上まぶたの逆さまつ毛。
目がゴロゴロします。まつ毛が目の表面にガサガサあたるからです。
まずは写真をご覧ください。
上のまつ毛が目の表面に向けてニョキニョキ伸びています。
まつ毛の硬い先端が目の表面(角膜)をツンツンつついて傷をつけてしまいます。
それだけでなく、まぶたの肌や内部、視力にまで悪影響を及ぼします。
今回は3人のモデルさんとともに「逆さまつ毛」の対処法を解説します。
上まぶたの逆さまつ毛
- 逆さまつ毛
- さかまつ毛
と呼ばれます。
逆さまつげって何?
逆さまつげには
- 睫毛内反(しょうもうないはん)
- 睫毛乱生(しょうもうらんせい)
- 眼瞼内反(がんけんないはん)
があります。
睫毛内反
まぶたの位置に異常はないが、まつ毛だけ内向きに伸び、まつ毛が目の表面を刺激するものです。生まれつきの異常であることが多いです。頭髪のつむじのように、まつ毛の生えて伸びる方向が毛根レベルから違う状態です。
「逆さまつげを治療してふたえにしてきた」
と言ったら、大抵この治療です。
睫毛乱生
わずか数本のまつ毛の伸びる方向が異常です。協調性のない奴がいるんです。
眼瞼内反
眼瞼内反は、板状のまぶた自体が内向きにくるりとひっくり返ってまくれ込んでしまいます。まつ毛だけでなく、皮膚自体も目の表面を刺激します。
内反・外反を口で例えると、
内反は、酸っぱいものを食べて唇をがキューっとすぼめたり、総入れ歯を外したおじいさんのくちびるが吸い込まれてミッフィーの口みたいになるカタチ。
外反(がいはん)は、チューしようと唇を突き出すカタチ。
逆さまつ毛は上下のまぶたに起こります。
ネットの世界でも上まぶたの治療に関する情報は少ないのです。今回は上まぶたにフォーカスして紹介しておきます。
逆さまつ毛の問題点
以下のトラブルを引き起こします。
- 目の違和感(ゴロゴロ、ショボショボ)
- まぶしい
- 角膜上皮のキズ(損傷)
- 視力の悪化
- まぶたの皮膚炎
- 眼瞼下垂
- 眼輪筋緊張亢進
目がゴロゴロするという自覚症状。「ショボショボする」と訴えるヒトもいます。
実は目の表面(角膜)を傷つけています。慢性的な損傷のため、毛細血管が入り込んでいることも。
光の反射が乱れる、角膜が濁る、血管の存在などにより、視力が悪化することもあります。
それだけではありません。
目がゴロゴロするので目をゴシゴシこすりますよね。するとまぶたの肌が黒ずんでガサガサになります。
さらにまぶたを持ち上げるスジ(眼瞼挙筋)の連結がゆるんでしまうと眼瞼下垂になります。
そして、
ショボショボするのは目を閉じたい衝動です。目を守ろうとする自然の反応。
眼輪筋が常に緊張します。すると余計にまぶたが重くなってしまうのです。
逆さまつ毛の原因
生まれつき(先天性)
まつ毛の立ち上がる角度が内向き。ひとえまぶた、蒙古ひだの発達しているヒトに多い。
加齢性
眼輪筋の緊張亢進、眼球陥凹、眼瞼下垂(前葉下垂タイプ)、横瞼裂の短縮などが複合的に作用します。
瘢痕性
怪我や手術の後にできるもの。パターンはケースバイケース。
治療の適応(治療の対象になる条件)
まつげが目の表面に当たっている結果、
- 目の違和感(ゴロゴロ、ショボショボ)がある
- 視野にちらつきがある
- 目の表面が傷ついている
場合は、治療が必要。
治療方法と欠点
いくつか選択肢があります。医師と相談しましょう。
- まつ毛の抜去:うまく抜けないと途中で切れて余計に刺激が強くなる。すぐにまた生えてくる。
- 二重を作るメーク:テープや糊など。皮膚の過敏性などに注意。
- コンタクトレンズで保護:レンズを外したら刺激を受ける。
- 手術:傷になること。ダウンタイムがあること。
どこの診療科を受診する?
眼科で目の表面の具合を見てもらいましょう。
治療は眼科か形成外科です。
手術の方法は?
一般的に「眼瞼内反症手術」と呼ばれます。
眼瞼内反症手術は縫合糸を埋没させて矯正する方法と、皮膚を切開して矯正する方法があります。
切開部位は二重の谷間になる場所です。(眼瞼下垂症手術と同じ)
眼瞼下垂症手術
眼瞼下垂(前葉下垂タイプ)を合併する場合も多いです。この場合は眼瞼下垂手術です。
皮膚と挙筋腱膜を連結することにより、まつげの前の皮膚がやや上に回転(ローテーション)するような形で挙上されるようになります。
まぶたの挙上力と逆さまつげを同時に修復するわけです。
この術式を個人的にはオススメ。
手術のダウンタイム
残念ながらダウンタイムが必要。腫れと内出血。腫れは1〜2週間程度。内出血は個人差があります。
手術の時の麻酔
局所麻酔(局部麻酔)です。
歯科で注射をしたことがありますか?それと同じで、切開する場所に細〜い針(予防注射の針よりも細いですよ)で注射します。
すぐに感覚が痺れてきます。麻酔が切れるのは注射後1時間くらいです。
手術のあとの痛みは?
ほとんどありません。念のため消炎鎮痛薬を持ち帰り、痛みのあるときに内服するようにします。ほとんどの人は飲まずに終わっています。
手術のあとの洗顔は?
翌日の夕方から可能です。
水でキズを濡らしても差し支えありません。
手術の困ったこと=左右の違い
手術のコンセプト自体は合理的です。
しかしもともと挙筋腱膜の緩み(眼瞼下垂)があると、眼瞼下垂自体も修復されてしまうことがあります。
その結果反対側(無治療の方)と比べてまぶたの開きが大きくなります。
ひとえまぶたの人も左右の違いが大きくなってしまいます。
見た目で困る場合は反対側も治療を考えましょう。
費用の内訳
保険診療では医療行為に対しての報酬が定められています。厚生労働省と中央社会保険医療協議会で決定されます。
K217 眼瞼内反症手術
縫合法1,660点 皮膚切開法2,160点 眼瞼下制筋前転法4,230点
K219 眼瞼下垂症手術
1 眼瞼挙筋前転法7,200点
2022年現在は、1点10円で計算されます。皮膚切開法手術の費用が21600円(〜72000円:※左右眼瞼下垂手術の場合)です。これに手術時の薬剤の費用や再診料などが加算されて合計金額27千円(※〜15万円程度)になります。3割負担の場合は1万円程度(※5万円前後)の支払いとなります。(医院により多少のバラツキはあります。医院で確認しましょう)
※医師会による診療報酬についての記事は下にリンク
これが医療機関の売り上げとなり、診療所の場所代、設備代、人件費(医師、看護師、検査技師、医療事務…)、医薬品、ランニングコストの維持に用いられます。
さて、冒頭のモデル症例の経過
左上の眼瞼内反症。目の表面がまつ毛に狙われています💦

それだけでなく、皮膚自体も目の表面に触れています。皮膚自体も目の表面に刺激になります。
皮膚がたるんでいるのでまぶたの縁にかぶさっています。指で持ち上げてあげると「逆さまつげ」が顔を出してきます。
これは痛そう。
治療(手術)を行いました。

治療後には改善されました。
実際に行った治療
眼瞼内反の原因として、
- 挙筋腱膜の緩み
- 眼輪筋の緊張が強いこと
- ミュラー筋の力が強いこと
- 皮膚のたるみが多いこと
が考えられます。おもに加齢が後押ししています。
手術では挙筋腱膜の修復、眼輪筋の処理、皮膚のたるみ取りをしました。
重瞼部分(ふたえの谷間になって畳まれて引き込まれる場所)で切開し、ここに挙筋腱膜を連結。
目を開けようとすると眼瞼挙筋が収縮し、二重の谷間が奥へ滑り込んでまぶたが持ち上がります。
まぶたが外反する方向に持ち上げられ、まつげが外向きになるのが写真でもよく分かりますね。
問題は左右差
挙筋腱膜を修復したため、左の眼瞼下垂も治ってしまい、右との差が強く出てしまいました💦

あらかじめ予想されたことです。
気になるようなら右も治療を検討することでご本人も納得済み。
「今のところはこのままで良いです!」
とのことでした。
まぶた治療の啓発活動目的に写真を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます。
モデルさん2
「目の表面が傷ついています」と眼科医から紹介されました。
挙筋腱膜法で手術。
結果目の刺激感から解放され、目をこすることがなくなりました。
まぶたの皮膚もコンディションが改善し、まぶたを楽にあげられるようになりました。😊


まぶた治療の啓発活動目的に写真を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます。
モデルさん3
目の傷を眼科医に指摘された患者さん。逆さまつ毛の自覚もありませんでした。
目がショボショボするのも「こんなものだろう」と思っていたとのこと。
手術をすると「二重(ふたえ)」になってしまいます。男性はちょっと受け入れがたい変化かも?
キラキラふたえにならないように「奥二重」に仕上げました。

まぶた治療の啓発活動目的に写真を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます。
尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。
参考
◎「保険診療と保険外診療の併用について」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/heiyou.html
◎「なるほど診療報酬!」日本医師会ホームページ https://www.med.or.jp/people/what/sh/
◎日本形成外科学会ガイドライン 頭蓋顎顔面疾患(主に先天性)
あとがき
まつ毛が目に入ると違和感がたまらないですよね。
わたしは逆さまつげはありませんが、抜けたまつ毛がよく目に入ります。ショボショボしますよね。
「あ、異物だ!」
と身体が反応してくれるのですね。やっぱり目は大事です。
かれこれ20年くらい前でしょうか。新潟の花火を見物に繰り出しました。打ち上げ場所に近く、破片(ボール紙みたい)が近くに落下してくるくらいです。ドッカンという音が自分のカラダをドスンと震わせます。
迫力満点で興奮しました。
が、
目の違和感がやってきました…いや!違和感をはるかに超えたツーンとくる痛みです。
😭
帰宅後に悪戦苦闘の上に取り出したのは、0.3ミリ程度の砂つぶ一個…
でも、これを放置したら大変なことになっていたかもしれません。
身体が教えてくれたのでした。