先天性眼瞼下垂症の治療とその効果の限界、費用について

先天性眼瞼下垂症。

「先天性」とは「生まれつき」という意味。

まぶたを引っ張り持ち上げる眼瞼挙筋が動かないことが原因。

一般的に行われる眼瞼下垂手術では眼瞼挙筋を利用します。しかし先天性眼瞼下垂の場合はこの術式では治療が難しいのです。

なぜ難しいのでしょうか?

先天性眼瞼下垂症とは

病理

眼瞼挙筋が動きません。その原因は、

  • 筋肉の形成不全
  • 筋肉の欠損
  • 動眼神経の麻痺

眼瞼挙筋を支配する動眼神経のエラーあるいは眼瞼挙筋自体のエラーです。

そのために眼瞼挙筋が動かない(もしくは動きにくい)のです。

その結果まぶたが持ち上がらない訳。

例えば…うまれつき口角が下がりにくい人がいます(口唇下制筋麻痺)。シルベスター・スタローンとかね。

それとおなじで筋肉の麻痺です。鍛えて治るものではありません。

日本形成外科学会ガイドライン:日本形成外科学会ガイドライン『眼瞼下垂症』

注意:「生まれつきひとえまぶたで目が細い人も先天性眼瞼下垂に含める」とする拡大解釈もありますが、本記事では純粋な挙筋機能不全による眼瞼下垂を対象とします。

眼瞼下垂以外の特徴

下方視でまぶたが降りてきません。”lid lag”といいます。

これが後天性眼瞼下垂との違い。もしくは”ひとえまぶた眼瞼下垂”との違いです。

この点ですみやかに鑑別がつきます。

動かない眼瞼挙筋(痕跡)が線維化しており、収縮しないだけでなく伸びることもできません。

まぶたの動き自体をブロックしているのです。

ほかには顎を突き出す姿勢になることも挙げられます。

眼瞼下垂の問題点

  • 視野が狭い(→視機能発達の障害)
  • 整容面

以上のふたつです。

赤ちゃんのときから視野が妨げられていると、視力の発達にも悪影響をおよぼします。(使わない機能は発達しませんので)

したがって担当医(小児科医、眼科医)と治療の必要性について十分に相談する必要があります。

治療のタイミング

視力発達に悪影響が見込まれる場合は乳児期に治療(手術)を行うこともあります。

視力発達に影響がなかった場合は、早くて3歳くらいから治療をする施設が多いようです。

先天性眼瞼下垂の手術方法

  • 人工素材(ナイロン糸、ゴアテックスなど)での吊り上げ術
  • 挙筋前転法
  • 筋膜移植による吊り上げ術

前頭筋(おでこのチカラ)を利用するか、眼瞼挙筋の残されたチカラを利用するかの2択。

吊り上げ術はまぶたと眉の動きが連動するようにする手術。眉を持ち上げたらまぶたが上に挙がります。

 

清水雄介先生の記事(下記参照)によると、3歳まではナイロン糸による吊り上げ。3歳以上では挙筋前転もしくは大腿筋膜移植移植による吊り上げを行うようです。

術式の選択は医師の考えや患者さん(とその家族)との考えによります。

絶対正解はありません。

正解がない。それはなぜか?

特別に秀でたひとつの理想的な術式がないからです。

「これで治る!」という術式がないのです。

私が行う筋膜移植術

太ももの外側の皮膚を切開し、大腿筋膜をシート状(短冊状)に採取します。

まぶたの縁と眉部を切開し、筋膜をまぶたの中をくぐらせて固定します。

まぶたの縁と眉とが、筋膜で連結されたカタチになります。これで眉を上げるとまぶたが持ち上がる構造になるわけです。

筋膜移植後のまぶた
筋膜で眉とまぶたが連結される
筋膜移植後のまぶた
眉を上げるとまぶたが持ち上がる。ベクトル(方向)は天井(頭頂)方向

採取した筋膜は術後に収縮する性質があります。したがって手術では収縮を想定し、余らせた長さで移植します。

その結果手術直後はまぶたを挙上する効果がまったく実感できません。

その後一ヶ月程度かけてゆっくり収縮していき、まぶたが挙がってきます。

仕上がりも長期間経過を見ないとわからないという訳。タッチアップ手術(追加手術)も十分に念頭に入れておくべきです。

手術の限界

眼瞼挙筋に動きが認められる場合は挙筋の前転を試みるチャンスがあります。

とはいえ、眼瞼挙筋に健常なパワーはありません。仕上がりも低矯正になりがち。

前転が強すぎると目が閉じられなくなるほか、目の奥の違和感もあらわれやすくなります。

一方挙筋の動きにまったく期待できない場合は吊り上げ手術になるのです。

吊り上げ手術独自の問題は?

  • 目を閉じにくい(閉瞼障害)
  • 眼瞼遅れ(lid lag)が顕著
  • 重瞼部分の機能的な動きがない(目を開ける時に深く折れたり、目を閉じる時に重瞼部分がフラットになったりという自然な動的な形態が再現できない)
  • 前頭筋を有効に動かせないと目が開かない

自分の組織を利用する筋膜移植の場合は、眉上にキズを作る必要があるのと、移植組織を採取する場所にもキズを作る必要があります。

それはともかく、とにかく動きが不自然なのです。

そもそもまぶたを引っ張り上げるベクトル(チカラの方向)が違います。眼瞼挙筋は目の奥へ滑り込むようにまぶたを引っ張り込みますが、筋膜が引っ張り持ち上げる方向は天井方向ですものね。

なかなかつらい…

したがって治療のゴールはあくまでも「写真を撮影するときの正面視画像でまあまあ目が開くこと」となります。

当然ですがこれに加えて一般的なまぶた手術に伴う併発症リスク(出血、キズの違和感な、逆さまつ毛、過矯正、低矯正など)もあり、修正手術を行うこともあります。

眼瞼下垂手術のリスク、併発症(合併症)

短期的なもの腫れ、出血、感染、傷の離開、目の閉じにくさ、視力の変化、ふたえの線の乱れ
長期的なもの眼脂(めやに)・涙の増加、眩しさ、まぶたの腫れぼったさと赤み、稗粒腫、霰粒腫、縫合糸の露出、目の違和感・ツッパリ感、皮膚の痺れ・痛み、目立つ瘢痕、低矯正・過矯正
仕上がりに関するもの左右差、眉毛下垂・顔貌の変化、まぶたの見かけに対する違和感、眼瞼下垂の再発、眼瞼けいれんの顕在化・悪化

詳細は別記事をご覧ください。『眼瞼下垂症手術の併発症(リスク)をあらかじめ知っておきましょう』

実際のモデルさん

左右差のあるケース

左右差があるモデルさんです。左が重度、右が中等度の下垂と診断しました。

下を向いたときのまぶたの動きは動画をご覧下さい。

左重度の先天性眼瞼下垂。筋膜移植と挙筋前転法
左重度の先天性眼瞼下垂。正面視。術前術後。右は挙筋前転。左は吊り上げ。
先天性眼瞼下垂の術前後の写真
眼瞼下垂手術前後。上方視(上を見る)時

術前の評価と術式の選択

右は上方視で眼瞼が挙上されます。挙筋の動きは少し認められ(もしくは上直筋が機能している)ます。

右は挙筋前転を選択しました。

左はまぶたがまったく挙上されません。挙筋の動きは無いと診断。

左は大腿筋膜移植を選択しました。

手術治療と修正手術2回

左右同時に同じ日に手術を行いました。その結果右の低矯正(右の挙上が弱い)を認めたため、後日(7か月後と17か月後)右だけ挙筋の再前転を行いました。

そしてそれからさらに1年と5か月後、経過を見せに来てくれました。(感激!)🤗

右の挙筋の動きはやはり弱く、左に追いついていません。一方左まぶた(筋膜移植した方)はその特徴(lid lag:まぶたが下りてくるのが遅い)を認めています。特に動画で見るとダイナミックな(動的な)形態の左右差が目立ちます。

反省点

「右も筋膜移植が良かったかな」との患者さんの感想でした。筋膜移植のデメリットが左右差で強調されてしまったこのケース。左右同じ手術にすれば逆に目立たなかったかもしれません。そもそも右の挙筋機能を過大に評価してしまった私にも原因がありますね。

これから手術をご検討の方は心に留めておいてください。

眼瞼下垂治療啓発目的に写真・動画使用を承諾いただきました。ありがとうござました。

高齢者の場合

事情により小児期に治療を受ける機会が得られなかった人もいます。

若い時は皮膚に張りがあるので薄目開きで見ることができます。 しかし加齢により皮膚が垂れ下がると目をほとんど塞いでしまうこともあるのです。

筋膜移植による吊り上げ術を行いました。 動きとしては不自然だし、まばたきも困難に。 目を閉じるときも二重の谷間は平坦にならない。食い込んだまま。 決して理想的な手術をは言えないというのが分かります。

外科的治療の限界。

先天性眼瞼下垂高齢者の場合
先天性眼瞼下垂。高齢者の場合

挙筋前転を用いたケース

生まれつきの左眼瞼下垂(先天性)。挙筋の動きはまずまず観察されます。

過去に埋没法を受けていますが当然無効ですね。

左の挙筋前転を行いました。挙筋は脂肪変性しており、線維ばっているいわゆる先天性眼瞼下垂の挙筋の所見。しかし、術中にも眼瞼挙筋の動きは見られました。

しかし結果は、低矯正。

そこで再度前転を追加しました(6ヶ月後)。

そしたら今度は左が大きくなりすぎて左右逆転しました。これが眼瞼下垂手術の難しいところ。

「また低矯正にしたくない…」そんな思いが執刀医(私)の頭にめぐったためでしょうか?

左右差を揃えるためには右の挙筋前転法を!と言いたいところですが、それをするとまた左右が逆転するシーソー現象が起こる可能性もあります。

だから軽々と「次やりましょう!」とは言えないのです…

左先天性眼瞼下垂
左挙筋前転。
このように修正手術をすると初診から定期検診(最後の手術から半年)を終えるまでに17ヶ月かかっています。本当に長い付き合いになります。

眼瞼下垂治療啓発目的に写真・動画使用を承諾いただきました。ありがとうござました。

挙筋の動きがまったく認められないが挙筋前転を選択したケース

前述したように「つり上げ手術」はまだまだ課題が多い術式。患者さんにとってもハードルが雲のように高い。

そんなわけで姑息的に挙筋前転を選択するケースもあります。

眼瞼挙筋がまったく機能していない場合の挙筋前転法によるまぶた挙上効果は極めて限定的です。

その点をあらかじめご理解いただいた上での挑戦になります。

先天性眼瞼下垂に対する挙筋前転法
やはり効果には限界はある

左まぶたの先天性眼瞼下垂。過去に手術を受けているようです。

「筋膜移植には抵抗がある」

とのことで、挙筋前転法を選択。

結果はやはり低矯正。しかし右の過剰な挙上動作も減り、多少の左右差改善効果は見られています。

ここで私が提案。

目を細めるようにニッコリしてみてください。

目を細めてニッコリすると左右差が減る
左右差が減るのがわかる

目尻にシワを寄せるイメージです。

動画では0:17からその表情をしていただいています。

人とコミュニケーションを取るときにこのような表情をすることで、あなたのイメージは好印象になること間違いないと思うのですがいかがでしょう?

関連記事:『眼瞼下垂になったら、表情パターンを新たに作るのも手(まぶたの手術を受けられない人へ)』

先天性眼瞼下垂手術の費用

健康保険適用(3割負担の場合)

片側両側
挙筋前転法2.2〜2.3万円約4.5万円
筋膜移植約6万円約12万円

 

保険診療では医療行為に対しての報酬が定められています。厚生労働省と中央社会保険医療協議会で決定されます。

TOP > 令和2年診療報酬点数表 > 医科 > 第2章 特掲診療料 > 第10部 手術 > 第1節 手術料 > 第4款 眼 > (眼瞼) > K219 眼瞼下垂症手術

K219 眼瞼下垂症手術

  1. 1 眼瞼挙筋前転法
    7,200点
  2. 2 筋膜移植法
    18,530点
  3. 3 その他のもの
    6,070点

引用:しろぼんねっと

2021年現在は、1点10円で計算されます。これに手術時の薬剤の費用や再診料などが加算されて合計金額(15万円弱)になります。※医師会による診療報酬についての記事は下にリンク

健康保険が適用できなければ自費負担(全額自己負担)

自由診療になるので、価格は医療機関によってさまざま。

生命保険の給付金の対象になるか?

契約している生命保険(医療保険)会社に確認しましょう。医療特約などで組み込まれていれば対象になるようです。

申告する手術術式の種類は以下です。

K219眼瞼下垂症手術
   (1)   眼瞼挙筋前転法
   (2)   筋膜移植
   (3)   その他のもの

たとえば片側の筋膜移植をする場合は、K219(2)となります。

眼瞼下垂のコミュニティ

眼瞼下垂の会:https://gankenkasui.org/

定期的に交流会が催されています。当事者同士で情報をシェアする活動です。

参考

◎清水雄介. 先天性眼瞼下垂に対する眼瞼下垂手術:PEPARS,(2020), no.160 ,58-69.

◎垣淵正男. 先天性眼瞼下垂に対する大腿筋膜による吊り上げ術:雑誌形成外科52(5) 2009, 551-558.

◎大﨑健夫ら .増し締めを考慮したゴアテックス縫合糸による前頭筋吊り上げ術:日本形成外科学会会誌,29.2009, 727-732.

◎松尾清. 眼瞼下垂 吊り上げ術:眼科プラクティス19

◎「保険診療と保険外診療の併用について」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/heiyou.html

◎「なるほど診療報酬!」日本医師会ホームページ https://www.med.or.jp/people/what/sh/

 

尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。

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