ホルネル症候群のまぶたに起きていること

「縦隔(胸の中)の手術をしたらまぶたが下がってしまいました。」

それは筋肉の問題ではなく、自律神経のエラー。まれに起こる合併症です。

片方のまぶたが下がるホルネル症候群(Horner syndrome)の病態

  • 眼瞼下垂
  • 縮瞳(暗くしても散瞳しない):瞳の中の「瞳孔」という絞りの穴が小さくなること
  • 顔面の発汗低下

いずれも罹患側(病気になったサイドだけ)に起こります。

ホルネル症候群をもたらす原因として、

  • 頚部交感神経節の障害
  • 頚部神経ブロック
  • 上胸部の腫瘍(もしくは上胸部の手術)

などにより罹患側の頚部交感神経が麻痺することにより現れる症候群です。

ホルネル症候群の最新のまとめ記事(患者会の紹介も)

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ホルネル症候群の眼瞼下垂

ホルネル症候群のまぶたには何が起きているのでしょうか?

ホルネル症候群では交感神経支配のミュラー筋の収縮が麻痺します。そのためにまぶたが少し下がります。

ミュラー筋はまぶたを持ち上げる筋肉のひとつ。一方ミュラー筋はセンサーの役割もあり、眼瞼挙筋の収縮を遠回りにサポートしています。まぶたを持ち上げるときに眼瞼挙筋の速筋がミュラー筋を刺激します。ミュラー筋から求心性(脳へ向かう)のシグナルが生まれ、脳幹を通して眼瞼挙筋の遅筋を収縮させるのです。

Horner症候群では、交感神経の麻痺によりミュラー筋の収縮が失われて伸びており、ミュラー筋の(伸展刺激に対する)感度が鈍っています。(ミュラー筋の感覚(三叉神経)は麻痺していない)

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郵便屋さんのイラスト

その結果ミュラー筋からの「眼瞼挙筋遅筋の不随意的な収縮を促すシグナル」が減ります。

つまり、Horner症候群では眼瞼挙筋の収縮も弱まっています。

病態メカニズムを原因から順にまとめると、以下のようにカスケード(流れ)になります。

交感神経の障害

ミュラー筋収縮能力の障害

ミュラー筋(機械的刺激に対する)感度の低下

ミュラー筋由来の眼瞼挙筋収縮シグナルの減少

眼瞼挙筋収縮の減弱

ホルネル症候群による眼瞼下垂の治療は?

Horner症候群による眼瞼下垂を治療するには、「頚部交感神経の回復」を図りたいところです。ところが病態は不可逆的であることが多く、残念ながら根本的な治療法はありません。まぶたの手術で眼瞼下垂症だけを治療します。

Horner症候群による眼瞼下垂症手術の方法はいくつか報告があります。

  1. 挙筋前転(腱膜固定)
  2. ミュラー筋のタッキング、前転
  3. ミュラー筋と結膜の切除短縮

の方法が報告されています。

1.の方法はいわゆる腱膜性眼瞼下垂の術式であり、挙筋前転をすることでミュラー筋の感度が復活します。眼瞼挙筋の収縮が復活し、まぶたが持ち上がるようになります。(上記のメカニズムを修復するということ)。

実際のホルネル症候群のモデル患者さん

今回も罹患側の腱膜固定を行いました。挙筋の収縮を復活させる、機能的眼瞼下垂症手術です。

金沢のイラスト
かなざわ
きちんとまぶたは閉じられるし、まぶたの閉じ方にも遅れはないですね 🙂
ホルネル症候群による眼瞼下垂の治療後
ホルネル症候群による右の眼瞼下垂。右のみ手術した
  • 年齢:**
  • 性:男性
  • 手術:右側の挙筋腱膜修復術
  • 皮膚切除:なし
  • 脂肪切除:なし
  • lateral horn リリース:half
  • 下位横走靭帯:細い靱帯リリース
  • 挙筋腱膜の滑り:0 1(2)3 4
  • 挙筋前転:微量
  • ミュラー筋処理:なし
  • 手術時間:23分

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