の本棚」の本を増やしていくしかありません。

※修正手術は「瘢痕を剥離し、挙筋腱膜を固定しなおす」のが目的ですが、口でいうほど簡単なものではありません。修正手術の前のコンディションに難易度が左右されます。前回までの術式に依存するのです。

トラブルのバリエーション

例えばね。昭和から平成初期の手術はリカバリーが大変。兎にも角にも組織切除が激しい。つまりごっそり切除されている。

眼瞼挙筋が切断されて引っ込んでいる(Severed and Retracted Aponeurosis )

イラスト見てわかりますでしょうか?眼瞼挙筋がまぶたにありません。眼窩に引っ込んでいます。

離断された挙筋腱膜

切り離された挙筋

そりゃー眼瞼下垂になりますよ。挙筋とまぶたが連結していないもの。まぶたを開いた時に挙筋が見当たらない。コレが一番困ります。小切開からの脱脂兼埋没法、全切開二重手術でもコレがおこります。

暫定的に”Severed and Retracted Aponeurosis”と名づけました。以前はMissing Aponeurosisと呼んでいましたが怖いイメージだったので。。。

ちなみにコレが正常のまぶた

眼球の上を回り込んできた眼瞼挙筋がまぶたの縁に連結。眼瞼挙筋が収縮することで、まぶたが奥へ引っ張り持ち上げられます。

正常のまぶた

眼瞼挙筋がまぶたを引っ張り持ち上げる

皮膚切開部が結膜と癒着してハム目(sausage eye)

二重の谷間(切開線)が瞼板や結膜と癒着しています。皮膚に穴を開けないよう慎重に剥離します。眼窩脂肪も大量に切除されているケースが多いです。二重の谷間を下方に作り直す必要があります。

ハム目

いわゆるハム目。

瞼板が水平方向(長軸方向)に細長く折れている

折れた瞼板

折れてしまった瞼板

まぶたの上がりが不足している時に、頑張って挙筋を前転(引っ張り出す)しすぎるとコレが起こります。まぶたの土台がひしゃげてしまうのです。こうなると二重の仕上がりは後日ということになります。

視点を世界にするとその外れ値も桁違い

海外の患者さん。体幹や脚を縫合するために使われる太い糸がまぶたからズルズルと10センチほど出てきたこともありました。瞼板が水平方向に切除されていたり(テキストにはありますが過去の術式)とか。本当に想定外は尽きません。

思いがけない症例に出会うと、もちろん大きなプレッシャーを感じます。「ベストを尽くすけども、限界があるかもしれない」という申し訳ない気持ちが生まれることもあります。

前医に対するマインドセット

けれど私は、前医を決して否定しません。ここには私自身こだわりがあります。彼らはその時点でベストを尽くしているわけ。そして自分の術式も10年後には「古いやり方」と言われているかもしれないし。

だから私は、粛々と他院修正本棚の本を増やします。そして次の患者さんの手術に備えます。こういう言い方は失礼かもしれませんが、あなたが受けた(私が執刀した)手術は私の糧になり、次の患者さんに活かされるときがきます🙇

ちなみにまぶた治療に対する私のマインドセット(思考パターン)はここに記しています。

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修正手術を検討している人へ

手術の際に組織が切り取られることがあります。その程度が修正可能性に影響を与えます。組織不足は決定的に修正可能性を低めます。修正手術は熟練した医師に依頼してください。

修正手術に挑む際の外科医の思考

外科医がどんなことを思考して戦略を練り、提案し、かつ術中に何を考えているか。一部を紹介します。

あとがき

他院修正勉強会を実施したいという思い。クローズな研究会でね。「こんなの経験しました」というのを持ちよる。。

修正手術は学術の世界で発表するのは困難。なぜなら患者さんの同意を得るのが難しいから。そして前医が否定されたと誤解する可能性も。結果お蔵入りになる運命。

これって患者さんにとって不利益だと思うのです。どうにか外科医の中で共有できないものでしょうか?

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この記事を書いた人

金沢 雄一郎のアバター 金沢 雄一郎 形成外科専門医

医師免許(第400795号)、医学博士。形成外科専門医。大学病院で眼瞼専門外来を設立。2016年からは独立医師に。所属学会:日本形成外科学会、日本美容外科学会。
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