末梢性顔面神経麻痺のリハビリは、表情筋を動かしちゃダメなのです

「ある日突然、顔の半分が動かなくなっていた…。なんとか動きを取り戻さないと!」

ベル麻痺やハント症候群などの末梢性顔面神経麻痺。投薬治療を受けつつも、「自分でも何かできないか」と自己流リハビリをする人がいます。動かなくなった表情筋を動かそうと必死に様々な表情をします。目をぎゅっと閉じたり、口をすぼめてみたり。

これがダメなのです。残念ながら。

栢森(かやもり)良二先生(帝京大学)の教育講演

帝京大学リハビリテーション科の名誉教授です。場所は札幌。第36回頭蓋顎顔面外科学会学術集会(2018年10月11、12日)でした。私自身、彼の講演を聞くのはもう?回目😄

顔面神経麻痺には「中枢性」と「末梢性」があります。中枢とは上流、源泉です。末梢とは、下流です。

  • 中枢性:脳梗塞など
  • 末梢性:ベル麻痺、ハント症候群、外傷、神経炎

指令を出す本部が機能しなくなったのが中枢性。指令の伝達の途中でつっかえてしまったものが末梢性です。

リハビリテーション科では多くの脳梗塞患者さんの理学療法を請け負っています。動かなくなった筋肉を動かすようにひたすらに励ますリハビリを行います。筋トレとかのイメージですね。

左右どちらが顔面神経麻痺にかかったのでしょうか?

「ひょっとこ」は顔面神経麻痺の後遺症の人という説があります。表情がアンバランスですね。仮に後遺症だったとして右左どちらだと思いますか?

ひょっとこは顔面神経麻痺後遺症の男性
左右のどちらが病気?

正解は「左」です。左の目が小さくなり、左ほほが盛り上がります。

末梢性は筋トレをしてはいけない、その訳は?

この点を、栢森先生はひたすらに強調しています。過運動症(Hyperkinesia)を引き起こすからです。病気になった側の表情筋が必要以上に動いたり、こわばったりするのです。

上の「ひょっとこ」の写真のように、「くちすぼめ」をすると左(罹患側)の表情筋が緊張、収縮します。左目も閉じてしまいます。さらに、瞬きをすると口が動いたり、喋ると目を閉じてしまったりという病的共同運動も起こるのです。

神経の障害の分類

後遺症になるかどうかは神経の損傷のグレードによります。

Demyelination

脱髄。配線コードを覆う絶縁ゴム(シース)だけが破けた状態。軽傷。

Dying-back

求心性軸索変性。配線コードの末端が一時的に外れる。シースは健在。コードは復活する。

Waller degeneration

ワーラー変性。病変部より末端が変性する。配線コードが途中で断裂し、それより末端が消滅する。

予後が良いのは上の二つ。ワーラー変性は不良。この障害程度は病気にかかった時に決定しています。

「3,4ヶ月で顔面神経麻痺が治った」と言う人は”Dying-back”だったということです。嵐がきて道路が冠水し、流木で遮られても、復旧可能なのです。

昔は、神経幹断裂(neurotmesis)、軸索断裂(axonotmesis)、局在性伝導障害(neurapraxia)に分類されていました(Seddon HJ、1943)が、上の分類の方がわかりやすいです。

問題なのはワーラー変性組

配線コードが断裂し、それより末梢が消失する。山が消失するレベルの巨大地滑りで道路そのものがなくなった状態です。こうなると、あらたな道を建設するほかありません。

この時に問題なのは「ゴールが見えない状態」で道路を建設してしまうのです。目的地を知らずに道を切り開くのです。その結果、「京都」に行くはずだった道路が「新潟」に繋がるようなものです。

だから、道路の再建プロセスで”わっしょいワッショイ”と励ますと、間違った道をより太く(多車線)してしまうのです。

具体的なリハビリ方法は?

  • 大きな表情筋の動きを避ける
  • 表情筋のストレッチ(マッサージ)を行う
  • 眼瞼挙筋のトレーニング
栢森先生が提示した、経過の思わしくない症例がありました。然るべき指導をしたのに共同運動がひどい。原因は患者さんの習慣にありました。飲料を飲む時にストローを使っていたのです。「口すぼめ」運動を必死にしていたのですね。

ひとたび後遺症が成立してしまうと治療が困難に

栢森先生はボツリヌストキシン を使った治療に取り組んでいます。ヒトの可塑性に期待しています。

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関連記事:『顔面神経麻痺回復後の顔面拘縮(こわばり)で目が小さくなることに対する治療はあるのか?』

後遺症に対する手術

「視野が狭くなって困る」と言うヒトには手術の可能性もあります。

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あとがき:第36回日本頭蓋顎顔面外科学会学術集会

2018年10月11、12日。札幌、京王プラザホテルにて。

「顔面神経麻痺の手術治療」の議論が有意義でした。建設的に議論が深まりました。経験豊富だけどとても謙虚な先生が多いです😄ほんの十数年前は学会での議論は「けなし合い」が多く、「自分が一番」みたいな主張ばかりで興ざめしてましたから。良い時代になりました。

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