眼瞼下垂症修正手術(再手術)。修正対象の90%は左右差(低矯正)でした

こんにちは、形成外科専門医の金沢です。
眼瞼下垂がんけんかすい症治療の併発症へいはつしょう(合併症)のひとつに「左右差」があります。(併発症とは、手術後に一定割合で生じる不可避の症状、病気。まぶたはデリケートな場所であり、少しの不具合でも気になるものです。状況によって再手術(修正手術)を検討することになります。)

修正手術の対象になるヒトは20人に1人くらいです。(他の施設の発表でも大体このくらい)。修正手術の対象はほぼ全てが「左右差」「重瞼線じゅうけんの乱れ」です。

私の担当する患者さんで、修正手術になる場合があります。その対象となるものの90%が左右差です。残りが重瞼線の乱れ(浅い重瞼、予定外重瞼線など)です。

記事:『眼瞼下垂とは?』

まぶたの左右差とは…

左右差とは、目の開き具合に差が表れることです。

ヒトは元々顔の表情に左右差がありますよね。鏡で写したように左右対称な人はこの世の中にはいません。(もし左右対称なヒトがいたら不気味な印象を与えるそうです。)

でもね、左右差の度合いが強いとやっぱり修正の対象になります。

金沢のイラスト
かなざわ
私金沢が初回手術を担当した修正患者さんは、低矯正がほとんどです。私個人の手術手技のこだわり(挙筋前転を控えめにする)によるところが大きいと思います。

過去に1例だけ過矯正(開きすぎ)があり修正しました。

目の開き具合(開瞼量、瞼裂縦径の大きさ)を決めるもの

純粋な眼瞼下垂症(下垂の原因が神経の病気や挙筋などの筋肉の病気でない)の手術で目の開き具合を決定する因子は

  • 開瞼抵抗の調節(皮膚、眼輪筋、隔膜とその前の脂肪組織、下位横走靭帯かいおうそうじんたいなど)
  • 挙筋の前転ぜんてん

です。

初回手術でそれらを調節します。しかしながら結果的に不十分に終わり、左右差が生じます。

※術中の調整について

術中にまぶたの開き具合を何度も確認します。解剖学的、病理学的、神経生理学的あるいは医原性(麻酔など)に開瞼量(目の開き具合)の調整が困難になる場合もあります。過度な侵襲しんしゅうが適切でないと判断された場合は無理をせず、適切な(妥当な)位置に収めます。後日次の手段を検討します。

左右差の修正手術の方法は?

目の開き具合が不足する側を調節します。

前回の切開部位を皮膚切開すると瞼板に固定された挙筋腱膜が現れます。その挙筋腱膜きょきんけんまくの前転(前進)を少量追加して改めて縫って固定します。ベルトの穴ひとつぶん締める要領です。

そして皮膚を閉じます。

修正の手術時間は?

 私金沢が初回手術を担当した場合

初回手術でミュラー筋を操作していなければ片目30分程度です。出血も少なく、腫れも初回手術より小さいです。とはいえ術後の安静は必要です。油断は禁物。

 他の医師担当で初回手術の内容が不明な場合

未知数です。結果も保証できません。

関連記事:『眼瞼下垂の他院修正手術はなぜ敬遠されるのか?執刀医視点で解説します』

過矯正(開き過ぎ)を治すのは難しい

過矯正かきょうせいの修正の要領も同じですが、癒着を剥離する必要があります。その上結果が不安定です。

左右差を残すなら低矯正が安全です。

関連記事:『過大開瞼を修正|思い通りにならない眼瞼下垂の他院修正』

修正手術の時期(タイミング)は?

手術の傷は3ヶ月から半年は硬くなります。

傷が成熟(柔らかくなじむ)してから修正した方が再手術の難易度が下がります。最低3ヶ月待つことをお勧めします。

実際のモデル患者さん

5年前に他の医師(他の病院)により両側(左右)の眼瞼下垂症手術を受けました。今回もまぶたが重いとの相談。特に右が下がっています。

両側の眼瞼下垂症手術を行いました。皮膚切開も5年前の手術瘢痕よりやや頭側(上側)に変更。挙筋腱膜は右が特に菲薄化(薄くなって)していました。

腱膜固定けんまくこていの糸もなく、瘢痕はんこんも極めて少ない状態でした。前回の手術内容は皮膚切除のみだったと予想します。

眼瞼下垂他院修正一回目
当院初回手術後3ヶ月、右の低矯正がある

術後、右の開き具合の不足を認めました。そこで、(当院の)初回手術後5ヶ月で右の修正を行いました。

挙筋前転を少し追加しました。

眼瞼下垂他院修正二回目
右低矯正の修正手術後。無事に左右差が改善しました。

当院の初回手術所見

  • 年齢:**
  • 性:女性
  • 手術:両側の挙筋腱膜修復術
  • 皮膚切除:なし
  • 脂肪切除:少量
  • lateral horn リリース:half
  • 下位横走靭帯かいおうそうじんたい:左右とも細いのが発達、リリースした。
  • 挙筋腱膜の滑り:右:0 1(2)3 4 菲薄化著しい 左:0 1(2)3 4
  • 挙筋前転:右:微量 左:微量
  • 腱膜固定:右:2点 左:2点
  • ミュラー筋処理:左右ともなし
  • 手術時間:40分

当院二回目手術所見

  • 前回の腱膜固定系は外れていなかった。これを抜糸した。
  • 前転を追加して縫合3点
  • 手術時間:24分

モデル患者さん2

記事:『眼瞼下垂手術後の修正手術の頻度は何%?』

でご紹介したモニターさんです。右の治療をしたのですが、仕上がりが不十分です。

眼瞼下垂症(右)の治療前後
少しアンダー(低矯正)

挙筋前転の量を追加しました。ベルトの穴ひとつ分締める要領です。

修正手術後
修正後

 

眼瞼下垂症啓発目的に写真を使用することに同意いただきました。ご協力ありがとうございます。

尚、当記事は特定の手術をプロモートするものではありません。まぶたの生理学を追究するものであり、いち形成外科医が考察する雑記であります。皆さんと情報を共有し、まぶたの真理を追究することが目的です。手術自体はリスク(出血、傷が残る、左右差、違和感など)があり、慎重に検討されるべきです。

まとめ

以上、

  • 眼瞼下垂の修正手術の原因は左右差
  • 低矯正を治す方が安全
  • 実際のモデル症例

を提示しました。

さて、あなたは、

  • もともと人は顔に左右差があるって知ってましたか?
  • 手術の結果の左右差を受け入れられますか?
  • 修正手術を受け入れられますか?

よく考えてみてくださいね🤗

追伸

本日は手術見学にいらっしゃった形成外科ドクターとまぶた論議でした。

金沢のイラスト
かなざわ
どうしても左右差が出ることがある。修正できる術式にしておかないとね

 

参考:

眼瞼下垂手術のリスク、併発症(合併症)

短期的なもの腫れ、出血、感染、傷の離開、目の閉じにくさ、視力の変化、ふたえの線の乱れ
長期的なもの眼脂(めやに)・涙の増加、眩しさ、まぶたの腫れぼったさと赤み、稗粒腫はいりゅうしゅ霰粒腫さんりゅうしゅ、縫合糸の露出、目の違和感・ツッパリ感、皮膚の痺れ・痛み、目立つ瘢痕、低矯正・過矯正
仕上がりに関するもの左右差、眉毛下垂・顔貌の変化、まぶたの見かけに対する違和感、眼瞼下垂の再発、眼瞼けいれんの顕在化・悪化

詳細は別記事をご覧ください。『眼瞼下垂症手術の併発症(リスク)をあらかじめ知っておきましょう』

眼瞼下垂手術の費用

健康保険が適用されれば、45000円程度(3割負担の場合)です。

自費診療になると、医療機関によって異なります。40万〜70万円(プラス消費税)です。

詳細は別記事、『眼瞼下垂手術の料金は?健康保険は使えるのか?自費の場合の費用は』

公式LINE版はこちら!(無料)

なぜ眼瞼下垂治療で失敗してしまうのか?20年以上の経験から紡ぎ出された対策です。

そして情報収集の旅もここで完結です。

特典:筆者の手術体験記、本ウェブサイトの鍵🗝付きページへのパスワード、手術併発症リスト(PDF)