眼瞼下垂の手術後にふたえの線が乱れることがあります。
「三重になっちゃった😓」
「二重の線が二股に…」
などと表現します。
手術後1週間までの間に現れる併発症(合併症)です。
予定外重瞼線(よていがいじゅうけんせん)
keywords: multiple upper eyelid fold, triple fold
意図しないところで折れ線ができてしまうこと。これは、見た目の問題だけではありません。
まぶたの動きにロックがかかってしまい、まぶたが重くなります。
機能的にも問題…。
予定外の線、予定外線と呼ばれることも。
「予定された重瞼線」とは?
切開した場所が、二重の谷間になるようにデザインします。
切開した場所に挙筋腱膜のはしっこを連結。目を開く時に、挙筋が後退して腱膜が引き込まれます。すると、連結された切開部位(縫合部)が最も奥に引き込まれ、二重の谷間になって折れ畳まれるのです。
なぜ予定外重瞼線ができるのか?
複雑な要因が絡み合っており、不明な点も多いです。
現時点でわかっているのは
- 挙筋の動きの伝達が悪い:挙筋の動きが弱くて谷間が引き込まれない(先天性の人は二重にならない)
- ミュラー筋の方が動きが強い:相対的に挙筋の動きが遅れるから
- まぶたのボリューム不足:窪み目。手術による軟部組織の処理も原因
- 眼球突出タイプ:瞼が薄く、前葉と後葉とが広く連動してしまう傾向
- 術後の腫れが強かった場合
- もともと癖の強い二重の線がある場合(過去の手術も)
- 自然な、柔らかいふたえの仕上がりを追求する場合:関連記事『眼瞼下垂手術の修正の頻度』
あらかじめ上記の要素が複数認められた場合は予防処置を講ずる場合もあります。私がするのは福田先生の「袋とじ法」。もしくはナイロン糸での吊り上げプルアウト法。
しかし、悩ましいこともあります。それは、手術直後は「予定外重瞼線が出る徴候」が見えにくいことです。😂
したがって、1週間後の抜糸に来院した時に「予定外重瞼線」をはじめて観察することになるのです。
そして重要なこと。あらゆるベストを尽くしても、できてしまう人はできてしまうことです。外科的に治すことに限界があるということです。
目頭側と目尻側の線がふたまたに分かれる場合
もともと重瞼線は「低位」と「高位」の2つあるのが原因。ある程度は止むを得ない現象。
関連記事:『重瞼線は2本ある。それゆえ目頭側の重瞼線がふたまたに見えることも』
関連記事:『眼瞼下垂症術後に目尻の重瞼線がふたまたに|二重(ふたえ)の線はもともと2つある』
予定外重瞼線ができてしまったら…
まずは経過を見ることが多いです。腫れが退いてくるとともに挙筋の動きが改善し、自然に治る人が多いからです。その経過を最後にお示しします。
予定外重瞼線が見られたらこのトレーニングを試してください
通称、「挙筋トレーニング」です。
治らなかったら…
しかし自然に治らない人もいます。その場合は修正手術の対象に。担当医に相談しましょう。
ちなみに「予定外重瞼線の修正」を報告した論文はこちら。Plast Reconstr Surg. 2011 Mar;127(3):1323-31. Surgical correction of multiple upper eyelid folds in East Asians. Lew DH, Kang JH, Cho IC.
私の具体的な方法は以前紹介したこちらの記事(ナイロン糸での吊り上げ法)。

実際のモデル患者さん1
コンタクトレンズを20年装用。眼瞼下垂症手術(挙筋腱膜修復術)を行いました。
術後2週間で、右まぶたに予定外重瞼線(multiple upper eyelid fold)が観察されます。

「挙筋トレーニング」を指導、そして実践していただきました。
修正手術をすることなく、無事に解消することができました。ホット胸を撫で下ろしたのを覚えています。
実際のモデル患者さん2

術前の評価
- 腱膜性の眼瞼下垂
- 幅広のふたえのラインの癖が強そう
- この幅広ふたえ幅のままで仕上げるのは困難
- 皮膚の追従性がとぼしい(伸縮性、弾力性がない)
- もう少し幅の狭いふたえを作りたい
いちばんの問題は、目つきの変化が予想しにくいこと。
まずはシンプルに挙筋の修復を行いました。余計な手技は混乱の元😓
眼瞼下垂症手術:挙筋前転法
もとのふたえのラインを残すのは難しいので、新たなふたえのラインを作りました。
「挙筋前転法」とは言え、無理に前転はしません。緩んだ腱膜の固定を行うだけです。術中写真です。縫合糸で挙筋腱膜と瞼板とを連結している場面です。白い挙筋腱膜が広く観察されます。無理に前転をしていない証拠。
刺激のある写真なのでモザイクがかかっていますが、クリックやタップで元画像がご覧になれます。

「頑固なふたえのラインがいやらしいなあ。」「余計なラインの原因になりそうだなあ。」そんな不安を持ちながらの手術でした。
でも手術終わって見たら…「大丈夫そうだぞ!」
と思ったら…やっぱりダメでした。
結果、右まぶたに予定外のラインが現れました。悔しい😭
お直しを提案しましたが、ご本人は「このままで良い」とのことでした。そのまま経過観察しております。

あなたはこの「余計なライン」受け入れられますか?
吊り上げで治したモデルケース3
このケースは挙筋トレーニングで治らず、修正手術で治しました。

以下の記事にまとめています。参照してください。

まとめ
以上、
- 眼瞼下垂手術後の予定外重瞼線(三重の線)
- 自力で治す挙筋トレーニング
- 実際のモデル症例
を提示しました。
さて、あなたは、
- 三重の線がもともとありますか?
- 三重の線が出やすい体質が理解できましたか?
- 挙筋トレーニングで眼瞼挙筋のチカラを動員するイメージがつかめましたか?
ぜひ、挙筋を動員するイメージをつかめるよう練習してみてください。
あとがき
平均的な人(患者さん)ってこの世に存在しないんですよね。これ、外科医にとってはとても重要。人それぞれに特徴があり、いびつなパラメーターを持っているものなんです。個人に最適化した治療をプランします。オーダーメイド治療ともいいます。