「手術の失敗ってないの?リスクはないの?」
心配になりますよね。当然です。そして実際にリスクはあるのです。
それらをすべて解説しますね。
眼瞼下垂手術前にあらかじめ理解しておくべき併発症(合併症)
手術併発症(合併症)とは、手術後に一定割合で生じる不可避の症状、病気。自然経過で改善するものもあれば、追加治療・追加手術を必要とすることもあります。
一方医療過誤、医療ミスは別です。これらは左右の取り違え、薬品を間違える、患者データを取りちがえる、などが「ミス」に該当します。
最善を尽くしても生じるものが「併発症(合併症)」です。リスクともいいます。
まぶたは極めてデリケートな部位であり、100%の満足を保証することはできません。それぞれに対処法(限界も)がありますが、十分に理解、検討した上で手術治療を受けましょう。
修正手術は術後3〜6ヶ月以上経過し、キズが成熟(注)してから行います。
注:キズの赤みが退き、硬さがこなれてやわらかくなること。
眼瞼下垂症手術の併発症は少なからず起こります。期間で分けると、短期的(手術〜4週間)に起こる併発症、そして長期的に起こる併発症に分けられます。
加えて、まぶた治療に特有の併発症が、仕上がりに関するものですね。

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短期的(手術〜4週間後くらい)
□腫れ
手術後2〜3日をピークに上まぶたが腫れます。下まぶた〜頬の腫れを感じる人もいます。
□出血(内出血)
術中、もしくは術後の出血により紫斑(青あざ)ができます。血腫の自然吸収を待ちます。1ヶ月程度要します。抗血小板薬を内服していると出血リスクは上がります。
関連記事:『眼瞼下垂手術後の出血斑(青あざ)は何日できれいになる?』
術後の「血の巡りが良くなるような行為(入浴で熱い湯に浸かる、激しく運動するなど)」は出血リスクを高めます。
□感染(化膿)
糖尿病や免疫の弱い方はキズが化膿する可能性があります。極めて稀です(私は経験なし)。万が一化膿した場合は、抗菌薬を飲むか、キズを開いて膿を出します。
□傷が開く
手術後に、打撲をするとキズがひらきます。十分に注意しましょう。最悪キズが開いてもキレイに治ることが多いのが救いです。
関連記事:『眼瞼下垂手術後にまぶたを打撲して傷がパックリ…』
□目の閉じにくさ
眼輪筋の瞼板部(まぶたのフチ)のチカラが一時的に麻痺します。その結果まぶたをギュッと閉じるのが難しくなります。1ヶ月程度、洗顔時に石鹸が目にしみたり、夜間に目の乾きを感じることがあります。点眼薬で対処します。
□視力・乱視の変化
眼球を押さえているまぶたの位置が変わることによる、角膜形状の変化が原因とされています。他には、「ミュラー筋の緊張の変化によるもの(仮説)」、「いわゆる細目の状態が解除されることによる視力障害の顕在化」などの説もあります。3から6ヶ月程度不安定な(変動する)こともあります。安定したらメガネを作り直しましょう。ちなみに、姿勢の変化によってメガネが合わなくなることもあります。
参考文献は記事最後に
□ふたえの線の乱れ
予定した位置でまぶたの皮膚が折れず、ふたえのカタチが期待通りにならないこと。二重(ふたえ)が浅くなることや、三重(予定外重瞼線)になることも含まれます。状況に応じて修正手術の適応になります。
ただし、仕上がりの追求には限度はあります。
関連記事:「眼瞼下垂症術後に目尻の重瞼線がふたまたに|二重(ふたえ)の線はもともと2つある」
「予定外重瞼線の出現をあらかじめ予想し、予防することは難しい」
「予定外重瞼線って?ふたえの線の他に余計なラインがもうひとつ」
長期的(4週間〜1年)
□めやに・涙の増加
目がうるうるしたり、起床時に眼脂(目やに)がまぶたに付着するのを感じます。半年程度で落ち着いてきます。涙が増えるのでドライアイの症状が改善することもあります。関連記事:『術後の術後のめやに』
□まぶしさ
眩しさを感じます。外出時はサングラスを着用することをおすすめします。眼瞼けいれんの症状のひとつとして現れることもあります。
□まぶたの腫れぼったさや赤み
腫れや赤みはすべての手術患者さんに現れます。半年経過しても腫れぼったさ(と言うよりは浮腫み)や赤みが残ることも。もともと腫れぼったいヒトや、眼輪筋の緊張の強いヒト(男性に多い)にその傾向が見られます。関連記事:『術後の腫れ』
□稗粒腫
キズの真上もしくはその周囲皮膚に0.5~1mm程度の白く隆起した斑点が現れます。毛穴や脂腺開口部がふさがって角質が詰まることが原因。自覚症状はありません。放置すれば自然に退縮します。長期間改善しない場合は針でつついて内容を排出します。
関連記事:「眼瞼下垂手術後の白いぶつぶつは稗粒腫(はいりゅうしゅ)かも」
「まぶた術後併発症の稗粒腫(はいりゅうしゅ)。白い小さなしこりがキズの近くにできます。」
□霰粒腫(ものもらい)
瞼板(けんばん)より生じる肉芽腫。切開瘢痕直下にコロコロとしこりを触れます。大きくなったり小さくなったりします。目立つ、もしくは長期間改善しない場合は小切開(局所麻酔)で肉芽を掻爬(掃除)します。
関連記事:「霰粒腫(さんりゅうしゅ)でまぶたにしこりが。赤く腫れることも。」
□皮膚・皮下の硬結(しこり)
手術侵襲に対する創傷治癒過程で、部分的に固い瘢痕が生じます。半年程度で柔らかくなってきます。
□縫合糸膿瘍・露出
縫合に用いた糸に対する異物反応が起こる事があります。膿ができたり、外から透けて見えたり、糸が露出してきます。糸の摘出をします。
□目の違和感・ツッパリ感
違和感やツッパリ感は個人差はあります。手術直後は必ずありますが徐々に慣れてきます。大なり小なりキズ自体の違和感は残るものと思っておいた方が良いでしょう。
□まぶたのピクつき
上まぶた、もしくは下まぶたがピクピクします。眼瞼ミオキミアです。自然に治ります。
□まぶたの皮膚のしびれ・痛み
皮膚切開部の皮膚の知覚が麻痺します。徐々に回復しますが、回復過程でピリピリ感が出ることもあります。完全に回復しないこともありますが、日常生活には支障ありません。メークする習慣のないヒトは気づかないこともある現象です。
関連記事:「眼瞼下垂手術後の皮膚のしびれ(知覚鈍麻)と知覚過敏」
□切開縫合部の目立つ瘢痕
目尻側の傷跡の幅が広くなることがあります。若年ほどそのリスクがあります。また、目頭側の瘢痕が拘縮して、まぶたの動きを制限することもあります。キズが成熟(注)してから修正手術を検討します。
関連記事:「眼瞼下垂症術後のきずあとが目立つ4つの構造的要因」
□低矯正・過矯正
期待したほどまぶたが挙がらない(低矯正)、もしくは挙がりすぎる(過矯正)ことです。修正手術の適応です。そもそも眼瞼挙筋の筋力の限界で低矯正になることもあります。この場合はリカバリーが困難です。
関連記事:「眼瞼下垂症修正手術(再手術)。修正対象の90%は左右差(低矯正)でした」
□眼瞼けいれんの顕在化・悪化
まれに潜在的に眼瞼けいれんを持ち、術後に悪化することがあります。眩しさ、目のショボショボ感、まぶたの重さを強く感じます。追加手術やボツリヌス毒素注射治療を検討します。
仕上がりに関する併発症
□左右差
まぶたの開き加減の左右差。3〜6ヶ月経過して変わらなければ(人から指摘される程度の左右が残ったら)修正手術の対象となります。もともとの筋力や骨格の左右差、神経支配、利き目、利きマブタ、ヘリング効果など左右差を作る要素はたくさんあります。鏡で写したような左右対称はあり得ないものと思いましょう。関連記事
二重のカタチも左右差がでます。皮膚のかぶさり方、目頭のカタチ(末広、平行)なども左右差がでます。
加齢が進むほど左右差が顕著に現れます。
□眉毛下垂・顔貌の変化
おでこの筋肉(前頭筋)の緊張が低下することにより眉の位置が下がります。顔つきが変わったように感じます。目尻の皮膚もかぶさります。おでこの緊張も月日とともに回復し、眉の位置がふたたび上がってくることもあります。
関連記事:「眼瞼下垂症術後に鼻根部の横皺が濃くなるのに気づいた?」
関連記事:『せっかく眼瞼下垂の手術をしたのに、皮膚がむしろかぶさってくる?』
□眼瞼の仕上がりに対する見た目の違和感
「もう少し丸い形が良い」「内側ピークが良かった」…などなど目の形に対するこだわりがあり、期待通りにならないことです。元々の骨格や皮膚・脂肪の厚みなどの影響で、仕上がりには限界もあります。
□睫毛外反
睫毛が上を向くことです。睫毛が貧毛の場合、睫毛の奥のwaterline(ピンクの結膜部分)が目立つようになります。修正は困難です。
関連記事:「waterline show(ウォーターラインショー)|眼瞼下垂症」
□眼瞼下垂の再発
機械的な刺激(こする習慣、コンタクトレンズ、打撲など)により腱膜の連結がゆるみます。加齢現象として、経過した年月に相当する変化(骨格や皮膚、軟部組織の変化)による下垂の進行はあります。再手術の適応です。
失明リスクは?
眼球を触る手術ではありません。失明リスクはよほどの事故がない限りはないでしょう。
あなたにできることは?
まずは「過去のまぶた治療歴」をしっかりと担当医に伝えてください。そして短期的な併発症を減らすよう、傷を治すことに専念します。それ以外に関しては、努力でコントロールできない部分が多いので成り行きです。生じた併発症を受け入れ、対処していきましょう。
あとがき
これだけ多くの併発症を見せられると怯みますよね。実際、これらのトラブルを受け入れる覚悟ができるかどうかは個人によります。
眼瞼下垂症手術って形成外科医が結構受けているんです。かくいう私もね。私の体験談はこちら^ ^
参考
◎島倉康人ほか:眼瞼下垂症手術の合併症とその対策 形成外科 53(1):57-63 2010
◎鄭暁東「眼瞼下垂症と視機能・眼瞼圧」雑誌形成外科 2019vol.62(3)p.237~245