治療困難が予想された、眼瞼下垂症の他院修正の計画

他院で3回も眼瞼下垂手術

「4度目の正直」のまぶたの手術に挑んだ患者さんのストーリー

「左まぶたが下がってしまった。過去に3度もまぶたをあげる手術をしたけど上がらず。もう諦めています・・・・」

そう語るのは、別件で皮膚科クリニックを受診した患者さんです。院長の手配で私の外来を受診し、4度目の手術に挑戦することになりました。ずばり「他院修正」です。

その経過は最後に…

目次

過去に手術経験のある眼瞼下垂症の治療計画

「一度まぶたの手術をしたけれども、まぶたが挙がらなかった…」

こんな状況で諦めている60歳以上のヒトはいませんか?

特に、「初めて手術に挑んだのが10年以上前です」というあなた。

まだまだ可能性はあります。

なぜか?

過去にはまぶた手術をする医師が多くいませんでした。そんな中、下がりまぶたで困っている患者さんを助けようと、テキストを紐解いて患者さんを救おうとした外科医(眼科医、形成外科医)が沢山います。

とはいえ、慣れない手術で眼瞼挙筋すら導き出すことができず、皮膚切除のみに終わってしまうケースが多かったと思われます。あるいはなんとか眼瞼挙筋を出せても上手に固定できないことも。。。。

私が担当した、過去に手術経験のある患者さんの中には、眼瞼挙筋が全く触れられていないケースも多くみられました。

その場合は、シンプルな挙筋前転法による眼瞼下垂手術で劇的に改善する可能性があります。

別の見方をすると、

眼瞼下垂症手術のトレーニングを積んだ外科医が初回の手術を担当していた場合は、2回目の手術(挙筋前転法)で劇的に改善する可能性は小さくなります。やるべきことがすでにしっかりやられているからです。

二段構えの治療プラン

手術既往のあるまぶたを治療するにあたり、まぶたの中がどうなっているか開けてみないと分からないという状況です。(ココが2017年現在の医療技術の限界・・・・・)

  1. 挙筋前転法
  2. 無効なら筋膜吊り上げ

となります。

挙筋前転法による修復

硬い瘢痕をさばき、解剖を明らかにします。まぶたを持ち上げるブレーキになる構造を外していき、眼瞼挙筋を瞼板(けんばん:まぶたのふちにある軟骨様の白い板)に固定します。

一旦、ここで終わりにし、経過を観察(3ヶ月程度)します。

これで不足があれば次の手段を検討します。

筋膜移植による吊り上げ術

前頭筋(おでこの横ジワをつくる、眉を持ち上げる筋肉)のチカラを利用してまぶたを持ち上げる方法です。挙筋前転法よりも犠牲が大きいのが欠点です。

  • 太ももの筋膜を採る必要がある
  • 眉上にも切開を入れる
  • まばたきが自然でない
  • うえまぶたが自然に下りてこない

などのデメリットがあるので、これを選択するにあたっては十分な理解が必要です。(関連記事:筋膜移植の課題)

「まぶたを切って開けてみないと眼瞼挙筋が利用できるかどうか分からない」と言う状況で、吊り上げ術を最初から選択するのは勇気がいる行為です。

したがって、

まずは挙筋前転法、無効なら吊り上げ術という二段構えになるわけです。

さて、冒頭に示した「4度目の正直」の他院修正手術患者さんです。

左の眼瞼下垂症です。

「過去に受けた眼瞼下垂症手術の内容は分かりません。。。」

という状況でしたので、まぶたを持ち上げる筋肉が動いているか不明です。

患者さんのお話を拝聴するに、過去の手術を担当した医師はまぶたを専門にしていないと予想されました。

したがって、可能性があると見込まれました。(もちろん無効に終わる可能性もあります)

治療プランと実施

  1. 挙筋前転法を試みる
  2. それが無効なら後日筋膜移植による吊り上げをすること

を予定しました。

挙筋腱膜に縫合糸が何本も絡みついていたが、眼瞼挙筋は動いていた!

縫合糸を可能な範囲で摘出(深追いすると組織を壊すので摘出しない糸もある)。瘢痕によるまぶたの硬さを解除し、挙筋腱膜を瞼板へ固定しました。手術時間は35分でした。

治療の結果は

無事に良好な結果が得られています。

他院修正四度目の正直

左の眼瞼下垂。眉の挙上が顕著。術後は自然にまぶたが開くようになり、眉の高さも揃ったのがわかる

しっかりまぶたが挙がると目を閉じるのが難しくなるのでは?なんだか心配・・・という声が聞こえます。
挙筋の前転を強くしなければ大丈夫、、、なはず。

(注意)ちなみに、筋膜移植だと閉じにくくなるのは間違いないです。

下の写真をご覧下さい。

他院修正後

眉位置が下がるだけで皮膚にゆとりができる

余裕をもって目を閉じることができるのが分かりますね😄

この写真からもうひとつわかること=不眠と眼瞼下垂

眼瞼下垂治療前の写真は、目を閉じているときも眉毛位置が高いです。

この現象、眼瞼下垂症の患者さんが不眠になることとつながっています。目を閉じているのに、休めないんですね。

眼瞼下垂症手術をして「睡眠の質が上がった」との声をよく聞きます。うれしい副作用です。

(補足)眉位置が高いと、皮膚がつっぱり、瞬きで目を閉じるのが遅れます。そう、ドライアイになりやすいです。

腱膜性眼瞼下垂でお悩みのかたのために、写真を使用することを承諾いただけました。心より感謝申し上げます。

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この記事を書いた人

金沢 雄一郎のアバター 金沢 雄一郎 形成外科専門医

医師免許(第400795号)、医学博士。形成外科専門医。大学病院で眼瞼専門外来を設立。2016年からは独立医師に。所属学会:日本形成外科学会、日本美容外科学会。
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