こんにちは、形成外科専門医の金沢です。
「まぶたが外へひっくり返る感じがするんです」
そう言って、他院で眼瞼下垂の手術を受けた患者さんが来院しました。
見てみると、外見上は何の問題もなさそうです。
修正手術に挑みました。一体彼女に何が起きていたのでしょうか?
まぶた手術後の、まぶたの変な感じ
まぶたって感覚的にもとてもナイーブな組織。まぶたの手術後に傷のツッパリ感とか、感覚の鈍さ、知覚過敏などなど、いろんな症状が局所で起きています。
「まぶたの中の方が引っ張られるような…」とか具体的な感覚を持つ人もいるし、「なんと表現したら良いか。。。なんか変な感じ」と言う人もいます。
うまく表現できないときは「異和感(いわかん)」と表現します(医療用語です)。(一般的には「違和感」と表現します)
まぶたは伸び縮みする皮膚で構成されます。眼瞼下垂が手術で修復されれば、組織の動きも変化します。当然、まぶたの動く範囲が大きくなります。今まで引っ張られなかった皮膚が引っ張られるようになります。折れにくい皮膚を折れるようにする分、その抵抗を感じるでしょう。
手術をすれば、短期的にはその部位は硬くなります。その後、数ヶ月かけて、元の柔らかさが回復。でも瘢痕(いわゆる傷跡)は残ります(人間の宿命です)。
皮膚切開をすれば、かならず知覚神経を切ります。その神経の下流(主に睫毛よりの皮膚)は一時的に感覚がにぶくなります。知覚神経は回復しますが、回復過程で知覚過敏の症状をもたらすこともあります。
問題は病的か否か
つまり、「まぶたの異和感」は誰にでも起きている現象。短期的には症状は強くでます。傷が落ち着いて馴染んでくると症状が和らぎ、気にならなくなるんです。したがって、基本的にはすべき治療はなく、経過を見守ることに。多少の異和感は受け入れるしかありません。
しかし、「病的な異和感」も。通常のまぶた手術後の経過ではなく、医学的な原因がある場合です。
眼瞼下垂手術の後に生じる医学的なエラーです。
- 挙筋腱膜の連結の仕方
- ミュラー筋への干渉
- まぶたの中の異常な瘢痕形成
- 眼輪筋の痙攣
- 異物反応
- 知覚神経の異常興奮
などです。
再手術で解決できることもあります。
しかし、解決できないこともあります。再手術を行なっても、治癒過程でどうしても瘢痕形成が起きるからです。
実際のモデルケース
今回は冒頭のような訴えの患者さんの治療を経験しました。眼瞼下垂の手術後から「まぶたが外へ引っ張られる」とのこと。
「視野が狭い」ことが主訴ではなく、「異和感」が主訴です。
「改善する保証は無い」と言う前提で手術を行いました。関連記事:『眼瞼下垂の他院修正手術はなぜ敬遠されるのか?執刀医視点で解説します』
前医の手術の切開部位は睫毛から3mmくらいのところ。わたしは8mmのところを切開しました。つまり新しい皮膚切開の瘢痕を作らせていただきました。
さて、まぶたを開けてみたら、挙筋腱膜は綺麗な状態でした。まずはOK。
一方、睫毛すぐ近くの皮下組織にナイロン(と思われる)糸が数点確認されました。これが、挙筋腱膜の端っこの結合織と連結されており、瘢痕化していました。
挙筋腱膜のチカラが睫毛近くの皮膚にダイレクトに伝わり、まぶたを外へ回転させる方向へ引っ張っていたのです。上まぶたを上に「あっかんべー」する感じです。
通常の眼瞼下垂手術では瞼板(けんばん)の上の方(睫毛から遠い方)に糸をかけます。そのように処理しても、まぶたを開くときは外へ回転するベクトル(睫毛が上むきに)が働くものです。だからこのケースでは、まぶた末端に糸がかかっていたので回転するチカラが強くなっていたのです。
スカートがずり落ちたら、腰から持ち上げますよね。裾を持ち上げたらめくれてしまいます😅
まぶたの手術では、見た目ではそれが表れていない(顕在化していない)のですね。だから(修正)手術前には分からないのです。
そっと、挙筋腱膜を留め直しました。結果、「ひっくり返る異和感」が消失したそうです。ご覧ください。眼瞼下垂自体も修復され、おでこの力が抜けました。ゆるいチカラが目が開かれます。これが私が求める「目を大きくしない眼瞼下垂症手術」です😄
- 年齢:70代
- 性:女性
- 手術:両側挙筋腱膜修復術(他院修正)
- 皮膚切除:なし
- 脂肪切除:なし
- lateral horn リリース:total/total
- 下位横走靭帯:なし
- 挙筋腱膜の滑り:右:N/A 左:N/A
- 挙筋前転:右:なし 左:なし
- ミュラー筋処理:左右ともなし
- 手術時間:50分
腱膜性眼瞼下垂でお悩みのかたのために、写真を使用することを承諾いただけました。心より感謝申し上げます。
モデルケース2
「頬がビリビリ痛い・・・」
過剰な前転が原因と思われたケースです。
無理やり目を大きくすると、目を閉じる筋肉の緊張も強くなります。まぶたの中で「まぶたをあげる力」と「まぶたを閉じる力」が綱引きを起こします。
そして、目周りの違和感に。
挙筋の連結を解除して違和感を解消しました。
詳細は別記事にまとめています。
まとめ
以上、
- 眼瞼下垂手術後の違和感(異和感)の内容
- 異和感の原因
- 実際のモデル症例
を提示しました。
- 手術瘢痕が原因である場合は、改めて手術をしても、再び瘢痕ができることが理解できましたか?
- ある程度は違和感を受け入れる覚悟はできそうですか?
- 治る可能性が不確定でも違和感を解消する手術に挑む度胸はありますか?
なかなか難しいテーマですね…
尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。